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69、証言

 

「紫乃先輩って結構可愛いですよね」

 京都タワーの足元のコーヒーショップはめくるめくエアコンの世界だった。

「弓奈お姉様には及びませんが、一年生のあいだでは密かに人気なんですよ先輩。お気づきかどうか分かりませんけど」

「ちょっと黙ってて下さい」

 紫乃は地図を睨みながら女子校を片っ端から探して手帳にその名前をメモしている。

「その髪、どこで切ってもらってるんですか」

「京都市立船岡山女学園・・・」

「女の人の体でどこが一番好きですか」

「嵐山聖ウルスラ女学院・・・」

「私はおももが好きです! おもも!」

「あかりさん。あなたはわざわざ京都まで何をしに来たのですか。少しは手伝って下さい」

「だってぇ、その姉妹校の情報が全然無いだなんて聞いてなかったんですもーん・・・」

 あかりはテーブルに突っ伏して頭の上に抹茶のミルクフラッペを乗せた。

「ちゃんと座らなきゃダメです。はしたないです」

「あー、せめて学校の名前だけでも分かればお姉様に会いに行けるのにぃ・・・」

「片っ端から当たるしかありません」

「この学校全部ですか」

「はい」

「えー」

「えーじゃないです。弓奈さんに会いに行くにはこの方法しかないんです。例えば図書館のパソコンで京都の高校を検索し、その学校に姉妹校があるかどうか、それがサンキスト女学園であるかどうかを調べるという方法は使えません。なぜならサンキスト側が秘密にしていることを相手方が公開してるはずがないからです」

「学校に直接行ったらそれ解決するんですかぁ?」

「学校の教諭がウェブサイトに掲載されないような機密情報を突然訪れた素性も知れない東京弁の高校生に漏らすはずがありません。ですが、生徒は別です。弓奈さんのような女生徒が来校し滞在しているとあらば必ず騒ぎになっているはずなんです。その・・・目立ちますからね。弓奈さんは」

「つまり高校生に聞き込み調査をするってことですね」

「弓奈さんを追うのであればそれが可能です」

「ほぇー」

 あかりは紫乃先輩の冴えきった頭脳に敬意を表し、紫乃のアイスコーヒーのストローをくわえてちゅーちゅー吸った。

「ハァおいし。ねぇ先輩。今回はいつになく真剣ですけど、どうしてですか?」

「わ、私はいつでも真剣なんです・・・」

 自分が弓奈に夢中にであることを後輩に悟られたくない紫乃は照れ隠しにアイスコーヒーを飲もうとしたが、あかりが目を輝かせて唇を見つめてくるのでストローに口を付ける前にやめた。

「もう出ましょう」

「あ、間接キス失敗」

「今日はこの辺り、駅前で聞き込みをしますよ」

「え、なんでですか?」

「京都駅には一日何十万人も人が往来しているんです。あちこちの学校に足を運びながら探るより効率がいいかも知れません」

「なるほどぉ! さすが先輩ですぅ!」

「ちょっと、お顔が近いです・・・」

 あかりの所持する手鏡のフタには弓奈の写真が貼ってある。二人はこれを利用し、女子高生に聞き込み調査を開始したのだった。




「ダメですせんぱーい!」

「だから、お顔が近いです・・・」

 二人の汗は無駄になった。弓奈に関する情報は一切得られなかったのだ。

「みんな、きゃーこの子だれぇ! めっちゃかわいいやーん! やばいワー! どこにおるーん!? ばっかりです。どこにいるか分からないから訊いてるのにぃ」

 写真を見るために百人近い女子高生が集まったが誰一人として目撃したという者はいなかった。紫乃たちはこの街の広さを甘く見ていたようである。

「高校生にしか声を掛けない作戦がダメなんじゃないんですかー」

「・・・そんなことないです」

 紫乃はこの捜索法を提案した張本人なのであとに引けなくなっているのだ。

「試しに違う人にも訊いてみましょうよ」

 あかりは広いバスターミナルを見渡して、携帯電話をいじる大学生くらいのお姉さんに目を付けて近づいた。

「こんにちは」

「え・・・こ、こんにちは」

「ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが、今よろしいですか」

「はい。大丈夫です」

 京都市民は道に迷った観光客などから声をかけられることが多いので、突然話しかけてもあまり警戒せずに話を聴いてくれる人が少なくない。

「私たち人を探してまして、えーっと、この人なんですけど」

 手鏡の写真を見たとたん彼女は「はぁ!」と言って飛び退いた。

「こ、この人・・・」

「見たんですかぁ?」

「はい。昨日の夕方に・・・」

 彼女は自分の手をさすりながら頬を染めてうっとりと空を仰いだ。

「私一目惚れしてしまって・・・向こうにある信号で隣り合った時に握手してもらいました・・・」

「いいなぁ」

「そ、それで弓奈さんはどっちへ行ったんですか!」

 女子大生に詰め寄り、勢い余って彼女の胸に飛び込んでしまった紫乃を、女子大生はそっと抱きしめた。

「北へ上がっていきましたよ。四条とかがある方向です」

「北ですか・・・」

 ビルの隙間にギラギラ輝く北の空を紫乃は女子大生の腕の中から見上げた。

「貴重な証言ありがとうございました。あかりさん、行きますよ」

「はい!」

「あ、あの・・・!」

 女子大生は二人を呼び止めた。

「あなたたちは、一体・・・」

 振り返った紫乃は足を揃え背筋を伸ばしてお辞儀をした。星の夜の透き通る暗闇をそのまま流したような紫乃の髪が、女子大生の瞳の中で麗しく揺れた。

「名乗るほどの者ではございませんが、私立サンキスト女学園生徒会二年鈴原紫乃と」

「一年の津久田あかりです」

「同じく二年の倉木弓奈を探してここ京都へ参った次第でございます。ご協力本当にありがとうございました。それでは、お体にお気をつけ下さいませ。ごきげんよう」

 女子大生は待っていたバスが行ってしまうことを気にも留めず、二人の後ろ姿が人波にほどけて消えて行くのをいつまでも眺めていた。

「か、かっこいい・・・」

 

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