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38、これ見て

 

「ちょっと! これ見て」

「わあ!」

 舞が突然部屋に押し掛けてきたので舞の友達はクローゼットの角に左足の小指をぶつけた。

「舞さぁ・・・ノックしてから入ってよ」

 舞の友達は着替え中だったので半裸である。

「ノックなんかしてる場合じゃないの。いいから見てってば」

「寒いから早くドア閉めて・・・」

 舞が差し出したのは三枚の洋封筒だった。それぞれ別の差出人からのものと思われる。

「これが何なの」

 舞の友達は彼女に背を向けてから制服のシャツを着てセーターを羽織った。

「うわー鈍感。しょうがない、見せてあげるよ」

 自分から部屋にやってきて随分な物言いである。舞は一番上の封筒を開けて白い便箋を取り出した。

「読んでみな」

「なんでよ・・・」

「いいから」

 舞の友達は便箋を受け取って椅子に腰掛けた。



『お姉様へ。突然のお手紙でごめんなさい。実は私、この前のサンキスト女学園の学園祭に友達と三人で行ったんです。来年そちらの学校を受験しようと思っているからです。そこで私はあなたを見ました。なんて素敵なひとなんだろうって、私感動して体がジュン・・・ってなりました。お声はかけられなかったのですが、遠くから眺めているだけでとても幸せでした。その日以来、私は毎晩ベッドの上であなたのことを考えます。そして夢の中にもあなたが登場し素敵な笑顔を私に下さいます。あなたは私を優しく抱きしめて、なでなで、ちゅっちゅして下さいます。とても幸せです。サンキスト女学園は名門校なので受かるのは難しいですが、もしお姉様の後輩になることが出来たら、その時は私・・・。 胡蝶蘭女子大学付属みどり中学校3年、梨岡希美』



「じゃーん! ラブレターでしたー」

「その時は・・・なんなんだろう」

 舞は友達のベッドに勝手に大の字で横になった。

「いやー、私不思議だったんだよねー。なんでモテないんだろうって。私こんなにかっこいいのに」

「舞・・・それは多分性格が」

「後輩にモテちゃうタイプだったんだー。あー謎が解けた」

 舞が調子に乗り始めた。舞の友達は舞の胸の上にラブレターを置いた。

「喜んでていいの? この学園恋人禁止じゃなかったっけ」

「このベッドさ、あんたの匂いがするね」

「真面目に聴いてよ・・・」

「よく知らないけど、女女交際はオッケーじゃないの? 」

「変な日本語作んないで・・・。仮にそうだとしても、ラブレターは三通も来てるんでしょ・・・いい加減な気持ちでいると皆可哀想だよ」

 舞の友達は実にイイ人である。例えるのであれば王様に恵まれない優秀な家来だ。

「いやー、モテる女はつらいわ」

 舞は尖った歯をキラキラさせて笑った。

「他の二通も読んだの?」

「ちらっと読んだ」

「ちゃんと読んであげようよ・・・」

 舞は二通目の便箋を友達に差し出した。

「読んで」

「・・・はぁい」



『はじめまして、お姉様。私はみどり中3年の蒔崎亜理沙と申します。完結に申し上げますと、これは恋文です。私があなたを愛してしまった理由は、あなたの声にあります。私は耳を澄ませば数百メートルの距離を越えて人のささやきを聞き取ることが出来るので、反対側の校舎の窓からでもあなたの美しい声を感じることが出来ました。私は全身が熱くなってしまう音を生まれて初めて聴いたのです。とても恍惚とした体験でした。私は脇で騒いでいた友達の口をこぶしで塞いであなたの声にひたすら聴き入ったのです。もし私がサンキスト女学園に入ったら、もっといろんな声を私に聴かせて下さいね。私は毎日お姉様の声を聴きに行きます。いつでも・・・どこへでも・・・。愛していますよ、私の可愛いお姉様』



「いやーモテモテだわ」

「この子・・・ちょっと危なくない?」

 愛にも様々な形があるのだ。

「そんなことより、あんたはラブレターみたいなもの貰ったことないの?」

「あるわけないでしょ・・・」

「ファイトファイト。テニス部員が簡単にあきらめるなー」

「いや・・・あきらめるとかそういう問題じゃないから」

 それでも舞の友達はうるさい舞を黙らせるために自分の部屋のポストを確認してみることにした。授業は明日からなので学園からの書類は来ないはずなのに、中には一枚の手紙が入っていた。



『来年度の予算会議の日程および場所が変更になります。会議は2月29日(月)に学舎一階の第一会議室にて行うことになりましたので各部長向けの伝達書類を作成し一月中に投函しておいて下さい。・・・あと雪乃のことだけど、なぜかこの学園に住みたいって言ってきかないの。前はあんなに人がいる場所へは行きたくないっていってたのに。あなた何かしたの? とりあえず上記の仕事お願いします。学園長より』



「なにそれ」

「なにこれ」

 なぜ舞の友達の部屋に学園長からの手紙が来ているのだろうか。

「舞・・・三つ目のラブレター読ませてもらっていい?」

「あ、うん」



『お姉様へ。学園祭の時は本当にありがとうございました!! まさか学園のお姫様にお会い出来るなんて思ってなかったのにサインまで貰えて、私、感動で胸がドキドキヤヨイドキ! 私いっぱい勉強して必ずお姉様の後輩になってみせます! 生徒会長様にもよろしくお伝え下さい! お姉様大好きですッ! 胡蝶蘭女子大学付属みどり中学校三年六組 津久田あかり』



「舞・・・これ階を間違えて配達されてるんだよ」

「は?」

「だってこれどう読んでも倉木さん宛てだもん」

 舞たちの丁度真下に弓奈と紫乃の部屋はある。

 

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