04.でもね、きみに会えたよ。
「保健室で! ふたりで! ナニしてたの!?」
「何もしてないし! ただハルくんのこと叱ってただけで、その」
「かなかながねえ、おれが呼んだら会いに来てくれるんだって。どこにでも来てくれるんだって。ねー、かなかな」
「つまりいちゃいちゃしてました、と! 思う存分いちゃいちゃしました、と!」
「ちちち、ちが! なんでそういう……!」
「照れてるんだよねえ、かなかなは」
悪いけど、まったく。
これっぽちも。
一ミリたりとも、照れてないし。
と思ったのはさておき、保健室から戻ってお昼休みの教室。
なぜかあたしの席に当然のように集まってくる、ハルくんと果歩。
隣の席の子にちゃっかり椅子を借りて、右隣に座るハルくん。
わざわざ前の席の子に椅子を借りて、またがるように座る果歩。
「ちょっと、狭くない?」
「だって、かなかなの顔見ていたいんだよー」
「わたしだってそうですよ! かなかなの顔見ていたいんだよー!」
「果歩、うるさい……って、ハルくんお弁当は?」
へらっと笑ったその顔に視線を放つと、相手ははじき返すように小首をかしげた。
かわいい女子にのみ許されるそのしぐさに、こみ上げる苛立ちをぐっと飲み込む。
このあざとさが気持ち悪いならまだしも。
違和感なく、ちょっとかわいいと思ってしまった自分に腹がたつ。
「おれ食欲ないし、気にしないで」
「昨日もおとといも、その前もそういってたけど」
「そうだっけ?」
「そうだっけじゃないの。少しでもいいから食べないとだめなの」
「ええ、でもやっぱいいよー」
教室にズカズカと入ってきたり平気で授業をサボったりするのに。
なぜこんなところだけ遠慮がちなのか。
まったく理解できないし、したくもない。
ひょろっとした身体。
筋と骨が浮いた腕。血色の悪い肌。
ハルくんは身長があるのに、まったくといって筋力がなさそうに見える。
それにはやくケガを治すのなら、まずは食生活から改善すべきだ。
「あー! もう! 全然っ、よくない!」
発言とともに行動。
目の前に用意しておいたお弁当箱を、すばやく右へと移動。
「食べて。あたしがつくったんじゃないけど、味は保証するから。うちのお母さん、料理だけはまともだから。口はウルサイけど。まあ間違いなく昨日のばんごはんの残りだけど、とにかく食べて。そもそもハルくんはちゃんと食事してるの? 余計なお世話だけど、それじゃあケガも治らないでしょ。保健室でもナカちゃんにしかられてたんだし、ちゃんと食べて、しっかり寝て、しっかり休んでよ。そんなんだから、心配で、」
滑り出した言葉は止まらない。
瞬間、口走りかけたモノに点火する皮膚。
「ほうほう。心配でたまらないと。ほうほう」
「か、果歩……!」
呼吸と思考を止めることで抑えていた言葉が、前の席から流れ出した。
果歩がにやにやと笑って、フォークを空へと示す。
「センパイ。あたしもそう思いますよ? はやくケガ治して、三人で外で遊びましょうよ! あ、ふたりきりがいいなら、あたしは退散しますけど。ぐへへ」
ぐへへ、は余計だったけど。
果歩の差し出すフォークをハルくんはゆっくりと受け取った。
いまにも泣き出しそうな、あのときみたいな情けない顔をして。
『ごめんなさい』
すきとおった、こぼれおちる。
青の呪縛。
「……いただきます」
そうして開かれたお弁当の中身は、五分もたたずに消え去った。
おいしかったけど、足りないよ。
あと、かなかなの分のお昼も買いにいこうよ。
と、ハルくんがうつむき加減であたしのソデ引いた。
なんでそんな恥ずかしそうなのか、不思議で仕方なかったけど。
席から立ち上がったあたしに向けられた笑顔がなんだかうれしかったから、しょうがないとうそぶいて、手を差し出すことにした。
「青春、甘ずっぺえ……!」
すみません。
理解不能です。
それに視線が突き刺さっていたいです、クラスのみなさん。