01.だれかがいったんだ。
いつも見ていた。
だから気づいた。
『バカじゃないのアンタ!? 死にたいの!?』
とっさに、体が動いた。
窓枠に手をかけたときには叫んでいた。
授業中の校舎に響き渡る自分の声。
次いで聞こえた、だれかの笑い声。
あの青から降りそそいだのは、泣き声だった。
** *
「おっはよ、かなかな!」
「……果歩」
「そんなに怒ってるとシワよっちゃうよ? 血圧あがっちゃうよ?」
ユウウツがカタチをなしたため息は、登校したばかりの友達に跳ね返されてしまった。
どうして常時ハイテンションな果歩とこんな親しい関係になったのか、いまだにわからない。むしろ永遠のナゾである。
席が前後でもなければ、間違いなく関わることはなかった。
と、いまでもそう思う。
「なんでアンタと友達なのか、いまだに悩むわ」
「えー! フォーリンラブでしょ!?」
「イイエ、チガイマス」
「ちょ、カタカナ発音になってるよ! どんだけイヤなの!?」
ボケもツッコミも万能な果歩を尻目に、また盛大なため息をついた。
くもっていくガラス。
窓の外は、青。
あの日もあたしはこんなふうに外を見ていた。
タイクツな授業。わずかなザワメキ。かすかな眠気のなか。
横切るは、白。
失われた、青。
「でもでも、かなにフォーリンしちゃったのはあたしだけじゃないもんねー!」
後ろの席にいるはずの果歩が、正面に回ってあたしを見る。
息荒く、興奮したように頬を染めて。
「そろそろ、お出ましじゃない?」
窓の外には、いつも青が見えた。
肩肘ついて、ため息ついて、空を見るのがあたしの日課だった。
いつからだったろう。
青以外のモノが目に入るようになったのは――――。
「ほら! きたきたきたー!」
果歩が立ち上がって、教室のドアに体を向けた。
ここ数日、果歩は廊下から聞こえるあの音にやたら反応する。
ゆっくりと踏みしめて、わずかに引きずりながら。
乾いた廊下に響く、足音。
ホームルーム前のザワメキは、一瞬にして静けさに変わる。
教室にいるクラスメイトたちの視線。一斉砲火。
「あのー、かなかないますか?」
いません。
だから帰ってください。
そういったら、またあの青へ戻ってくれますか? ハルくん。