prologue.飛ぶならいまだって、
(飛ぶならいまだって、だれかがいったんだ。)
「だめかしら」
放課後。チャイム。
次に聞こえた校内放送に、耳を疑った。
「ナニヲオッシャッテルンデスカ、ナカちゃんセンセイ」
呼ばれたのは、自分の名前。そして保健室に大至急というかすれた音声。
思い当たる節が――――ないわけではなかった。
「まあ見事なカタカナ発音。そんなにイヤなの?」
「絶賛イヤデスネ」
辿り着いた保健室でにこにこと笑う白衣の保健医と向き合うこと数分。
聞かされたのは、とんでもないオネガイゴト。
「お願い。ね?」
「ムリデス」
「かなちゃんじゃないとだめなの」
「イヤデス」
あの事件のただの目撃者にすぎないあたしには関係ない。
そう思っていたのに、なんで。
「かなちゃん、聞いて。実は――……」
なんであたしは、こんなになまぬるいのか。
この青から降るのは、つめたい水か凍りついた花か。
百歩ゆずって、かわいいおさげの迷える少女だけだと思っていた。
タイクツな授業。わずかなザワメキ。かすかな眠気のなか。
あたしは、一生忘れられない事件を目にすることに、なる。
わかっていたら見なかった。
目をふさいで耳をとじて、学校だって休んだと思う。
まちがいなく、そうしたはず。
たぶん、そう。
きっと。
『ソライロアイロニー。』
(でもね、きみにあえたよ。)