君と違って
「おはよ〜」
「おは〜!」
「おはよ、アオくん!」
「お、おはよう。」
涼しくて活気に溢れる教室。
そしてその活気の元凶が一目見るや否や僕の腕へ一目散にやってきた。
「なんかひんやりしてるしぷにぷにしてて面白いんだよねぇ〜。」
言い訳のように呟きながら遠慮なく触る夏空さんにちょっとのイラつきと呆れを覚えてしまう。
…もう呆れが6割ってとこだけど……
「よ、青菜。」
「また、触ってるよ。青峰さんに失礼でしょ?」
「お、翼に紅葉ちゃん!おはよ〜」
ギザギザな歯をした男子と丸い形をしたメガネをした女子のペアが僕達の元へ近づいてきた。
「ほら、お迎えが来たんだから離れてく──」
「アオくん紹介するね!」
「なっ!」
「この華奢で隠れた美少女が 秋桜 紅葉 ちゃん!聡明で私のコンパスなんだぁ〜!で、この引き立て役が 春永 翼 。」
「……え、俺それだけ?」
「んで、もう一人、穏やかで平和主義を体現した 冬水 雪乃っていう優男がいるんだけど……」
「休みみたいだよ?また体調崩したんだって。」
「体調を代償にして優しさを手に入れた男だからなぁ…………翼とは違って。」
「おい」
…なるほどこのグループのことは概ね理解できた。
そしてこの季節達の立場も……
「春永君だっけ?……相談乗るよ?」
「うっせぇ!」
ギザギザでとんがった黒髪をしている彼の立場は弱いと見た。
しかも絶対夏空さんに振り回されているタイプだ。
…しっかし、あの人と雰囲気が似てて少し嫌悪感を抱いてしまうな……初対面なのに申し訳ないけど。
「なあ、お前ら。最近ずっと青峰と一緒にいるけどどうしたんだ?……なんかあったのか?…大丈夫か、青峰。」
「きっと青菜ちゃんになんかやられたんでしょ?怖くなかった?」
「え、え?あーうん。大丈夫だけど……」
な、なんなんだこの2人。
ていうか青空さんここまで問題児扱いされてるのか!?
当然か。
「もー、ヒドイよ2人とも!特に翼ぁ!」
「なんでぇ!?」
執念を込めた指を勢いよく指され春永くんは一歩下がってしまう。
「ふふ、まぁまぁ青菜ちゃん。そろそろ翼くんが泣きそうだよ?」
そう言って秋桜さんは口元を隠し小さく微笑んだ。
「泣く以前に止めてくれよぉ…!」
すごいぞ、春永くん。僕からの印象がオラオラ系からヨワヨワ系になったぞ。
△△△
「で、君はいいのかい?あの2人と一緒に帰らなくて。」
「いいのいいの〜。どこへ行こうとも私の自由だから!」
私は今、アオくんの2歩ぐらい後に下がって、彼の行く先へついて行っている途中だ。
アオくんは多分家に向かっているのだろう。
じゃあ行かない手はないよね!
「今日は何をする気なんだい?教えることはもう教えたじゃないか。」
「ううん、まだ知らないことはあるよ。」
「なんだい?」
「私が聞くものじゃないの。」
「……?」
そうして2人分の足音が町に響き渡る。
会話が途切れたり、ふらっと現れたりして、時間は少しずつ過ぎ去っていく。
「ねぇねぇ、コンビニ寄ろうよ!」
「なんでだい?僕、お金持ってないよ?」
アオくんは振り返り後ろ歩きのまま面倒くさそうに私を見つめる。
「そ、そんなぁ〜月見食べれないじゃん!」
「うーん、君が奢ってくれても──」
「いーやーだー。」
「ちぇ」
「とりあえず涼もうよ〜」
「……まあ、いいけどさ。」
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「へへへ〜いただきまぁ〜す!」
「……」
ふわふわでひんやりとしたこの感触。
舌触りが良くて喉からお腹、そして身体全体にこの冷たさが来る感じ〜!
そして、このコンビニ前に広がる青色の空…!
汗によって風が涼しく感じるし、気持ちもどこか穏やかになっちゃう……
ああ、やっぱり……立ち食いってサイコォ〜。
「……」
「んー?どうしたのこっちみて〜?」
「……いや、なんでも……」
そう言いつつも青い瞳の先には私の顔ではなく、月見のあまりをじっと見ていた。
「欲しいの?」
「……」
相変わらずじっと見つめている。
「もーしょうがないなぁー。はい、あ~──」
「あげますわ!」
「──ん???」
最後の月見を彼の口へ運ぼうとした直後、金色の髪と共に未開封の月見が横槍を入れてきた。
私とアオくんの視線の間に月見の壁ができたのだ!
「ゲッ、君は確か……」
アオくんがイヤそうに壁を作った主を見上げる。
金色の縦ロールが風になびき、青白い瞳が空と同化しているように見えてしまう。
私とアオくんの間のような背丈をしていて、同じ夏服とは思えないほど綺麗で丁寧な着こなしをしていた。
ここのコンビニとは場違いな雰囲気を放つ、異国の少女が私とアオくんの目の前に立っている。
も、もしかしてこの人……
「ガチ勢グループの女王様!?何しに来たの……?」
「『何しに』……?そんなのわかっているでしょう?奉納しに来ましたの!」
奉納をしに来た可愛らしい信徒様は、口元を隠し、瞳を閉じて胸を張る。
…こ、ここで高笑いが出てくれば完璧なのに……!
「たしかー……うーーんと……」
さっきからアオくんは、ずっと呟きながら何かを思い出そうと頭を抱えていた。
「仕方ありません…ワタクシごとき覚えられる価値もございませんので……」
うっわ、見た目に反してネガティブだなぁ……
「えっと…セレ……」
「っ!?!?!?!?!?」
紫色に包まれた顔は輝く黄色へとコンマ数秒かからず変化する。
「セ……セレヌト……さんだっけ……?」
「せ、セレストでございます……」
「あっごめん。」
「い、いいのですのよお気になさらず……オホホ……」
ぎこちない令嬢式高笑いが広大な空へと飛び立っていく。
徐々に分解され塵も残らず消え去ってしまうけど…
「しっかし初めて知ったよ、セレストって名前なんだね。よろしくねっ!私の名前は夏──」
「お待ち!」
バシッと勢いくよく伸びた手のひらに困惑しながらも、私の身体に王の威厳たる圧が重くのしかかる。
いつも開くはずの口がどうにも開かなくなってしまう。
こ、これが女王……
「ワタクシはアナタと馴れ合う気はありませんの!」
「え、えぇ…?仲良い人は多いほうがいいでしょ?」
「否!教祖様に月見を1個だけ渡すケチなお人と仲良くなれるものですか。ですわよね〜?」
そうやって私に向けた威厳のある顔は消え去り、乙女というか能天気なアホさんというか……まあ、そんな柔らかい顔をアオくんに向け始めた。
「なっ!いい?私はね、君のような富は持ってないの?なんか言ってやってよアオくん!」
「ん〜?いいんじゃない?」
いつの間にかアオくんの手のひらには開封された月見が乗ってあり、美味しそうに頬を赤らめながらモグモグ口を動かしていた。
こんっの犬〜〜!
「物に釣られないでよ!」
「フッ。」
「うわっ、煽ったな!?『勝った』って顔今私に向けたなっ!?」
「オホホホ、なんのことかしら。」
「もぉ〜〜!」
「みんな落ち着こ〜」
###
「……」
「……」
喧騒の大通りを歩く。
「……」
今、私は家に帰っている途中だ。
車の通行音が騒がしく、すれ違う度に暖かい風が私の横顔を駆け抜ける。
流れ出てくる汗を拭ってひたすら前を歩く。
……隣も一緒にそうしている。
「ねぇ…」
「ええ…」
「ついてこないでよ!(くださいまし!)」
車の音?流れる汗?そんなもの関係ねぇー!
なんでついてくるのさ、物釣り女王め!
そんな人を物で釣るなんて行為、世の中全部金で解決できると思っている世界が狭いにんげ──
***
「お ・ ご ・ る ・ か ・ ら!」
***
うっ…ここにきて死角に隠れ潜んでいた過去がぁっ……
「あら?どうなされたの?病院にでも向かっているのかしら。」
「ち、ちがうわいっ!いくら私がアオくんと仲良くしてるからって、私のことをストーキングするのはやめてよね!やるならアオくんにしてよ!」
「だまらっしゃい!ワタクシの帰路をストーキングしてるのはアナタでしょう?この自意識過剰の小娘!」
「君も小娘だろうが〜!」
「「むむむっ!」」
今確信した。
私この人と相性悪い!!
「へへっ、まあ、最近は君と違ってアオくんと仲良くなれてるからね〜、君の知らないようなことたくさん知ってるんだ〜。」
「ふんっ、ワタクシは仲良くなるより、崇拝をしたいのでお近づきになっているのです。そう、『君と違って』。」
「い、言うじゃねぇか…」
「それに、ワタクシだって知ってますわ。教祖様の秘密ぐらい。」
「…!?」
女王はその秘密を言ってしまわないように固く口を閉じ、目を逸らし始めた。
彼女が逸らした時、女王のような威厳や、勝ち誇った笑顔も無い、悩みを抱える純粋な少女のような顔を僅かに、でもハッキリと浮かべていた。
「では、先に行かせてもらいますわ。」
「え、う、うん……」
そうして彼女は振り返りもせず人混みに溶け込んでいく。
……アオくんはどれだけの人に秘密を教えているんだろう。
そう思うと胸の奥に何かが広がってしまうのを感じてしまう。
とても邪魔で不純なもの。
初めて感じる怖い気持ち。
「ちょっと……悔しいな。」




