第二章 姉妹たち3
中庭を抜けて自分の家に入る。喉が乾いたので、一旦キッチンに向かって冷蔵庫を開けた。
「碧姉。また持ってったな」
ぶーんという冷蔵庫のモーター音が鳴る。冷蔵庫の中身はお母さんの性格を表したように、ぎゅーぎゅーに色んな物が詰め込まれている。
境優之介率いる境ファミリーには共通の掟、ルールというものが存在している。予定は事前に連絡すること、中庭に続く玄関は開けておくこと、夕食はみんなで取ること、人の家の食料を勝手に取らないこと、みんな仲良く……他にも細かいことはたくさんある。
灯里碧(二十歳)。こんな家だと隣合うお家にお泊りってことはいくらでもあるんだけど、それが極端に多い上から三番目の子。
境ファミリーの九棟は、分かれていても一緒の家族で、一緒の家だと認識はしているんだけど、それでも名字が違う別の家でもあり、あんまり別の家で我が物顔で振る舞うのってどうかと思うの。微妙な問題なの。
その辺の細かい機微がさっぱりな姉。逆にパパも各家のママも喜んでいるけれど、冷蔵庫の物を勝手に自分の物にするので、そこは閉口してしまう。
「わたしのりんごジュースがなーい」
もー。
昨日も家に泊まってったしその時だな。『これちょおだい』なんて一リットルのパック開けてコップに注いでちみちみ飲んでいたが、まさかその後そのまま持っていくとは。
「ん?」
なにか引っかかった。
なんだ。
冷蔵庫を閉める。ぱったんぱったん開いて閉じてみる。
「あっ!」
そうだ。さっき一里家に行った時だ。お兄ちゃんが冷蔵庫を開けていた。探してた物が無かったのか、お兄ちゃんは水道水で喉の乾きを潤していた。
お兄ちゃんがペットボトルのほうじ茶を飲んでいる姿はよく目にする。自分で作るより普通に買った方が美味いんだとか。だから買いに行った。
買いに行くということは、無くなったということ。
人ん家の冷蔵庫の品を取っていく渡り鳥のような女――灯里碧。
碧姉はお兄ちゃんが好きだ。皆知ってる。兄妹としてではなく、男と女として。お兄ちゃんは毎度適当にあしらっているようだが、碧姉は本気。家族にも公言しちゃってる。
物が無くなるということは、もちろん直前まで出入りしていたという事実の証明になっている……気がする。碧姉は直前まで一里家に出入りしていた。
「じゃあやっぱり、三人目は碧姉……かな。この夏で一気に近づいたとか」
だろうな。
碧姉なら最初からお兄ちゃんに好意を向けているし、他の姉妹より与し易い相手だ(失礼)。
窓から中庭を見る。
「碧姉だ」
正面玄関の方から碧姉が歩いてくるのが見えた。艷やかな黒髪のおさげ髪がひょこひょこ揺れて、それに合わせてでっかいおっぱいも揺れる。紙袋を持っていた。そのまま灯里家に消えるかと思いきや、双子の家に向かった。ん? 扉をガチャガチャやってる。チャイム押してる? どした? あ。双子の片方が出てきた。なんだったんだろう。
ま、いいや。
「はあ……いいなあ。わたしも双子と遊んでようかな」
考えるの飽きてきた。あとは全部お姉さまにでも任せたいな。
ぶんぶんと首をふる。いけないいけない。彼女ならば私に訊く前に自分で考えろ。そして考えるだけの材料を持ってこいとか言われそうだし。あんまり頼ってるとご褒美貰えなくなっちゃうかもしれないし、頼り過ぎはよくない。
「四人目、四人目……」
部屋をぐるぐる歩き回ってみる。
うーん。莉菜、兎茶、きいちご、いちご、詩舞……あとの五人って、誰も可能性が無さそうなんだよなあ。




