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第二章 姉妹たち2

「こんにちは」

 家に入れば羽田家特有の芳香剤のあまーい香り。わたし、この匂い苦手なんだよね。匂いも派手だが、見た目も派手だ。シャレた家具に、幾何学模様の現代アート。

 たぶん、沙々弥さんギリシャとかチェコとかそっちが好きなんだと思うけど(ごめんわたしも詳しくない)、センスが壊滅的だから目と鼻に毒なのよね、この家。子供の頃はよく遊びに来てたけど、今はあんまり。住んでいる住人は好きなんだけどな。

 階段を登っていって二階の沙弥姉の部屋へ向かう。

「沙弥姉、沙弥姉、愛しのほっぺさんがきたよ」

 ノックオンウッド。出てこいという願いを込めて。はい返事なし。

 お兄ちゃん、よく沙弥姉とあんな関係に至るまでなったよなあ、と、感心してしまう。考えてみると、沙弥姉が姉妹の中でも一番手強いかもしれないのに。だって筋金入りヒッキーだよ? 学校だって年単位で行ってないんだから。この引きこもりの牙城を崩すにはどうしたらいいんだろう? 兄に訊くわけにもいかないし。色仕掛けか?

 沙弥姉の声が蘇る。

『ほっぺー! 新しい格ゲー買ってきたから相手してー!』

『ええーやだよー格ゲーだと沙弥姉強いもーん。双子呼んできてマリパやろうよー。格ゲーなんてひとりでネット対戦してればいいじゃん』

『ネットはいや! 怖い! やって! 一緒にやって! マリパはその後やって! いちごときいちごも呼んできて!』

『自分で行けよ』

 ……今も昔も変わらないわ。

 ……や、変わるよ。変わっているよ。沙弥姉だって昔は学校行ってたし、友だちはほとんどいなかったみたいだけれど、でもわたしたち姉妹とはよ

 く交流していたんだ。

 特にインドアなわたし双子辺りなんかとは仲が良かった。双子はめっちゃ懐いてたし、今でもほぼ毎日訪ねてるみたい。同じ家族でもそう毎日訪ねてくる奴もいないだろう。知らんけど。

 外出はしてた。

 こんな風に引きこもったのは、五年前のこと。わたしがまだ中一で、沙弥姉は今十九歳だから中二の時。

 学校で、『変な一家だよね』『よくやってるよね』と、言われたらしい。発言した女子二人は、沙弥姉と学校で話す唯一の友人で、後で訪ねて事情を訊いてみたら、本人たちには全く悪意がなかったんだとか。

 沙弥姉が何気ない一言に勝手に傷ついただけ。メンタル豆腐だからね。

 それまで沙弥姉の性格でよく耐えたといえよう。

 わたしたち兄妹はその手のことは、もう言われ慣れてるので、気にも留めないし、それが当たり前だと思っている節はあるけれど、沙弥姉は繊細だからね。

 度々わたしたち一家のことは、話題に上がっていたのだろう。それが蓄積されていった結果、たまたまその時に決壊してしまっただけで。

 それ以前にも事あるごと泣いていたし。

 うん。

「沙弥姉一緒にゲームしよーよ。久しぶりに遊ばない? ね?」

 反応無し。

 このくらい双子もやってるか。

「お兄ちゃんと何かあったの?」

 反応無し。次。

「沙弥姉って露出狂だったの?」

「っいった!」

 がたんと音が鳴った。次いで振動。

 反応有り。確か沙弥姉の部屋は、真ん中に小さなテーブルがあったはずだ。大方そこに足でもぶつけたんだろう。なるほどこの路線。

「実はわたし、さっき見ちゃってさー、いっぱい写真撮っちゃった。沙弥姉声おっきいよね。もうちょっと抑えた方がいいよ。マジびっくりしたもん。てかさ。めっちゃ育ってない? ね、一緒にお風呂入ろーよ。間近で見たい。このおっきなおっぱい」

「ちょ、ちょおっとお!」

「わっと」

 がたんっ! と、目の前の扉が大きな音を立てる。

 撮ってないけどね。撮っとけばよかったな。

「また来るねー!」

 とんとん、と沙弥姉に聞こえるように、わざと大きな音を立てて階段を駆け下りて行った。

 あんまり強引にやり過ぎるとよくないのは分かっている。が、この数年間親姉妹の誰もが、沙弥姉に会おう引っ張り出そうとして出来なかったのだ。

 それをお兄ちゃんはやってのけた。あの飄々とした男が、普通の手段で沙弥姉の心をこじ開けたとは思えない。何かあったはずだ。

 それも、夏休みに入る前後の、この短い間に。

 今はその取っ掛かりを探れればそれで良い。

 それにしても……やっと沙弥姉を引っ張り出すための手段を得られたんだ。悔しいけれどお兄ちゃんのお陰。はあ。

 よし。部屋に戻ろう。現状を整理しよう。

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