第四章 エロと推理3
「さてと」
材料は出揃った(エロ漫画じゃないよ)。
ここまでのわたしの推理をまとめておこう。
まず、昨日のお兄ちゃんの発言の一部から――。
『何よりこれまでの四人も認めてくれてる。だから、徐々に家族には打ち明けていくつもりだし、現に、打ち明けて認めてくれている家もある。
おまえにもいずれ話すつもりだったし、バレても問題はなかった。俺は――……できればこの家族の中で全てを完結させたい。続けていきたいんだよ』
四人が認めている。
その四人は誰なのか?
わたしは最初、沙弥姉、まちきっちゃん、碧姉だと思った。
沙弥姉は現場を目撃したから。
まちきっちゃんは本人の自供から。
碧姉は普段の発言と振る舞いから。
もう一人は不明。
しかしそれを兎茶は、碧に関してはわたしの想像に過ぎないと否定。
昨日のお兄ちゃんの行動を思い出してみよう。
お兄ちゃんは、わたしと昼間中庭ですれ違う。沙弥姉にお兄ちゃんとの関係を問いただす前に、もう一度お兄ちゃんの意思を確かめておこうとしていたわたしから見れば、ナイスタイミングだった。少しだけ言葉を交わしたお兄ちゃんはコンビニに行くと言い、二時間以上経過した後に汗をかいてコンビニから帰ってきた。
お兄ちゃんの持っていた大手コンビニマークが入った袋にはアイスが入っていた。
『アイスちょーだい』
と、アイスを貰おうとしたわたしに、お兄ちゃんは最初了承し、袋を覗き込んだが、
『やっぱ無理』
と言って帰っていった。
それから別のシーン。
『出たわねっ』『わたしたちのアイス取ったでしょ!』
『私じゃないよー』
『あんた以外に考えられないでしょ!』『あんなにいっぱいあったのに!』
なんだか双子が怒ってる。前言撤回。双子からは結構お咎めがある。
『私いつも貰うとき言ってるでしょー。まあまあ、またアレ見せてあげるからさー許してよー』
昨日の夕飯の席の碧姉と双子の会話である。
碧姉は人の家の冷蔵庫から物を取っていく。
でも思い出してみると、碧姉は許可は取って、それから持っていく。わたしも一昨日アップルジュース取られていたけど、よくよく思い出してみればちゃんと訊かれていた。
……まあ、全部持っていかれるとは思わなかったけど。
そして、今日の朝、莉菜姉と莉々菜を追い掛けて行った時にあった家の裏の足跡である。サイズ的にはパパかお兄ちゃん。
これらの出来事から考えると。
お兄ちゃんは、双子――きいちごといちごと、関係を結んでいたのではないか?
それならお兄ちゃんの言っていた四人全てが埋まる。
沙弥、まちきち、きいちご、いちごで四人。
時系列としてはこう。
お兄ちゃんは中庭でわたしとすれ違った後に、本当にコンビニに買い物に行った。その前に冷蔵庫を見ていつも飲んでいるほうじ茶は飲まずに、水道水を直で飲んだ行動からも分かるように、ほうじ茶は本当に切らしていた。
次に、双子の母である夏目桃さんが外へ買い物に出ていく。昨日は週に一度の料理当番の日だった。わたしも中庭で会話した。
これはわたしたち家族全員も把握済みである。当然お兄ちゃんも双子も知っている。
そしてお兄ちゃんは正門から普通に帰ってくると、自分の家には向かわずに、夏目家に向かった。この時わたしは、沙弥姉と話していたため羽田家にいたのでお兄ちゃんの姿は見ていない。
お兄ちゃんは何も言わずに、夏目家の冷凍庫にアイスを袋のまま突っ込んだ。どうせ後で持ち帰るんだしその方が都合が良かった。ほうじ茶は冷蔵庫に入れても入れずに持っていてもそこはどっちでも構わない。
この時に、双子は二人とも部屋にいて、お兄ちゃんのこの行動を知らない。
お兄ちゃんは部屋にいる双子を訪ねた。
そしてヤった。セックスした。
しかし、なにも3Pをしたわけじゃない。一人――おそらく姉のきいちごの方は、リビングで一人、見張りをしていた。きいちごは一応警戒して家の鍵を閉める。お兄ちゃんが履いていたサンダルもいちおう隠した。
そして暇を持て余したきいちごが冷凍庫を開けてみると、なんとたくさんのアイスが袋に突っ込まれて入っていた。きいちごはアイスを食べる。もしかしたら一つだけじゃなかったのかもしれない。
きいちごは、母が買ってきてくれたアイスだと思って食べた。
そこに碧姉がやってくる。
ガチャガチャ。ガチャガチャ。
「あれー? 鍵掛かってるー」
ぴんぽーん。ぴんぽーん。
なんて具合に。大量のエロ漫画を紙袋に入れて。これはわたしも窓から目撃済み。
迎え入れた碧をリビングに通し、エロ漫画談義が始まった。きいちごは途中でトイレに向かうとでも言って、一旦二階に駆け上がる。
「碧が来たわ!」
そうして双子の片割れ――きいちごはいちごと入れ替わった。
何故入れ替わる必要があるの? そのままきいちごが相手をしていればいいんじゃない?
答えは予測がつく。「私もしたい。いちごだけずるい」こんなところじゃないかな。時間も限られてるしね。
だから双子の片割れ――いちごは髪も乱れて汗もかいていた。碧姉がきいちごだと判断したのは髪の結び目。わたしは言われてもすぐ忘れちゃうけど、左に括っているのがきいちごだっていつも言ってた気がしたような、しないような。
不審に思われるかもしれないけど、髪の結び目だけ変えれば問題ない……そう思ったのかもしれない。
そして、きいちごとも行為を済ませたお兄ちゃん。だけど碧姉にその事はバレたく無かった。昨日兎茶が言っていた通りで、碧姉の独占的な性格を察していたお兄ちゃんは、碧姉攻略は最後にするつもりだったから。
お兄ちゃんはきいちごにサンダルの在処だけ聞いた。
お兄ちゃんはキッチンへ行き、来る時に入れていた買い物袋を冷凍庫から出した。碧姉は客間にでも通されていたのだろう。お兄ちゃんとも鉢合わせすることもない。
次に、一階の廊下の窓から外へ出る。足跡はこの時付いた物。だから帰りの足跡しかなかった。
あの双子が、碧姉にアイスを取っていったと怒っていたのにはこうした理由から。
きいちごが行為を終え、一階に降りてみたらさっきまで冷凍庫にあったアイスが失くなっている。直前まで碧姉も来ていたし、さらには、お誂え向きに漫画を入れていた大きな紙袋も持っていた。きいちごは、入れ替わったとき碧姉が冷蔵庫を漁り、紙袋に入れて私たちのアイスを持っていったに違いないと早とちりした。
一方、いちごはアイスの存在事態を知らなかった為、きいちごだけ食べたなんてずるい! と、二人して勘違いした。その怒りを夕飯の席でぶつけた。
碧姉。とばっちり。
そしてわたしは、中庭でお兄ちゃんとバッティング。
そこまで五分のコンビニにも関わらず、わたしと中庭ですれ違った時から二時間以上が経過していた。時間が掛かったのも、汗だくだったのも、直前までいちごきいちごと連続でヤッていたため。
袋の中身を見てアイスを渡すのを止めたのは、きいちごに食べられ残り少なになっていたことにこの時点で気づいたから。袋が濡れていたのは、ずっと冷凍庫に入れっぱなしの状態からあの暑い中に出した為、結露を起こしたから。
「どうして、そこまでしてきいちごはしたかったの?」
回答。これから夏休みで、いくらでも機会はあるとは言え、お兄ちゃんと交わるのは、一週間ぶりだったから。桃さんは在宅ワークで常に家にいる。火曜のその時間帯を除いて。だから溜まっていた。むらむらしてたってやつ? これを逃すと機会はまた一週間後だ。
「そんなに仲良くなかったよね?」
だって、あの双子って、お兄ちゃんのことはむしろ嫌っている風だった。思春期だからかもしれないけど、お兄ちゃんに対しての当たりが強かった。
回答。沙弥姉の存在だ。
双子は沙弥姉に懐いていた。恐らく家族の誰よりも。
その沙弥姉が部屋に引きこもるようになってからと言うもの、双子は毎日沙弥姉の部屋を訪ねていた。
そこでお兄ちゃんと沙弥姉が部屋の中でいかがわしい雰囲気になってるのを聞いてしまった。衝撃だっただろう。
自分たちがこじ開けられなかった扉の向こう側には、自分たちが嫌っていた兄がいて、さらに扉一枚隔てた向こう側で、沙弥姉が兄とあんなことを。
補足として。
恐らく、沙弥姉とお兄ちゃんの関係を、双子が知るそれより前、碧姉が双子に貸し出す漫画にエロ漫画を忍び込ませていた。中二って、年齢的にもちょうど性教育で男女の営みについて学んだり、避妊についても教えられたり、周囲で付き合う子が増える年齢でしょ?
エッチなことに対しての興味はあった。
碧姉が忍び込ませたエロ漫画のせいで、双子は余計に関心を持ってしまう。……もしかしたら、碧姉の性格を考えると兄妹物が多かったのかも……それはどうでもいいけど。
「三つ目。どうしてそんな場所で、お兄ちゃんは見せつけるようにしていたの?」
昨日の記憶が蘇る。誰に見られてもおかしくない中庭から見える二階の窓辺で行為に及んでいた二人。羽田家の二階、沙弥姉のお部屋。
あの時間、当事者であるお兄ちゃんと沙弥姉を除けば、家にいたのは、わたし、兎茶、きいちご、いちご、詩舞ちゃん、深舞さん、巫子さん、桃さん。
回答。あの場所は、一階からだと意外と見えないのだ。
真下だとベランダが影になって見えない。
それにあの向日葵畑が向かい側にある阿拉斯加家と夏目家の一階からの視線を遮断している。詩舞ちゃんはリビングで遊ぶだろうし、深舞さんも巫子さんと一緒に一階にいるだろう。二階は寝室になっているだけだし。
夏目家でも同じく、お母さんの桃さんは一階にいる。桃さんはSF作家。パソコンはデスクトップ仕様なので一階から動かしにくい。それにわざわざ子供部屋まで上がって行って窓の外を眺めることもなかなかない。
ただし真向かいにある双子の部屋からは丸見えである。双子は二人の関係を知っていたとしても、わざわざ見せつけるようにする理由にはならない。それとも――。
見せつけたのだろうか?
二人の営みを。
興味津々なあの双子に、大好きな姉との行為を見せつけ、情欲を煽り、負けん気の強いあの性格を徐々に解いていく。沙弥姉は引き篭もりで、いつでも家にいる。隠れてやろうと思えば、いくらでも機会はあって、沙弥姉の部屋でしていれば、双子が聞き耳を立てている。なるほど。とんでもなく不健全な状況だ。わたしだったら悶々としそう。
そして日々の碧姉からのエロの差し入れ。碧姉は面白がっていただけだが、結果として碧姉の大好きなお兄ちゃんと、双子を結びつける役に立った。
じゃあ、わたしは?
わたしはイレギュラーだったんだ。
直前で友達と入れていた予定を急遽キャンセルして家にいたものだから、わたしが家にいることを、お兄ちゃんは知らなかった。だからお兄ちゃんも、
『バレても問題はなかった』って言った。
まだ話すつもりじゃなかったんだ。
じゃあ、兎茶は?
あの子はそもそも携帯を持ってないし、予定を話そうともしないから、家にいるのかどうかさえわからない。
でもさ。
兎茶は最初から知っていたとしたらどうだろう?
『俺はみんなを平等に愛せる自信があるし、何よりこれまでの四人も納得してくれている』
お兄ちゃんがあの時に言った台詞。この言い回し。
納得していない人がいた?
お兄ちゃんには迫られた。だけど、お兄ちゃんの言い分には納得していなかった。だから四人の中に含めなかった人物がいたとしたら。
それが兎茶だったとしたら?
そう考えると昨日の兎茶の行動にも説明がつく。
兎茶は夕飯の席に現れなかった。いつもの自由勝手な行動だと思っていたが、そうじゃなかった。
兎茶は直前まで自室にお兄ちゃんを迎え入れて性行為をしていた。
お兄ちゃん自ら行ったのか、兎茶が迎えたのかはわからないけれど。
わたしが兎茶の部屋を訪ねたとき、兎茶は『寝ていただけだよ』と言った。
そう。文字通り、お兄ちゃんと寝ていた。
布団は乱れ、さらに、部屋に入った瞬間、鼻についた据えた臭いは、直前まで交わっていた男女の営みによるもの。
窓は開けていたけど染み付いた汗や体液の匂いは隠しきれていなかった。
それから兎茶はわたしと話している最中、ずーっと窓の外を眺めていたけれど、アレ、景色を眺めていたんじゃなくって、外を見張っていたんじゃないのかな?
あの足跡を見て、お兄ちゃんが双子の部屋に来訪したと疑っていた。ううん。ほぼ確信していた。お兄ちゃん家族ハーレム(凄い言葉だ)に納得していない兎茶は、怒り心頭で、窓からもう一度、兄が現れないかどうかをずっと見張っていた。
そしてわたしを使った。
良いように使った。
生粋のレズビアンなはずの兎茶が、それでもお兄ちゃんの行動を監視させたのには理由があって、一体何人の姉妹と、どこまでヤッているのか確かめたかった。
予想だけど、割と早くにお兄ちゃんから告白されたから、お兄ちゃんのその行動に余計に納得がいかなかった。
ってなことを、ベッドの中で、まちきっちゃんにそのまま話した。




