第二章 姉妹たち5
それぞれが席に付き、各家のママも席に付く。
目の前にはテーブルいっぱいの小籠包、焼売、エビチリなどの料理が並んでいる。今日は中華だ。担当は夏目桃さん、一里巫子さん、阿拉斯加深舞さん。大家族過ぎて大変だ。
最後にお父さんが入ってくる。鋭い眼光に濃い眉。少し長めの髪。かっちりした服装が好みだけど、今日はTシャツにジーンズだ。
境優之介。職業、ミステリ作家。五十作にも及ぶその作品は、大半が映像化されており、どれもこれも中ヒット~大ヒットの成績を残す。ガチガチの本格物ってわけじゃなくて、広義のミステリが主。人を選ばないため、手に取りやすく、世代問わず読まれるのが特徴。
この大所帯の家族の主。八人の女性からの愛をその身に受けて誰か特定の人を選ぶことはせず全員を選んだ男。
「……」
お父さんは無口だ。あんま喋らない。
「……兎茶と沙弥は?」
お父さんがおもむろに口を開く。
「沙弥はいつも通り」
真ん中に座っていた沙弥姉のお母さんの沙々弥さんが、なんでもなさそうに答える。慣れたものだ。沙々弥さんはさっぱりしてるからなあ。ちょっと薄情じゃないかなとも思うけど。お父さんは沙弥姉が引きこもってからも、必ず夕食の席にいない子は理由を訊くようにしていた。
テーブルにはもう一つの空席があった。
みんなの視線がわたしに集まる。
「さあ?」
わたしが一番知りたいくらいだ。どこ行った。
お父さんは黙って頷くと、何事も無かったかのように席に付き、
「いただきます」
と、手を合わせて、みんなもお父さんに習って「いただきます」をした。
わいわいがやがやする中いっぱい食べた。
満足満足。
ご飯を食べ終え席を立つと、ちょうどまちきっちゃんも席を立ったところだった。何人か挟んで隣にいたため、話すことも目が合うこともなかったのだ。
わたしもまちきっちゃんも食器をシンクに置いたところで、どちらからともなく、視線を交わす。
「う……あ……」
まちきっちゃんは真っ赤になって俯く。何か言おうとしてる。
おかわっ!
「…………邪魔」
やがてひょこひょこ歩いてきた莉菜姉が、下からわたしたちを見上げて言った。
「わひゃあっ」
まちきっちゃんはちょっと大げさなぐらいに驚くと、足早に部屋を出て行く。
……おっと。これはどっちの反応だ? 押せ押せガンガン?
「…………?」
莉菜姉は首を傾げると、訝しげな目つきでわたしを睨む。
「…………」(約:なにかまちきちにした?)
「してないしてない」
「…………」(約:ほんとうに?)
「ほんとほんと!」
「…………」(約:嘘くさ)
「あはは……」
一里莉菜。境ファミリーの長女にして、お兄ちゃんの姉。この家だと珍しいことに異母じゃないお姉さん。けれどパパの本当の子供じゃない。境ファミリーの中でも、詩舞ちゃんに次いで小さい。なんと一四二センチ。無言の圧力が凄い。お父さんに似てあんまり喋らない。お父さんの無口はただの無口って感じだけど、莉菜姉の無口は無口じゃない。目と表情でひたすら語ってくる。大人っぽく見えるように、髪を伸ばして、ゆるいウェーブを掛けているようだが、成功しているとは言い難い。
ホットパンツとTシャツ。服装が子供っぽいせいもあるかもなーと、じろじろ見てしまう。って、そんなわけないや。やっぱ身長だよ。がはは。
「いったー!?」
脛を蹴られた。失礼なことを考えていたのが読まれたようだ。
そのまま、そそくさと走って離れて行った。
そういうとこだよ、莉菜姉。いちいち動作が子供っぽいんだよ……。本人には絶対言わないけど。
莉菜姉もなあ。アレで彼氏いるんだもんなー。怪しいところだけど。莉菜姉にも一応聞き込みはしないといけないな。気が重いなあ。理由は絶対訊いてくるだろうし、なんて誤魔化そう。
部屋を出て中庭に出たところで気がついた。
晴々家の電気が付いている。
「いた」
晴々兎茶。
彼女にはお兄ちゃんとの関係を問い詰める必要はないだろう。




