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第二章 姉妹たち4

 十六時になってしまった。

 煮詰まってきたので中庭に出る。今日は行ったり来たり。

 中庭でぽけっとしていると、お兄ちゃんが濡れた買い物袋をぶら下げて帰ってきたところだった。

「どこまで行ってたの? ……ってなにその汗」

 袋にはここから歩いて五分ほどの大手コンビニのマークが入っている。その割にはびっしょりと汗をかいているし、お兄ちゃんと中庭で分かれてからもう二時間以上は経過している。

「火曜だからな。立ち読み。少し歩いただけでも暑くてな」

 汗を拭う。そっか。立ち読み。にしたって遅いような気もするが。

「ふーん。ね、アイスちょーだい」

「自分で買いに行けよ……」

 袋からアイスが見えた。お兄ちゃんはそう言いつつも袋を確認したが、そこで考え直したのか、

「やっぱ無理。それじゃ」

 と、手を振って一里家に戻って行った。

「えー!」

 まあいーや。碧姉じゃあるまいし。 

  

 考えているうちに、夕ご飯時になってしまった。

 四人目は考えてみてもわからなかったし、結局、現状の整理もやることが多すぎてどれから手を付けていいのかわからない状態である。判断材料も足りない足りない。

 お腹空いてきたよ。

《ごはんできました》

 ぴこん! と、スマホが鳴った。小一時間前にみんなが帰宅してきたのは音で分かっていた。

 よし。一旦ご飯。全員の顔を見てやろう。


 中庭を抜けて正門のある南側の棟へ行く。正門の横にある扉を開けると階段があり、それを上がって行くと、家族がみんなで食べるための大きなフロアに出る。ウッド調の落ち着いた色合いのダイニングキッチンだ。圧巻の広さの五十帖で、細長いテーブルに人数分の椅子が置いてある。

 わたしはみんなが集まるテーブルに、見渡しやすいように端っこの席へと座った。

 どっこいしょ。女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。これだけの人数だとうるさいだけである。嫌いじゃないけどやっぱりうるさい。

「ふぃー。ぽんぽんぺこぺこですよ、ほっぺちゃんは」

「なに、ほっぺ。お腹空くようなことしたの?」「何もしていない癖に?」

「頭の体操」

 向かいに座っていた双子が話し掛けてきた。

 生意気な双子。お淑やかなお母さんとは似ても似つかない攻撃的な言動の少女たち。誰に似たのかガチで口が悪い。お母さん子で、今日も二人して昼間に見たお母さんと全く同じ格好をしていた。お母さんに似て髪も瞳も茶色で、髪型は片側だけくくって、いちごときいちごで判別が付くように左右で分けているようだが、未だにどっちがどっちだかわかんない。この家族の中で双子の判別が付く奴が、桃さん以外に果たして何人いるんだろう。ちなみにわたしは覚える気全くなし。

「水浴びでもすれば?」「いい加減あんなところにずっといたら干からびるわよ」「プールでも行けばいいんじゃないかしら」「見せられるような身体だったらいいけど」「でぶ」「ぶた」「くすくす」「くすくす」

 ラリーみたいに順番に喋る。本当に考えを共有してるみたいだといつも思う。

 わたしが日中中庭でぐだぐだしていたのを知っている。そういえば家にいたもんね。

「いいもーん。どーせ動いてないからお腹ぽにゃってるしー。水着も買わなきゃいけないし面倒だよ」

 テーブルに突っ伏す。少食だからお腹周りは実際のところそんなに気にしていないけれど、プールは入りたいなあ。でも水着入らないし。

「ふんっ」「ふんっ」「なによ!」「人がせっかくっ」

 なんか双子が怒ってる。

 どうした。わたしのクビレが羨ましいか。

 成長期だからお子様と違って突然くるのだ。突然くるやつ!

「双子検定まだまだだねー、ほっぺちゃんはあ」

「ぐわー」

 頭をぐりぐりやられた。

 振り返ると碧姉が来たところだった。頭に手を乗せられている。

 黒髪おさげ、垂れ目とぷっくりした小鼻が愛らしい。おっとりしていて、妙に間延びした声で場を和ます。彼女のキャラクター性があるから、みんなの物を食べてもお咎めがないのかもしれない。出るところは出ていて、姉妹の誰よりも男好きする身体かもしれない、ふと思う。趣味人。アニメや漫画にすぐ影響されて、色々買い込んで挑戦を繰り返す。ギター、イラスト、キャンプにサバゲー。それからガーデニング。どれも割と続いているのは素直に尊敬してる。

「出たわねっ」「わたしたちのアイス取ったでしょ!」

「私じゃないよー」

「あんた以外に考えられないでしょ!」「あんなにいっぱいあったのに!」

 なんだか双子が怒ってる。前言撤回。双子からは結構お咎めがある。

「私いつも貰うとき言ってるでしょー。まあまあ、またアレ見せてあげるからさー許してよー」

「……ぐっ」「……こんな場所で言うな」

 碧姉が手をひらひらさせてそう言うと双子はそれきり黙る。碧姉はそのままお兄ちゃんの座っている席の方へ立ち去っていく。

「?」

 なんだろう。双子が弱みでも握られているんだろうか?

 お兄ちゃんは端っこに座るわたしのちょうど斜向いの方に居て、横に座る詩舞ちゃんと話していた。

「にいー! このあと遊んで!」「へいへい。何して遊ぶ?」「マリパ!」

 ……沙弥姉って詩舞ちゃんと精神年齢そんなに変わらないよね。良くも悪くも。

 そんな詩舞ちゃんの元に碧姉は向かって行く。詩舞ちゃんは碧姉を見た途端に、

「あおいー! ここー! 座っていいよ!」

 と、それまで座っていた席を立ち、駈けて行った。そこに碧姉は何の疑問も持たずに座る。

 ……流石。よく教育されている。

 碧姉の困った特徴その二。碧姉はお兄ちゃんの横を譲らない。お兄ちゃんを四六時中追っかけ回しているっていうのともちょっと違って、ここぞって時にお兄ちゃんの横を譲りたがないというか。例えば家族写真を撮るときなんかは必ずお兄ちゃんの真横に行きたがる。

 なんていうんだろう? 正妻気取り?(失礼。でも間違ってない)

 碧姉とお兄ちゃんは関係を持っているとして――碧姉はお兄ちゃんが他の姉妹とも関係を持っていることを知っているのかな。

「ほっぺー!」

 詩舞ちゃんが空いていたわたしの横の席に来る。

「ほっぺじゃないぞー穂々だぞー」

「わひゃあ」

 詩舞ちゃんのほっぺをうりうりする。べつにお互い嫌じゃない。じゃれ合ってるだけ。

「お兄ちゃん、好き?」

 なんとなく詩舞ちゃんにも訊いてみた。流れ的に直前まで話していたんだし、不自然ではないだろう。まあ、幾ら何でもこの七歳の娘はないと思うけど。

「うん、好きー! いっつも遊んでくれるから!」

 詩舞ちゃんはとびっきりの笑顔で答えた。ふと、前に視線を向けると、そんなわたしたちをきいちごといちごがじっと見つめていた。

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