婚約破棄したくてもできない!~魅了的な彼~
学園の卒業パーティーが開かれている会場の一角で、不穏な会話がなされていた。
「いいか。開会の挨拶であいつに婚約破棄を言う」
「「「はい」」」
「あいつはもう、会場に入っているのか?」
「まだです」
「なら、・・・」
ざわっ
会場の空気が一変した。
しかし、王子たちは自分たちのことに忙しくて、そのことに気付かなかった。
「来ました!」
「よし! 行くぞ!」
婚約者である公爵令嬢が来たと聞いて、王子は壇上に上がる。腕にお気に入りの女子学生を引っ付けて。
「〇〇〇〇〇(本人の名誉の為、伏字)! 虐めをするような非道な女など、俺の妻に相応しくない!」
web小説読者にとって、婚約破棄王子のお決まりの台詞だったが、公爵令嬢は一瞥も向けなかった。聴衆の注意もそちらに向かなかった。
「〇〇〇〇〇(本人の名誉の為、伏字)!! 無視をするな!! こっちを見ろ!!」
卒業生の王子が婚約者以外の女子学生に夢中で婚約者の公爵令嬢のエスコートをすっぽかし、側近共々お花畑を展開していることなど、些細なことだ。事件は禁止魔法の魅了を使っている疑惑の女子学生どころの話ではない。現在、学園の卒業パーティーは非常に危険な状態にあった。
魅了など大したことはないと思われるが、死ねと言われても、精神魔法では本能的に自殺を忌避する為に難しいが、魅了は聞いた者が喜んで自殺する。つまり、本能的な死への恐怖よりも魅了魔法使用者やスキル保持者に言葉をかけられたことが嬉しくて従ってしまうのだ。
その魅了スキルを常時発動している危険人物がここに来ているのだ。何という、恐ろしい話だろう。
その存在自体が危険な人物は生まれてすぐに殺されていても仕方なかったが、生かしていれば役に立つだろうとの思惑で塔に閉じ込められて育てられた。
食事を差し入れるように隙間が設けられた扉が開けられるのは病気になった時だけ。それ以外で開かれることはない。
勉強は扉の下から入れられた本と、扉越しの授業。
婚約者との会話も扉越し。
そんな、世に出しては行けない魅了スキル持ちが何故、学園の卒業パーティーにいるかというと、婚約者の卒業を祝う為だ。
国としてもただ参加させたわけではない。魅了封じをこれでもかと身に付けさせ、鼻付きメガネまでかけている。ドレスコードを馬鹿にしているとしか思えない奇妙な格好だが、それでも魅了の力は抑え切れないらしく、周囲に人だかりができている。
いくら危険人物とはいえ、婚約は婚約。どっかの婚約者をエスコートしない男たちとは違い、本人も婚約者をエスコートする意志がある為、特別に出席を許可された。
鼻付きメガネという笑いを取るパーティー違いのグッズを身には付けているが、婚約者の卒業を祝うパーティーに出る姿勢は真剣だ。
そのおかげで、婚約破棄王子の台詞は、まったく注目を集めなかった。魅了魔法を使う女子学生よりも、はるかに強い魅了スキル持ちの彼がいるせいで。
他人を言いなりに出来る魅了だが、魔法では継続的にかけなければならず、スキルは魅了魔法ほどの強い魅了を持つ者はいない。その魅了魔法も、ピンキリなので、自殺させるほどの魅了をかけられる魔法使いも、スキル持ちもいないのが定説だった。彼が生まれるまでは。
「お前たち、何を見て――・・・」
魅了スキル持ちの彼を見た王子も魅了されて言葉を失った。
「ハル? どうしたの、ハル?!」
魅了魔法を使う女子学生は様子のおかしくなった王子に声をかけるが、王子は魅了されて何も聞こえない。
「ああ! やっぱり、こんなことになってしまったーー!!」
そう嘆くのは、魅了スキル持ちの彼の婚約者である少女。卒業生の女子学生だ。
彼女が普通に話せるのは、魅了無効の珍しいスキル持ちだからである。
元々、平民だった彼女は、魅了スキル持ちの彼の為に貴族の養女にされ、婚約者にされていた。
「ほら、急いで帰りますわよ! これ以上、被害が増えたらあなたの身が危なくなるわ!」
「え? 折角、君の卒業パーティーに来たのに?」
「呑気にパーティーに参加している暇はなくてよ!」
魅了スキル持ちの彼の姿を見たら最後、状態異常防御や魅了除けの付与された物を身に付けていない限り、魅了されてしまう。
魅了魔法を使う女子学生に魅了されている時点で、王子たちはそれらを手放していて――
「どうか、お待ちください!」
急いで、幽閉されている塔まで連れ帰ろうとする婚約者に、手を引かれた魅了スキル持ちの彼に縋り付く醜態をさらすことになった。
尚、この途中退出によって、被害は婚約破棄の宣言をぶち壊しただけだったので、魅了スキル持ちの彼は処罰を受けることなく、逆に国王や公爵に感謝された。
魅了魔法を使う女子学生は人々が魅了を解かれたと共に、今までの生活が水の泡となり、犯罪者として収監された。
魅了のせいだったんだと王子たちは言ったが、婚約者たちの父親は魅了除けを外してまんまと魅了された彼らを許さなかった。
塔の外ではそんなこんなで嵐が吹き荒れていたが、魅了スキル持ちの彼は幸せな新婚生活にご満悦で、婚約者と言う名の生贄が妻と言う名の生贄になった彼の妻も幸せだった。手間がかかるものの可愛い夫と三食昼寝付き&堅苦しい社交なしの生活に。
おしまい




