1.新たなる誕生
世はまさに大VR時代。ありえない量と異次元の質を兼ね備えたゲームが腐るほど転がっているこの世界にまた一つ、新たな神ゲーが産声をあげた。
グランドグラウンドオンライン
通称グラグラオンラインとよばれるそれは、偉大なる大地という小学生が授業を聞くことを放棄して考えたようなそのネーミングセンスとは裏腹に完成度は高かった。
そう、完成度"は"高かった。確かにバグはないしNPCの思考ルーチンだってまるで生きているみたいだ。
でも、それだけで本当に神ゲー足りえるのだろうか?五感どころか第六感すら搭載してそうなリアルさで、当然のごとく感覚設定はなし。もちろん痛覚だっていじれやしない。病気にかかれば苦しんだ末に死んでしまうし、ドラゴンのブレスなんて信じられないくらいに熱いし死ぬ。アンデッドに嚙まれてもよくわからない邪気みたいなもので死んでしまう。そしてその辺のモンスターに頭蓋をカチ割られたらもちろん死ぬ。
そんなリアルなんだかよくわからないこんなゲームにも最初には大量に人が集まってきていた。
しかし前述の通り感覚はいじれないし普通に死んでしまうような代物なので瞬く間にユーザー数は下降の一途をたどった。
もはや過疎ゲーと化した限界ぎりぎりのそれにつけられた略称というか蔑称ともいうべき名前は「グラグラオンライン」常にプレイヤーたちを阿鼻叫喚の渦に叩き落としてきた神ゲーに新たなる歴史を刻むものがまた一人........!!
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キャラメイク。すべてのゲームはここで今後が決まっていくといっても過言ではない。美少女キャラで飢えた野郎どもに貢がせるもよし、いかついおっさんでなめられないようにするのもよしだ。なんならモンスターになって一発逆転の成り上がりを狙ってもいい。
ということで僕は種族人間の職業テイマー、初期スキルは亜人語のそこらへんの喫煙所で死んだ目をして煙草をふかしてそうなおっさんにした。服装はもちろんスーツ。やっぱり正装でなくちゃね。名前は「サトン」サトウがとられてたから苦肉の策だ。よし、これでログインだ。
キャラを決定するために謎の白いモヤである僕はたった今生み出したサトンが書かれた古臭い紙をチュートリアル天使に渡した。
「受諾しました。あなたのこれからの生が満ちゆくものでありますように...!」
そんな初期勢が聞いたら中指を立てながら「だったらもっとサポートしろや」と憤死してしまいそうなセリフを吐きながら純白の天使は僕を送り出した。てかなんでこいつチュートリアル天使って呼ばれてるんだよ。チュートリアルしろよ。なんだか僕も腹が立ったので転送時のまばゆい光の中で天使に向かって思いっきりブーイングサインを叩きつけた。
革靴に舗装された石畳の感触が返ってくる。気が付くと噴水のある広場みたいな場所に飛ばされていた。
広場を囲うように乱立している屋台では威勢のいいおっちゃんが微妙に黒ずんだリンゴっぽいものを売っているし、噴水の周りで子供がきゃいきゃい言いながら走り回っている。
深呼吸を一つ。どこか爽やかな新緑の香りと街特有の埃っぽい匂いが鼻孔をくすぐり、世界に降り立った実感が体の隅々まで満たしていく。何はともあれここから始まるのだ、僕の伝説が!
街をほっつき歩いて握りこぶし大のよさげな石を見つけると、そこら辺のへりに腰を下ろして靴を脱ぎ靴下も脱ぐ。
脱ぎたてほやほやの加齢臭かおる灰色のビジネスソックスに先ほど拾った石を入れ、口の空いてるところを持って二回ほど振り回してみる。うん。いい感じだ。これで武器の確保はできたからさっそく外に行って何か狩ってみよう。
正門に立っている衛兵に会釈しながら街の外に出る。どうやら外には草原が広がっているようだ。一陣の風が吹き抜けこの世界が春であることを感じさせてくれる。
「んー、気持ちいいなぁ」
思わずそう呟いてしまうほどには世界に祝福されている気がした。
そうしてルンルン気分でしばらく歩き回ると筋肉が肥大化したウサギを発見した。どうやら草を食んでいるようだ。無警戒でまだこちらに気づいている様子はない。
これはいける、そう判断するやいなやウサギの後ろへと忍びより脳天めがけて靴下製ブラックジャックを振り下ろす。瞬間、何かを察したように振りむこうとするウサギ。だがもう遅い。ゴガッという何かが割れるような音とともに額から血と脳漿をまき散らしてウサギは絶命した。
よし、なんだいけるじゃないか。持っているビジネスバッグにウサギの死体を押し込む。血でべとべとになったがまあ大丈夫だろう。
初の狩りを成功で終えたので目的のゴブリンを探しにまた探索を再開する。そう、僕はゴブリンが目的なのだ。何を隠そうこのゲームでやりたいことはゴブリン軍団を作ってすべてを蹂躙することなのだ。だから初期スキルでゴブリンと話せるようにしたし、職業もテイマーにした。見た目だってなんか黒幕っぽくかつ目立たない風貌だ。
目的を思い返しつつ歩く。されど歩いても歩いても見つからない。
なぜだろう。
近くにあった手ごろな岩に腰かけて少し考えてみる。思うに、ただ歩いているだけなのが良くないんじゃなかろうか。サメに会いたいからと言ってその辺を泳いでも会えるわけがないじゃないか。
ではどうすればいいのか。簡単だ。探して会えないなら向こうから会いに来てもらえばいい。
ということでさっき殺したウサギを取り出して、何回か石で殴った後に振り回す。これで血をまき散らして匂いにつられて寄ってくることを期待する。
待つことしばらく。オラウータンとドウェイン・ジョンソンのあいの子みたいな顔した緑色のバケモノが鼻をひくつかせてのしのしとやってきた。こいつがゴブリンだろう。
しかしデカい。どう見ても190cmはある。物陰で思ったより強そうなことに動揺しつつ冷や汗をたらして眺めていると、置いてあるウサギの死体をつまんで観察しだした。
話しかけるならここだろう。誰だって食べている最中には話しかけられたくないものだ。
いまだに首をかしげてしげしげとウサギを見ている推定ゴブリンに歩み寄る。
「こんにちは!よかったら仲間になってくれませんか?」
「なんだお前」
僕の勇気ある行動に対して、冷たい言葉と隕石みたいな威力のげんこつで返された僕は頭がトマトみたいにぺちゃんこになって死んだ。
リスポーン。
気が付くと白ブリーフ一丁で最初の広場に立っていた。
そうか、僕は死んだのか。よく考えたら言葉が通じるからと言って仲間になってくれる保障なんてなかった。例えば街中でいきなり仲間になれと話しかけられたらなってくれるだろうか?なってくれるわけがない。なんなら通報されて終わりだろう。そう考えると返答してくれた上で街まで送り返してくれたアイツにはむしろ感謝しないとな。
そう思いいたって門の方向に手を合わせて拝んでいると、いつの間にか衛兵に囲まれていた。どうやら変態がいると通報されたようだ。
思わず空を見上げる。
「ふぅ.........」
ため息を一つ。空の青さが目に染みる。手錠をかけやすいように手を差し出すとそのまま僕は連行された。
有無を言わさない勢いでかび臭い留置場にぶち込まれる。こうなったらやることは一つだ。
ガン、ガン、ガンと固いもの同士がぶつかる音が狭い留置所に響き渡る。
「おい、うるさいぞ!なにやってんだ!」
耐えかねて怒鳴り込んできた衛兵にサムズアップする。額から血をどくどくと流してそのまま突っ伏した僕はターミネーターの最後みたいに死んだ。脱獄成功だ。
再び光となって広場に舞い降りた僕はパンイチで猛ダッシュを開始した。瞬間、駆け寄る衛兵。そのままスムーズな流れで首をはねられて僕はまた光の粒子となった。そのままリスポーン。しかし衛兵に殺される。
現れては血しぶきをまき散らす奇怪なオブジェクトと化した僕は、念じて無理やりログアウトした。
「やってられるかこんなクソゲー」
ホームでアンインストールを選択し、僕はベッドの上で眠りについた。




