第30話、進化
私もなにかお手伝いしたいな。
でも肉を切るにもナイフは持っていないし……そうだ、切り分けた肉を袋詰めする事は出来る。
そうして二人での作業はスムーズに進み、すぐに袋は肉で一杯になった。
そして這いずる街に戻ると、肉を配る作業に移る。二人で配ったため、あっという間に袋の中身は空になった。まだ夜明けまで少しだけ時間があるけど、これから第一ステージまで行くには時間が足りない。そんな中途半端な時間が出来た。どうしよう? 骸骨さんは眠るのかな?
そんな事を考えていると、私の方へ顔を向けた後おもむろに歩き始める。それはどこか、付いておいでと言われたような気がした。
訪れたのはショッピングモール。もしかして買い物? 二人での買い物、デートのような気がしてきて、恥ずかしくなる。しかし窓ガラスに映った自分を見て、一気にテンションが下がる。こんな化け物の見た目でデートだなんて、私どうにかしている。
気を取り直して骸骨さんに付いていっていると、ホームセンターで足を止めた。そこで骸骨さんはナイフとリュックを拝借すると、私に手渡して来た。そうか、二人でやれば、より多くのプレイヤーさんを助ける事が出来るから。
そして次にスケッチブックとペンも拝借する。
もっ、もしかして私と意思の疎通を図ろうとしているのでは!? 私も骸骨さんとお話がしたい!
そして骸骨さんがスケッチブックに何かを書き始める。しかし中々その書いた文字を見せてくれない。どうしたのかなと思い覗き込んでみると、とても汚い字で読めなかった。
私に貸してとスケッチブックとペンを奪い取ると、私は名前を書こうとする。でも勝手に手が震えたり動いたりするため、私もとても汚い字になってしまった。
覗き込む骸骨さん。なにか骸骨さんにジト目で見られている気がした。
次の日とそのまた次の日、私達はお肉集めとお肉配りを行った。すると私達に付いてくるゾンビが一人また一人と増えていく。そして一週間経った今では、骸骨さんの歩く後には私のように続くゾンビが多くいた。でも第一ステージの霧の中まで付いてくるゾンビはそう多くはいなかった。
やっぱりみんな怖いよね? だからか、第一ステージの中に入っていくゾンビ達はその他のゾンビ達から尊敬の眼差しを向けられているような気がします。
そして這いずる街へ戻りお肉を配り終えた私と骸骨さんは、いつものように座り込んで眠りにつきます。
とそこで——
『ゾンビプレイヤーの皆様へ。これより世界の主より説明があります』
『ゾンビプレイヤーの皆様へ。これより世界の主より説明があります』
突然目の前にテロップが現れた。
『みんな、元気にゾンビしてるかニャ? 今日は朗報をお伝えするニャ』
これは光猫の声!
『新しくイベント『サバイバル』を開催するニャ。この這いずる街にプレイヤーがわんさか転移してくるニャ。あとサーバーを統合させるからプレイヤーが増えるニャ。それ以上にゾンビも増えるけどニャ。でも人間プレイヤーは武器を持ってて強いニャ。そこでゾンビのみんなは進化する権利を与えるニャ』
えっ、進化?
『進化は三パターン。第一候補は怪人化ニャ。簡単に説明すると、手先がかなり不器用になるけど怪力になるニャ。どれくらい怪力になるかと言うと、簡単に鉄をひん曲げられるくらいになるニャ。あと意味もなく笑いが出てしまうニャ。第二候補は不死化ニャ。これは部位破損しなくなるニャ。また痛みを感じなくなるから、鼻歌が出ちゃうニャ。あと死んでもすぐに復活するニャ。タイムロスなくプレイヤーを襲えるのが魅力ニャ。第三候補は人間化ニャ。これは見た目が人に近づいて、手先が器用になるニャ。あとは息を潜めれるとかニャ』
人間化。人に近づくのなら、綺麗になるのかな?
『最後にサバイバル中はプレイヤーの心臓を食べてもすぐに復活しないで、サバイバルが終わってから復活するから少し待つニャ。その間一人の心臓を食べるごとに生き返った時にお金をあげるニャ。だから食べて食べて食べまくるニャ。それではサバイバルは三十分後に始まるから、進化して待ってるニャ。みんなの健闘を祈るニャ』
進化、どれが良いのかな? 骸骨さんはどれにするのかな?
そんな事を考えていると、骸骨さんが手を動かし始める。そして光に包まれる骸骨さん。光がおさまると、見た目が——変わっていなかった。
何にしたのかな?
とそこで骸骨さんがスケッチブックになにやら書き始める。そう言えば人間化は手先が器用になるって言ってたけど、……もしかして骸骨さんと意思の疎通が出来るようになる! ?
そして私は骸骨さんの名前を知った。親友であるとあるプレイヤーへの罪滅ぼしでこんな事をやっている事も知った。そして一緒に行動してくれた事をありがとうと言われた。
私も選ぶ、人間化にする!
あっ、手の震えが無くなっている。もしかして私も、書けるようになっているのでは!?
そんな事を思っていると、骸骨さんが走り書きする。そしてスケッチブックに書かれた文字には、『鏡を見て』と。
そのため鏡に映る自身を見てみる。
瞳が赤いけど、素肌が真っ白に戻っている! 目の窪みもなくなっている!
そこでスケッチブックを手渡される。……書ける、書ける書ける、私の名前『フラン』や感謝の言葉を、想いを沢山書く。あっ、ここまで書いたら恥ずかしいから、書き直しだ。まずは名前と感謝だけを書こう。
そして骸骨さんとスケッチブックを介していっぱいお話をしたあと、親友であるプレイヤーのために私も一緒に向かう事を決めた。ショートカットで行けた這いずる街の西側に位置する、時計台がある廃村へ。




