第28話、地獄に舞い降りた骸骨さん
恐ろしい見た目の骸骨を目の前にして、蛇に睨まれた蛙のように私はその場から動けなくなる。
そしてそうこうしていると骸骨は肩から下げているずだ袋を正面に持って来て、腕をその中に突っ込んだ。そして取り出される、……肉!?
骸骨はその肉をそっと地面に置いた。
見た感じスライスされたその肉が何の肉かは分からないけど、食欲をそそる香りがする。
……香り? もしかして人肉!?
その肉を前にしてお腹が空いてくる。
駄目、我慢できない!
私は地面に置かれた肉を掴むと齧り付く。
美味しい、そしてお腹が満たされていく。
見上げれば骸骨、いや骸骨さんはこの場から立ち去ろうとしていた。
着いて行けばお肉をまだ貰えるとか思ったわけじゃない。ただ気が付けば後を追いかけていた。
骸骨さんに付いて回っていると、他のお腹を空かしたゾンビにもお肉を配って回っていた。
私は見入ってしまう、その光景に。怖い骸骨さんなのに。
そしてこんな言葉が浮かんでくる、地獄に舞い降りた骸骨。
とそこで骸骨さんが振り返った。
しまった、ずっと付いて回っていたものだから、邪魔だと叱られるかもしれない。しかし骸骨さんはチラ見しただけで、何事もなかったように配り続ける。それから歩きに歩いて沢山入っていたお肉は、ついにずだ袋の中から無くなったよう。
そして夜が明ける時刻。
それに合わせて骸骨さんは、建物の片隅で腰を下ろすと動かなくなった。
そして私はお肉を配っている姿を見ていたからか、もう骸骨さんが怖い対象として映らなくなっていた。
私もその目と鼻の先でしゃがみ込むと、骸骨さんに倣って動かない事に。
もしかしてこの骸骨さん、プレイヤーさんなのかな? そんな事を考えながらずっと時間を過ごした。
骸骨さんが動き始めたのは、夜の十時過ぎになってからだった。おもむろに立ち上がると、遅れて鳥籠の街へ向かうゾンビ達に混じって北の門から外に出る。
そうだ、骸骨さんはプレイヤーの肉を沢山持っていた。と言う事は私たちにとって優しくても、人間プレイヤーにとっては姿そのままの悪魔なのだろうから。でもどうしてもこの骸骨さんが、敵対関係だったとしても人間側のプレイヤーに酷いことをするようには思えなかった。だから足が動いていた。
この骸骨さんが酷いことをしないよう祈りながら。
この骸骨さんが酷いことをしていた時は、もうお肉は食べたくない……かも。
骸骨さんは鳥籠の街方面へは向かわなかった。暗闇の中黙々と歩いていく。
どこに向かっているの?
そして暗闇の中辿り着いたのは、ゲイリーがいる第一ステージ前であった。
どうして? やっぱりプレイヤーじゃなくてボスだったの? ゲイリーからプレイヤーの肉を貰うの?
激しい動悸がし混乱する中、憶測が頭の中を駆け巡る。
骸骨さんが霧の中に入っていく! そこでゲイリーの姿がフラッシュバックする。怖い、怖くて仕方がない。
でもこのままここにいては、真実はわからない。
……私も行く!
そうして骸骨さんと二人で第一ステージに挑戦する事になった。
頭にザザッというノイズが走る。
次に目の前が暗転すると、ただただ闇が続く。
そして瞳を開いたように視界が広がる。
薄暗い。
ゲイリーの目線のため、通路をのしのしと進むたびに同じく揺れる。
ゲイリーの視界は天井から白色球がぶら下がる、人一人が通れそうなジメジメとした狭い地下道のようなところを荒い息づかいと共に進んでいる。
そして目の前に現れた鋼鉄製の扉に、分厚い手が伸びドアノブを捻り開いた。
そして扉を通る際少し前傾になる事により視界が下を向き、そのため見える。
もう片方の手が青白く枯れ木のように細い、少年の足を掴んでいるのが。
視界の主は瞬きののちドアを閉め鍵を差しロックをかけた。
そこで手にしていた足を目線まで持ち上げると、愛でるように上から下へと視界が動く。
何度見ても酷い。手にしている全裸の少年の顔がぐちゃぐちゃになっている。
そしてすぐ近くにある井戸の穴の上まで持ってくると手を離す。
そこで視界の主が鼻をクンカクンカと鳴らし始めたため、視界が小刻みに揺れ出す。
視界は真っ赤に染まり、左右に何度も激しく振られる——事はなかった。
こっ、これで終わり? ゲイリーが追って来ない? ……私がゾンビだから。いや、私たちがゾンビだから。
スタート地点でオロオロしていると、骸骨さんがゆっくりと歩き始めた。私はその後を小走りで追いかける。
そして大部屋まで行くと、現れたのは逆さ吊りにされた人間。……人間?
もっ、もしかして!?
骸骨さんは取り出したナイフで、逆さ吊りにされた人間から綺麗に肉を切り取っていく。もしかして私たちが食べていたのは、NPCの肉だったの? NPCでも人間設定なんだ。だからセーフなんだ。
食べたのがプレイヤーの肉じゃなかったのが分かると無性に嬉しくなる。
でもこの骸骨さん、凄い。
こんな裏道を知っていただなんて。
いや、最初は戦う覚悟でこのステージに挑んだはず、ゲイリーと。凄い凄い、この骸骨さん凄いプレイヤーさんだ!




