第27話、割れる心
窓から外を窺っていたポニーテールの女性が、大慌てで出入り口の扉へ向かう。
俺は他の奴らと同じように、外が見える位置に移動する。すると陽が傾く中、乗用車と改造装甲車! ? —— SUV車に鉄板を貼り付けてある——から複数人の人達が降りてこちらへ向かって走っている所であったが——
その後を大勢のゾンビ達が追いかけて来ている。
『パラララララッ』
なんだ今の音は?
再度、乾いた破裂音のような連続音が空気を振動させる。
あれは、アサルトライフル銃! そう、外にいる人達の中に銃火器で完全武装している外国人が一人いる。
「早くこっちよ! 」
その外国人のおかげで続々と入り口へ生存者が到着する。そして外国人の男も後退しながら銃の乱射を行なうと——
多くの走り狂うゾンビが頭を撃ち抜かれてバタバタと倒れていく。
もしかして在日の外国人ではなく、噂の熱狂的な来日しているファンの外国人なのでは!? 銃社会アメリカでは協会に属していたり、ハンティングを趣味にしている人がいると聞いた事がある。そんな彼らなら銃火器の扱いに長けていても不思議ではない。
そして最後にベストからちぎり取った手榴弾を投げ、爆発音と共にゾンビ達が派手に吹き飛ぶ中、その外国人もショッピングモールへ避難してくるのであった。
「オー、たすかりましたね」
そうして先程銃を乱射していた外国人が汗を拭ってポニーテールの女性にお礼を言っているのだが——その格好はどうかしていると言わざるを得ない。
ジーンズにベストを着ているのだが、手首のバングルと肩にトゲトゲが付いている。またヘアスタイルがピンクのモヒカンなため、世紀末に登場していそうな出で立ちだ。
「オー、アメイジング。サムライがたくさんいますね」
伊藤達を見るや否や駆け寄るモヒカン頭は、興奮を隠さず話かける。
「私もカタナ、持っています」
そう言うと背中から刀を取り外し、アチョーアチョー言いながら刀を振り回してみせる。
「ソウソウ、食料があれば、分けてもらえないデスカ? 」
「あぁ、いいがそれよりあんた、どこでその銃器を? 」
「私、マイケル=ピーターソン言います。そしてこの子達は、ここで手に入れました」
なにやらマップを出して説明をしだすモヒカン頭。
「でももう、アソコには行かない方がヨイですね」
「……ゾンビか」
「そうデース、外もそうですけど、店内も凄い量のゾンビで埋め尽くされてマース。それより——」
そこでモヒカン頭がこちらを一瞥した。すると顔のシワを中央に寄せるいやらしい顔に変え、小声で何かを囁く。
「……クレイジーボーイ」
「あぁ、あいつはほっとこう。それよりマイケル、俺たちの仲間になってくれな——」
外国人の事はもう良い。俺はソラの安否が心配なんだ。
……早くクリアするのなら、十日も待てない。目指すは北の門、ではない。それは一人でもクリアすれば全員が助かるため、北の門には多くのそれを阻止しようとするゾンビプレイヤーが集まっているはずだからだ。だからそう、俺が目指すのは——
しかしその場所を知っているのは、あの開始前の短い時間から見て恐らく俺と秋葉さんの二人だけ。……つまりそこに行けば秋葉さんがいる可能性が高くなる。
俺は出来るのだろうか? 秋葉さんがゾンビとして立ちはだかった時、その頭を金属バットで叩き割る事が。
秋葉さんには多大な恩がある。……しかしこの地獄へ連れて来られてしまった原因も秋葉さんだ。
いや、俺はなにを考えているんだ? 秋葉さんは俺の真の仲間じゃないのか? 秋葉さんがいたからソラに出会えた。秋葉さんはなにも悪くない。現に良い人だ。秋葉さんだけは裏切ってはいけない。
でも俺の前に立ちはだかったら、どうすれば良いんだ? わからない、わからないわからない。
いや待てよ、俺が仲間だと信じる秋葉さんなら、俺の邪魔をするだろうか? そうだ、秋葉さんが立ちはだかるわけがない。光猫が言っていた気がするが、ゾンビになれば痛みが与えられる。そんな与えられる痛みがあったとしても、俺を襲う事なんてないはずだ。そうだ、秋葉さんも俺をこんな地獄へ連れてきた負い目があるはず。逆にこの状態で俺を攻撃するような事があれば、俺は鬼になれる。
……信じないのか? 秋葉さんを。
俺は信じている、信じているが裏切られたら許さない!
それは信じているとは言わない、そんなの上辺だけの関係だ!
なら構わない、俺はソラだけが大切なんだ。他の何者も信じない。
そうじゃない、それじゃ駄目だ。駄目なんだよ。
なにを言ってやがる。さっき判断ミスをして死にかけたばかりじゃないのか? 偽善者ぶるな、くそ野郎!
俺は……偽善者と呼ばれても良い。それでも正しいと思う道を進みたいんだ。
笑わせるな、お前はこの過酷な世界じゃなんの役にも立たない、立てない。ただの足でまといだ。そんな考えでソラを助けられると思うな、消え失せろ!
俺の考えでは、救えない?
そうだ、救えないんだよ! この世界でなんの犠牲も払わずに生きていけるわけがない。ぬるま湯の日本にいるつもりのお前では力不足だ! 早く主導権を渡せ。あとは俺に任せれば良いんだよ。
……俺は、俺は——
はははっ、やっと引っ込んだか。ソラ、ソラだけなんだよ。他の奴らがどうなろうが知った事ではない。
俺はあの装甲車を奪い取って、このショッピングモールからの脱出を試みる。
ゾンビの殺し方も知った事ではない。バールは捨ててナイフだ。それと脚立も用意しておかないとな。




