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ホラーホラーオンライン 〜ホラーゲームに挑戦したら化け物達に追いかけ回され、しかも脱出不能で〜  作者: 立花 黒


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第24話、鼻歌が聞こえる

 いや、間違いじゃない。確かに鼻歌が聞こえる。これからゾンビ達と戦う可能性が極めて高いと言うのに、呑気なものだ。

 その鼻歌の主は刻々と近付いて来ていた。そして商品棚の角からヌッと姿を現したのは——


 顔面から血の涙を流している短髪の男、青白い顔のゾンビであった。その手にはバールが握られている。


 取りこぼしがいた! 早く武器を手にしないと!

 腕を背中に伸ばして、急いで背中から金属バットを抜き取ると正眼に構える。

 その間ゾンビはこちらに駆けてくる事もなく、ゆっくりと不気味な鼻歌を歌いながら歩いて来ている。

 しかしあのバール、もしかしてこのゾンビはプレイヤーじゃないのか?

 そうなるとかなり手強そうだが——


 兎に角、やるべき事はこのゾンビをやっつける事だ。


 バットを握りしめ半身になると、野球そのままにバットを立て構える。そして引き付けて引き付けて、頭部へ向け金属バットを強振!

 左側頭部にクリーンヒットしたゾンビは、真横に倒れる。


 ……鼻歌だなんて、不気味な奴だった。念のため倒れた奴にも、バットを振り下ろしておくか。鼻歌ゾンビの頭の所で仁王立ちになると、金属バットを真上へと上げる。


『ゴツッゴチャッ』


 バットを二度振り下ろした。頭部から血が流れ、頭の形も変形した。

 これだけやれば倒しただろう。


 すると一拍の呼吸ののち、鼻歌ゾンビは痙攣のように体全体を小刻みに震えさせたあと上体をむくりと起こす。そして血の涙を流しながら、無理矢理顔面を笑みの形に変えた。


 こいつ、死んでいない!? もしかして殴打じゃなくて、首を切断しないと駄目なのか? 兎に角——


 金属バットをカランコロンと地面に置き、買い物カゴから小型のチェーンソーを急いで取り出す。

 エンジンを始動させ、けたたましい音を立てエッジを回転。そして鼻歌を歌いながら立ち上がるゾンビに向かって、今度は自分から突っ込んでいく。


「くたばれ! 」


 チェーンソーのエッジが首に当たり、血と肉を撒き散らしながら切り裂いていく。しかしエッジが首の骨に当たったところで、そこから先には行かない! ?

 なんなんだこいつ?

 そこで振り下ろされるバールを、咄嗟にチェーンソーを手放す事で躱す。そしてもう一度振り回してきたバールを、背中から抜き取った二本目の金属バットで受け止める。


「任せろ! 」


 そこでチェーンソーの音を聞きつけたのか、刀とサバイバルナイフ、そして釘打ち機を装備する伊藤がこの場に駆けつけてくれた。

 そして刀で一閃、強振した刀でゾンビの頭を切り落——せなかった。その威力で後ろによろける首から血を流すゾンビは、立ち止まると鼻歌を再開させ手を伸ばしながらこちらへ歩み寄ってくる。


「こいつ不死身なのか? 」

「伊藤さん、加勢します! 」


 刀を持つ二人も乱入して来た。そして三人での滅多斬りが炸裂する。


「やったか!? 」


 大の字に倒れるゾンビ。

 しかし一呼吸おいてビクビクと痙攣したのち、上体を動かし始める。


「……逃げましょう! 」


 刀を持つ一人が伊藤に進言。それを受けて伊藤が「あぁ」と頷きを見せ、駆け出す。そしてこの場に集まって来ていた他の男達も、蜘蛛の子を散らすようにしてこの場から逃げ出す。

 鼻歌を歌うゾンビを、その場に一人残して。

 俺たちは我先にと駆けるため、一種の混乱状態にあった。その行動に連携はなく、ただただ個人が行動しているに等しかった。そのため皆の安否を確認出来たのは、女性陣が待つ雑貨エリアに戻ってきてからであった。


 ホームセンターエリアへの扉を固く閉ざしてから、西園寺を含めた女性たちにホームセンターエリアの説明が行われていく。


「ははぁん、それで逃げ帰って来たのだな」

「その通りだ、返す言葉もない」

「しかし首を切断出来ないゾンビか。新種のゾンビと言ったところか? 」

「あぁ、それに奴はバールを持っていた。……プレイヤーのゾンビの可能性もある」


 プレイヤーのゾンビ。もしそうなら、全てのプレイヤーのゾンビがあの不死者のような生命力を所持している事になる? それとも何かの条件が揃った奴だけ、不死身になるのか?


「なあに貧乏人ども、食料品売り場には俺様も行くから大船に乗ったつもりでいるが良い」


 ……西園寺みたいに楽観視していいのか? いや、そうじゃない。俺がゾンビならどうするかだ? 人間の心臓を求めて待ち伏せするだろう。待ち伏せ場所は、人が通りそうな通りや、ワクチンがある病院、そして食料を求めて集まる場所——

 そう考えると、食料品エリアは極めて危険な場所のように思えてくる。


「お兄ちゃん、大丈夫? 」

「あぁ」


 ショッピングモール、安全と思って来たがプレイヤーのゾンビが存在する時点で、逆に危険な場所になっていたのか。

 もっと早く気付くべきだった。


「お兄ちゃん」


 そこで抱きしめられた、ソラに。柔らかな感触に石鹸の良い香りが鼻腔をくすぐる中、涙ぐむソラの顔がすぐ間近にある。


「お兄ちゃん、凄く険しい顔をしているよ」

「あぁ、すまない」

「謝る事ないよ、ただ今はゆっくりしてて」

「……ありがとう」


 危険だが食料品を手に入れれば生存率が上がるのは間違いない。ここさえ乗り切れば——

 そうしていっときの間力の抜けた俺は、ソラに抱きしめられ続け優しく頭を撫でられるのであった。



 ◆



 それから装備を固めた男達はまた集い、今度は食料品エリアへの鉄扉を開ける。するとそこは、まだ雑貨エリアであった。みな無言で動きそのエリアにいた三体のゾンビを倒して進んでいくと、食料品エリアが見えて来た。

 とその時——


『ゲラゲラゲラ』


 静寂の中、複数の不気味な笑い声が正面奥から聞こえて来ている。この先になにか良くない者たちがいるのが、容易に想像出来た。


「一人残らず倒すからな」


 伊藤の言葉に、誰かがゴクリと大きく喉を鳴らす。

 そう、これからここは戦場へ変わる。

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