第22話、別サーバーの攻略組
車で舗装された綺麗な道を走らせる間、どこもスタート地点である住宅街と同じような——プレイヤーがゾンビに襲われている——光景が広がっていた。そして街の中心地に向けて車を走らせると、車道には乗り捨てられた多くの車両が目につき出す。中には故障しているのか人がもたれかかっているのか、クラクションが鳴り響き続けている車両もあった。
『ガタンッ』
それらを避けて車を歩道に乗り上げさせると、そのまま走らせていく。
中心街へと着くと、聳え立つビル群が出迎えてくれた。また街への入り口にはバリケードが出来ていた。
ここから先は車で行けないな。
車を乗り捨てると無用な音を立てないようドアは閉めずに開けっぱなしで離れ、身を屈めながら進んでいく。そしてバリケードを越えると、無人のオフィス街が目の前に広がった。信号機が誰もいないのに律儀にその使命を全うしている中、大きな交差点の曲がり角から二体のゾンビが——
フラフラと現れたそいつらは、まだこちらには気付いていないようだ。
殺らなければ殺られる。
俺はそっと近づくと、側頭部へ迷わずバールをフルスイング。横へ飛び散る鮮血。一体の頭を破壊する事に成功する。
するともう一体が足を引き摺りながら俺に向かって来た。それも引き寄せてのフルスイング。一撃で破壊したゾンビが勢いのまま、俺の真横へ倒れるようにして突っ伏す。
「ソラ、このまま一気にビル街を抜けてショッピングモールを目指そう! 」
「うん」
マップを確認しながらソラの手を引き進んでいると、道の真ん中で倒れた人に三体のゾンビが地面に膝をつき食している最中だった。
刺激しないようにしないと。もしあの中にプレイヤーのゾンビがいたら、俺たちの心臓を狙って襲ってくる可能性がかなり高いから。まぁこのゲームの事だから、プレイヤーじゃないゾンビでも物音を立てればこちらに来る可能性は高そうだが。
そう、無用な戦闘はしない。小走りでやり過ごすんだ。
そうこうしていると、曲がり角から新たなゾンビが一体飛び出て来た。このゾンビも足を引き摺りながら来ているため移動速度が遅い。
こいつも無視だ。
三区画ほど進むと、お目当の建物、ショッピングモールが見えてき出した。
ショッピングモールの敷地内——広大な駐車場——に入ると、遠目にゾンビ達がフラフラ徘徊しているのが目につく。この距離からだとあいつらも、こちらを人間と識別できないらしく襲って来ないようだ。
そしてゾンビ達に近づき過ぎないよう気をつけながら進み店内入り口まで行くと、扉にシャッターが降りていた。
くそっ、どこか開いている場所はないのか! ?
「二人とも、こっちよ! 」
声がした。その声に引き寄せられ左へ視線を送ると、建物の鉄扉が開かれそこからポニーテールの女性が手招きしていた。
「ソラ! 」
「うん! 」
鉄扉からショッピングモール内へ入るとすぐにドアロックをかける。
「助かりました」
「お互い様よ。それより生存者は、みんなこっちにいるわよ」
ポニーテールの女性に導かれ、従業員用の白を基調とした通路を進むと、三階まである吹き抜けのホールへと出てきた。
そこには十数人の男女がいた。皆酷く疲れた表情で腰を下ろしたりしている。
取り敢えず当分の危機は脱したのか?
いや、このゲームがこんな簡単に安全を得られるわけがない。これから生きるための行動をしないといけないだろう。
ざっと広い店内を見回す。ここには多くの服屋と靴屋、そして雑貨屋が一店だけあった。また通路を少し進むと大きな防火扉が閉まっており、他のエリアと区分けしていた。
どうやらこのエリアに食料品はないようだ。
そこに日本刀を手にした男が三人、こちらの輪に入ってきた。そしてその中のボサボサ頭である一人が前に歩み出る。
「みんな聞いてくれ。俺の名前は伊藤竜二、攻略組だ! 」
……伊藤竜二だと? たしか秋葉さんに並ぶ歴代ホラーホラーのスネークに、そんな名前の古参プレイヤーがいたような。そんな彼が最初から同じサーバーに居れば噂ぐらい聞いていただろうから、他のサーバー出身なのかもしれない。
「今の俺たちには食欲が存在する。よって食品エリアを制圧する必要があるんだが、この中に第四ステージをクリアした者の証、日本刀を持っている奴はいるか? 」
場は静まりかえり、名乗り出る者はいなかった。
「いないか、それなら先に武器を調達する必要があるな」
武器だと? 拳銃がある世界だから、武器屋でもあるのか!? いや、ここは巨大ショッピングモール。流石にアメリカでもショッピングモールで銃は取り扱っていないだろう。ただしホームセンター的なエリアは存在するのかもしれない。
「これから男たちは、エリア解放のため頑張ろう! 」
そこで座っている人たちの中から、一人の男が立ち上がる。
「うるさいぞ、愚民。俺様に指図するな」
「なんだお前は? 」
「俺様か、俺様は西園寺宗一郎だ」
そこで西園寺が素早く右手を横へ振ると、離れたガラス——店舗のショーウィンドウ——が砕け散った。
「おい貧乏人ども、何が起こったのかわかるか? 」
「……もしかして、今のは『秘めたる力』なのか? 」
秘めたる力、たしか唯一ある課金アイテムで破格の値段がした奴!? そして今のは超能力、サイコキネシスなのか!?
「ははぁん、そうだ貧乏人ども。お前らでは一生かかっても手に入れられない秘めたる力だ。俺様はこの力を駆使して攻略して来た」
こいつは伊藤とは別のサーバーの攻略組なのか。
「くそっ、みんなざわつくな! 」
「ははぁん、俺様は食料は取りに行く。その時になったら参加するから、それまでは貧乏人どもで勝手にやってろ」
「ぐぬぬぬ、貧乏人って言うな」
そうして西園寺を除けた男性九名で、武器を求めてまだ制圧していない他フロアを捜索する事になった。




