第18話、底辺Youtuberフラン
本日は二話アップします!
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救援はまだ来ない。
私がこんな状態になった事を家族が知れば、いくら費用が掛かっても動いてくれるはずなのに。
そして体温が失われる感覚になり、生きた心地がしない。
見上げれば周囲には、死臭漂う皮を剥がれた人がたくさん逆さに釣り下げられている。
私はそんな中、小柄な身体を活かして物陰で息を殺し、圧倒的なチカラを持つ怪人から隠れ続けている。
私はいつまで、こうしていないといけないの?
天井に付きそうな程の長身で鍛えられた太すぎる胴体に、そこから伸びるに相応しい太くてガッチリとした腕に太腿。ゲイリーは大人の男性でも勝てないと思う。しかもあの怪物は、痛みを物ともせず、性格は極めて残忍。
そんな相手を前に、か弱い高一の私が敵うわけがない。
……この地獄のような世界、このゲームをプレイしたキッカケはほんの些細なものであった。
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私はニコ=ランノルト。
日本に住んでいるのは、この国の学校を卒業する事が国際的に認められているから。と言う建前で、本当は各所に聖地がある日本に一度住んでみたかったから、お姉様が住んでいる都内の部屋に押し掛けたわけ。
私の家族は有名貴族で、日本に住むにあたって私は偽名を名乗る事を余儀なくされた。
そこで——
ニコは、日本語で二個を意味する。そこから『フ』を取りランノルトの『ラン』を繋げて、可愛らしく『フラン』としSNS上でも名乗っていた。
そして小学生の頃から聖地日本でお姉様と二人暮らしを始めた私の当面の目標は、チャンネル登録を増やして底辺Youtuberを卒業する事だ。
初期はゲーム実況とかをしていた。でも最近は北欧系女の子と言うだけでは閲覧数は増えない。しかも年を重ねるごとに閲覧数の増加傾向はなだらかになり、ついに高校生になった今では童顔な私でさえ劣化したと罵られ、明らかに視聴者さんが減ってしまった。
でもコネを使ったりエッチ系をアップするのは違うし……。
そんな中、お姉様が次世代機プレプレザターンを買って来た。このゲーム本体、滅茶苦茶高額。
有名Youtuberは勿論持っているけど、出たばかりと言う事もあって大人でも持っている人は少数。
勿論、未成年で持っているとなると更に限られてくる。
私はこの出会いに天命を感じた。
もしかしたらこれを機に、有名Youtuberの仲間入りをするかも知れないから。
自分で稼いだお金なら、お姉様から嫌味ごとを言われる事もなく可愛いゴスロリ服を堂々と沢山買えるし、カッコイイお兄様と運命的な出会いとかもしちゃって——
「ニコ~、あんた何やってんの? 」
お姉様が残念なモノを見るような目で、寝台で枕を抱きしめ脚をバタバタさせている私を見ています。
「いえ、なんでもありません」
口元から垂れていたヨダレをじゅるり。
いけないいけない、私とした事が。
背筋を伸ばして明るい未来を獲得するための戦略を思考する続きに入ります。
現在、プレプレザターンで一番有名なタイトルはファイナルグランブル。ただこのゲーム、やり込み要素が半端ないらしくフィールドが広い上に自由度が高く、またストーリーは属性を揃えないと途中から進めなくなる仕様。
今までこの作品のシリーズをやった事がない私にとって、ただ単に遊ぶだけなら良いんだろうけど、見せれる動画をアップ出来るレベルのプレイはかなりハードルが高すぎる。
そこで目を付けたのが、マニアの間で大盛り上がりを見せているホラーホラーオンライン。
こちらはお姉様がソフトを持っていないため、自腹で購入しなければならなかった。
一万近い出費は正直痛かったけど、それは更に同年代の女子がやる可能性を低くしている。
そう、狙うならこのゲームしかない!
思い立ってから前作をやってみた。
アップされているプレイ動画も結構見た。
また特に特別な知識は必要なく、操作は上手く逃げ回れば良いだけだし、仮にゲームオーバーになってもそれはそれでウケている。
それに今回ゲーム内の服装はスキャニング棒を使用するため、一番のお気に入りドレスに身を包みメイクもバッチリ。そして肝心要の撮影機材も準備オッケー!
そんな万全な状態でホラーホラーに挑んだと言うのに、……まさかこの私が電子テロに巻き込まれてしまうだなんて。
一緒に第一ステージに挑んだのは、名も知らないバールを手にした大人が四人。
そして最初に死んだのは、私以外で唯一女性でありハイヒールを履いたOL風のお姉さん。
スタート地点の廊下でコケてしまい、四つん這いになって逃げているところを捕まり背後からゲイリーが持つ鉈で首を跳ねられた。
その隙に下の階のこの広い部屋に逃げ込んだのだけど、三人いる男性の内の誰かがゲイリーに見つかったみたいで、絶叫が上がったからもう生きていないと思う。
それからずっと隠れ続け、もうとっくに脱出可能になる30分は過ぎているはず。
だから部屋の入り口にこっそり向かってみたのだけど——
ゲイリーは入り口付近にいた。そして二番目に殺した男の人を、夢中になって解体している最中だった。
捕まれば、あんな酷い目にあう。
無理、ゲイリーがすぐ近くにいる中、横を通り抜けて部屋を出るのは。
後ずさりその場を離れると、握りしめているバールを抱きしめるように持って部屋の奥、物陰でしゃがみ込む。
それより他の人はどうしたの?
私と一緒で身を潜めている?
それとも知らない間に殺されてしまったとか?
そこで視界にノイズが走る。




