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ホラーホラーオンライン 〜ホラーゲームに挑戦したら化け物達に追いかけ回され、しかも脱出不能で〜  作者: 立花 黒


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第17話、血濡れた腕

 呼吸がかかる程の至近距離になり気付く。

 狭い部屋に並ぶナース達は明かりを受け動けないが、それでも強引に動こうとしているためギチギチと不気味な音を立てている事を。


 仮にこの接近した状態でライターの火が弱まるような事があれば、四方八方からあのハサミで滅多刺しにされ致命傷を受けてしまうかもしれない。

 そう考えると、ライターを握る手が震えてしまう。その振動が手に伝わり、炎も揺らめく。

 しかも細い部屋のため、ナース達を押しどけないと来た道を戻れない。


 ……押しどけても大丈夫だろうか?

 ナースの冷たい肌をグッと押すと、僅かにだけ動いた。が意外に重い。

 そうだ! もっと力一杯押したら転倒を狙えるんじゃないのか!?


『トスッ』


 そこで肩に振動と共に痛みが。ナースの一人が振り下ろしたハサミが肩に突き刺さっていた。背後に位置するナースが、自身が壁となり陰になってしまっていたのだ。そして痛みと振動で、ライターの炎が消えてしまう。

 げっ、早く明かりを!


「くっ、ぐぅ」


 シュッボッと言う音を何度か立ててやっと明かりが灯った時には、激痛と共に俺の腹部と太腿に赤いシミが。飾り気のない鋭利なハサミが突き立てられてしまったのだ。

 逃げの一心で片足を引き摺り部屋を飛び出る! と、勢いのまま転げてしまう。


 しまった、またライターの炎が消えてしまった。早く炎を灯さないと!

 焦りから中々炎が点かない。

 しかしナース達に囲まれるような事は無かった。

 そうか、廊下には赤い光が点いているから、その光を受けて動けないんだ!


 一度深呼吸をして落ち着きを取り戻した俺は、ライターをポケットにしまって鏡から元の世界へと戻る。トイレに篭る田中は、未だに扉を固く閉めたままのようだ。

 臆病者は無視だ。あとは宝玉を見つけ逃げれば、クリアなんだ。

 そこでマップを広げて、宝玉の場所を確認する。


 すると非常階段の反対側にあるナースステーションに反応が無かった。

 ……これは、移動している!? つまり誰かが宝玉をゲットしたんだ! 誰だ、眼鏡か? いや、兎に角トイレから出よう! ここで盲目ナースに遭遇しても、身を隠す場所がない。

 と思っていると、ギョッとしてしまう。それは入口から顔半分が出てきたからだ。


 ……眼鏡か。たく、驚かせやがって。

 しかし宝玉を持ち出しているのは眼鏡と思っていたが、ここに眼鏡がいるって事は違うのか。


「学くん、さっきのカットインは? もしかして鍵を手に入れたのか? 」


 カットイン? そうか、みんなにも同じ映像が流れていたのか。


「はい、ゲットしました」

「どこにあったんだ!? 」


 その質問で言葉を失ってしまう。

 どうする? ここで正直に受け答えしたら、手柄を横取りされるかもしれない。でも言えませんとか言って答えるのを拒否した場合、眼鏡がどう言った行動に出るのか分からない。


「どうしたんだ? 」


 笑い袋を持っている、早く受け答えしないとどんどんと俺の立場が悪くなる。……仕方ない。


「すみません、痛みで朦朧としてしまっていました」

「そんな事はいい、早く答えるんだ」

「……トイレの中の、真ん中の鏡が隠し部屋に繋がっていました」

「そうか、そうだったのか! そして光を浴びせたら動きが止まるナース達が、そこにいるわけか」


 カットインを見てそこまで理解していたのか。

 しかし考えてみれば最初にトイレを探した時、鏡に異変は無かったはず。それは仮に最初から鏡に道が出来ていたならば、他のルームの人達も簡単に見つけているはずだからまず間違いないだろう。つまりあの危機的状態、盲目ナースが二階に来た状態になり初めて鏡がゲートになるのだ。

 ……だが、そこまで説明してあげる必要はないだろう。


「そうです」

「よくやった、これで攻略組の人達に第三ステージを挑んで貰える」


 ……眼鏡は過激だが、真意はこのゲームを真剣に攻略させたい人間なのか? 本当の事を伝えた方が良いのか?


「そうとなれば、早くこのステージから脱出したいものだな」

「はい! あっでも、宝玉——」

「あぁ、宝玉なら尾佐田が勝手に持ち出した。不本意だが、私たちは奴がクリアするまで逃げてればいい」


 そして身を屈めながらトイレを出て通路を進んでいると——

 病院内を僅かに照らしていた月明かりが、一斉に消えてしまう。静まり返る病院内。その後思い出したかのように、時折廃病院内に光が差し込みまた暗闇へと戻るを繰り返す。


「どういう事だ! 」

「……これってもしかして」


 嫌な予感がする。あの鏡の世界から、三人のナース達が追って来る!


「庵馬さん、もっとトイレから離れないとナース達が追って来る! 」

「あぁ、あの不気味なナース達か」


 そこでまたノイズが走る。暗闇の中鏡から這い出してきたナース達がむくりとその場に起き上がると、田中が立て篭るトイレの個室に向けカクカクと動きながら歩を進める。そしてハサミを扉に向け執拗に、カッカッと振り下ろし扉を破壊した所で身体の自由が戻る。続けてトイレ方面から聞こえる悲鳴。

 俺たちに田中を心配している余裕はない。戻っても何も出来ない。そう、早くクリアする事が唯一の助けとなる。急ぐんだおっさん!


 そこで再度ノイズが走る。またカットイン! ?

 駆け足で角を曲がりこちらへ来ていた盲目ナースが、速度を緩め足を止めると高音の雄叫びを上げ始める。その姿はどこか苦しそうであるが——

 すると次の瞬間には、盲目ナースの肉を突き破り、腹に一本、また背中に一本と計二本の血塗れの腕が生えて来た。そしてちょうど盲目ナースの背後をとっていた——非常階段のドアノブに手をかけている—— おっさんに向け、背中からつき出ている腕が握り込みを行なう。するとかなり離れていたのに胸を押さえたおっさんが苦しみだし、苦しむまま壁に体当たりをしてしまう。そしてその場で崩れ落ち、胸を押さえたまま動かなくなった所で身体の自由が。


 なんだあの腕!? まるであの突き出た血塗れの腕もサイコキネシスを操るようである。しかも完全に距離を無視した攻撃に、背中にもある事から今度から背後も危険だ。

 そして今の俺たちとの立ち位置、盲目ナースとナース達の挟み撃ちとなってしまっている。最悪だ、どうする? それと三人のナース、音を立てずに篭っていた田中を襲った事から、恐らく音を立てなくても匂いとかで迫ってくるタイプのように感じる。

 そして宝玉だ。おっさんは絶望的だから、俺たちのどっちかが宝玉を外まで持ち出さないといけない。


 取り敢えず病室の一室に飛び込んでいた俺たちは、時折暗闇の中月明かりに照らされる廊下を覗き見る。

 幸運な事に盲目ナースはおっさんの方へ向かい出したようで金切り声が遠ざかっていっている。最悪な事にナース達が近付いて来てやがる。やるしかない行くしかない。ナース達をギリギリまで引き付けて部屋を飛び出す事により、盲目ナースに出くわさないようにして!


 そうだ、今一番の脅威はゆっくりとだが刻々と迫るナース達では無く、あの赤い腕が飛び出てからフラフラと横に揺れながら少しずつ前進するようになった盲目ナースの方なんだ。

 盲目ナース、早く曲がって行ってくれ! ナース達、もっとゆっくりゆっくり来るのを遅らせてくれ!

 鼓動が激しくなる。手に汗握る非常用に点火するつもりのライターを持つ右手が、カタカタと震えてしまう。


 ……ふはははっ、やってやるよ、俺がやってやるよ!

 目を一杯に見開き、奥歯を噛み締める。

 そして盲目ナースがL字になっている通路を曲がった! それを確認して、咄嗟に部屋から廊下へ飛び出る。するとすぐ背後まで迫っていたナース達の一人が振り下ろしたハサミが、弧を描きすんでの所で背中を掠め空を切る。


 それでも背後から迫っている圧を感じながらも、ここはそろりそろりと、しかし確実に一歩一歩進んでいくしかない。盲目ナースが引き返してきたら終わりなんだ。

 そして曲がり角まで来てから、勢いよく非常階段の扉に体当たりをして外に飛び出す事に成功した。そこからライターをポケットに突っ込むと、右手で口を開き絶命しているおっさんの懐から見えていた宝玉を掴もうとするのだが——

 伸ばした右の手首が、まるでオラウータンに鷲掴みされたようにへしゃげてしまう。


 くそが、サイコキネシスか!?

 ウオラァー!


 使い物にならなくなった右手を、それでも酷使して宝玉の上に置くと、引っかけるようにして手前に引き宝玉をこちらへ転がす。そして宝玉を手にした俺は、非常階段を転がるようにして降りて一階へと飛び込んだ。

 後は楽勝だった。足を引きずるも俺は早足で闇に包まれた建物を出ると、雨が止んでいた夜空のもと鉄柵門を開きステージクリアするのであった。


 その後鏡の世界で手に入れた鍵をもう一人の生存者である眼鏡に渡した俺は、念願の潤滑油を購入してあとを攻略組に託すのであった。

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