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ホラーホラーオンライン 〜ホラーゲームに挑戦したら化け物達に追いかけ回され、しかも脱出不能で〜  作者: 立花 黒


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第14話、朽ちた病院

 気が付けば小雨が降る中、セダン車の後部座席に座っていた。首だけしか動かないが、同じく車に乗り込んでいる他の奴らも大人しく座っているため、そういう仕様なのだろう。

 車は雑木林の中をくねくねと走る。舗装されていない狭い人道を進んでいるため、ガタガタと車体が揺れそのたびに隣の人肌を感じる。

 かなりの悪路だな。


 それから揺られること暫し、坂を上っていくと突然視界が開け観音開きの大きな鉄柵門が車の前に現れた。

 車はズザザザッと音を立て停車すると、俺たちは体が勝手に動き車から降りていく。


 そこで稲光が走る。

 その光で眼前にそびえ立つ鉄柵門と、その先の廃病院が照らし出された。

 苔と黒いシミに覆われている廃病院は二階建てで、窓にはベニア板が打ち付けられて塞がれている。しかし何箇所かベニアが剥がれた窓があり、そこが良くない場所へと続く闇の入り口のように感じてしまい思わず目が離せなくなる。


 顔とか見つけたら間違いなく悲鳴をあげるな。

 体が廃病院の方を向いて固定されているため、頭を動かし視界を動かそうとしたのだが、そこで何者かにこちらを見られているような気がして視線を二階へ持っていった。


 何もいない……か。

 しかし戻した瞬間は、たしかにそこに何かがいたような気がしたのだが——

 とそこで今度はハッキリと、窓から白っぽい物が見えた。心臓が大きく鳴り血液が逆流する感覚に襲われる中、今のが何だったのか脳みそが解析を行う。

 あれは……ただのカーテンの揺らめきのようだ。

 どっと疲れが襲ってくる。


 そこでまた、俺たちの体が勝手に動き始める。鉄柵門の小脇にある小さな鉄の扉前に集まると、車を運転していた眼鏡がそれを思いっきり蹴破り敷地内へと踏み込んで行く。その後に俺たちも続いていっているのだが、勝手に自分の体が動くのは妙な気分だ。

 そして全員が敷地内に入り蹴破った鉄の扉が霧で蓋がされたあたりで、やっと体の主導権が戻ってきた。


 すると眼鏡が全員の方に振り返り笑顔を作った。


「さてと、まずはいつでも退場出来るように30分時間を潰す必要がある。その間雨に濡れるのも何だからあそこの中に移動しよう」


 眼鏡の指差した廃病院の玄関前には、一台のマイクロバスが放置されていた。塗装が剥がれ錆で茶色に染まった車体表面には様々な落書きが施されており、タイヤは全てパンクしている。

 狭い車内に入ってみると、座席から黄色い綿が飛び出したりしているものの、窓ガラスが健在で雨風が防げたため腰を下ろすぶんには問題なさそうだ。


 そこでそれぞれ簡単な自己紹介を済ませると、眼鏡がこのステージについて話し始めた。

 ちなみに中肉中背の特徴が無い男が田中、腰まである長い黒髪と目がギョロリとしている骨と皮だけのような細い女が山村、小太りで背が低い30後半のおっさんが尾佐田(おさだ)である。

 どうやらこの中では俺が最年少っぽい。


 そして眼鏡の説明は大体こうだ。

 敵は一体で廃病院を徘徊しているため、引き連れて来ない限りこのバスを含めたスタート地点は安全である。

 宝玉は二階にあるが、建物の階段は防火扉で行く手を遮られているため、裏手にある非常階段を使わないと二階に行けない。

 建物内から非常階段へと出る扉には鍵がかかっているため、まず一番最初にその扉を開く鍵を手に入れないといけない。

 そしてこれらクリア関連の作業は全て眼鏡が行うので、俺たちは敵に気をつけながら次のステージのキーアイテムとなる、まさしく鍵を見つけ出すのを手伝ってほしいと言う事だ。

 ちなみに敵は盲目だが、エコーロケーションという口から出す音で視覚化する技術を巧みに使い——漁業で言う所の船が出すソナーのような力で——、例え暗闇に隠れても敵と自身の間に何か遮蔽物を置かないと見つかってしまうそうだ。

 しかしこの眼鏡の説明、分担作業を促すものであるのだが——


「早くこんな世界から脱出するため、みんなで協力して頑張りましょうね! 」

「なあ庵馬さんよ! 」


 今までじっと聞いていたおっさんが、明らかに大きすぎる声量で眼鏡の名を呼んだ。そしてドスの効いた声で続ける。


「もしあんたが死んだら俺たちはどうすればいいんだ? 」


 そう、肝心の宝玉の場所と非常階段への鍵の場所が俺たちに教えられていない。MAPがあるため宝玉のおおよその位置はわかるが、もし眼鏡が脱落した場合、俺たちの混乱は必然となるだろう。


「何を言っているんだ、そんなの私が死なないように君達が頑張れば良いだけの話じゃないか」


 こいつ、よくもいけしゃあしゃあと。


「……若僧が、なめるなよ」


 おっさんもかなり腹を立てているようだ。そして静かに立ち上がると、一気に眼鏡に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。

 しかし眼鏡は落ち着き払った態度で言葉を置いていく。


「尾佐田さん、そこからどうする気なんですか? システム上あなたは私を殴れないですし首を締め上げる事も出来ない。ちなみに仮に私がへそを曲げてしまったら、私は躊躇する事なく退場しますよ。そしたらあなた達は、夜を迎える前にもう一度どこかのステージに挑戦してクリアしなくてはならない。どのような判断をすれば得なのか——」


 そこで言葉を一旦止めた眼鏡は、強制的に顎を上げているため流し目で俺たちを一瞥する。


「ついでだ、皆さんも冷静になって鑑みる事をおすすめしますよ」

「……くそっ! 」

「そうそう、尾佐田さんは一回私に楯突いたのでマイナス5点です」


 その薄ら笑いが聞こえてきそうな言葉におっさんは手を離し、俺たちは下を向いた。


「さて、そろそろ時間ですね。行きますか」


 このチームは自己中心的な人物が指揮を取る最悪のチームだ、始まる前からこんなんでは先が思いやられる。

 みんなの腹の中はわからないが、眼鏡が作り出した主従関係とランク付けのため、主である眼鏡以外の横の繋がりも希薄なものとなっている。その主従関係もいつ捨て駒とされるかもしれない、また逆に寝首をかくかもしれない怪しげなものではあるが。

 かく言う俺も、眼鏡に引っ付いてまわり色々と勉強させて貰うつもりで、やばくなったら自分一人だけでも助かるよう立ち回らせて貰うつもりではあるがな。


 俺たちは一言も話す事なく、眼鏡の後に続きバスから降りた。

 先頭を歩く眼鏡は玄関の扉前で足を止めると、扉に顔を寄せて耳を澄ましている。

 そして苔やらで薄汚れた元は透明であったであろう観音開きの玄関の扉を僅かに開くと、早速建物内のカビ臭い匂いが鼻を襲ってきた。

 隣の紅一点である山村が顔を背け咳をしていると、眼鏡が彼女の背後から手を伸ばし口元を押さえつける。


「ちょっ! 」


 山村がヒステリックに喚きながら手を振り抵抗を試みるが、眼鏡に羽交い締めにされ完全に口を塞がれてしまう。


「ここから先は、その咳が命取りになるんだよ」


 眼鏡が力強く、そして囁くように叱咤すると山村は大人しくなった。そして眼鏡が先陣を切って廃墟内に入ると、俺たちも後に続く。

 建物の中に入ると、まず出迎えてくれたのは無人の受付とその手前に並ぶ椅子だ。しかし本来順番を待つ人間が座る備え付けの椅子は、錆びている物は良いほうで腐食して折れているものがその殆どである。

 床や壁は老朽化が進んでおり、また至る所が赤黒く変色してしまっている。

 入り口から見て左側には防火扉で塞がれた階段とその右隣にはトイレが見える。

 受付の左右には奥へと伸びる通路があるが、右側の通路には机や椅子、果ては棚やゴミなどが天井近くまで積み上げられバリケードのようになっており、ここからは進めそうにない。

 そこで左の通路の方から、『ペタッペタッ』っと奇妙な音が聞こえ始めた。

 その音はゆっくりではあるが、確実にこちらへと向かって来ている。


「あれはナースの足音だ。気をつけろ」


 眼鏡が小声で説明すると、右の通路のバリケード前まで移動して姿勢を低くした。俺たちも慌ててそれに従いしゃがむ。


 音の発生源はかなりゆっくりと進んでいるようだ。

 そして時間をかけてトイレ前まで移動した足音が、来た道をまたゆっくりと戻っていく。

 俺は受付の陰から少しだけ顔を覗かせその音を出す主を覗き見るが、あまりの醜悪な姿のためすぐに頭を低くした。


 いかれてやがる。

 音の主はミニスカのナース姿に身を包んで内股で歩いているのだが、当然お色気要素なんてものは微塵も無く、逆にそのアンバランス差が不気味さを際立たせているように思えた。

 ナースキャプを忘れた頭部からはばらつきのある濡れた黒髪が肩まで伸び、肌の至る所が赤黒く変色。そして閉ざされた瞳がどうあっても開かぬよう、上から下へと何本も行き来する太い紐で瞼を縫い付けていた。

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分かった! 第3ステージの鍵とやらは、この看護婦の眼球内だな!?(妄言) 紐を切って中身を抉り出す、ベリーハード・エクストラミッション、開始っ! (「-」マイナス表記について、文章中ではカタカナの「…
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