第0話、食人鬼と配信者 ※胸糞展開です。苦手な方は飛ばして下さい※
タンタンタンタン。
20XX年、現在日本には二人の殺人鬼がいると噂されていた。一人は『食人鬼』。その名の通り、殺した相手を食べる、いや、人を食べるために殺しをしているとされる異常者。そしてもう一人は『配信者』。殺しの現場の一部始終を動画にアップする異常者で、主に一戸建ての住宅に押し入って住民を痛ぶった後殺人を愉しむ。そんな二人はいつしか結託し行動しだしたと風の噂で聞いた事があった。
そして私は、春休みに友達の玲子の家にお泊まりに来ていた。しかし楽しいひと時はあっという間に過ぎて就寝の時刻。そんな真夜中に侵入して来た。一人の殺人鬼が。
抵抗虚しく強制的に眠らされた私達は——目が覚めると薄暗いリビングルームで、ダクトテープによって口を塞がれた状態でテーブルを囲むように椅子に座り縛り付けられていた。隣を見れば、怯えた表情の玲子と玲子のお母さんが同じく椅子に縛り付けられていた。
タンタンタンタン。
あれっ、そう言えば玲子のお父さんの姿が見えない。どこかに隠れているとかなのかな?
「うふふっ」
そこで小さな明かりが近付いてくる。あれは携帯のライト。そして私達の顔を照らしながら、もう片方の手で何かを載せたお皿を持って殺人鬼が現れた。
明かりが邪魔してよく見えないけど、目を凝らしていく。そして微かに血の匂いが届く中、薄っすらと見えてきた物は——
あれは、 ……あれは玲子のお父さんの身体から切り離された頭部!
それに気が付いた玲子と玲子のお母さんが無我夢中で椅子を揺らし、ガムテープ越しに叫んでいる。そんな中殺人鬼はテーブルの真ん中にお皿を置き携帯を立てかけると、慣れた手つきでお父さんの目玉をスプーンで取り出したりナイフで鼻や耳を削いだりしていく。その光景を目の当たりにして、私は血の気が引き吐き気を催してしまう。
「うふふっ」
……この殺人鬼、私達の反応を見て、撮影して楽しんでいる。
「今から調理するから、少し待っていてね」
そして程なくして台所から、場違いないい匂いが香ってくる。この香りはカレー?そして、暫くするとカレーをよそった皿を手にして殺人鬼が現れた。
今度は行儀正しく椅子に着席すると、そのカレーを撮影しながら美味しそうに食べ始める。そして肉片が見える事から、恐らくあのカレーの中には玲子のお父さんの身体の一部が入っている事が窺えた。
でもどう言う事?この殺人鬼は撮影している事から『配信者』ではないの?頭が混乱する中、食い入るように殺人鬼を見つめていた私に気がついた殺人鬼が、私の目を見るとスプーンを持つ手を止め覗き込んで来た。
「うふふふっ、その目、疑問に思っているね?私の正体が配信者なのか、食人鬼なのか?……それとも全くの別物、模倣犯なのかと」
身体の芯から震えが来そうな程の冷ややかな空気が充満する中、みんなの視線が一点に集まる中、一旦言葉を千切った殺人鬼がゆっくりと口を動かし始める。
「答えは両方。食人鬼であり配信者である。因みに今の私は食人鬼で、配信者がうるさいから撮影もしているよ。そう、私の身体の中には二つの人格が同居している、所謂多重人格者なの」
そこで突然、数秒間、殺人鬼が頭を小刻みに横へ震わせ始める。その光景は不気味。人の動きには見えない動き方をしている。そしてその震えが収まると、殺人鬼の眼光が圧を放つ鋭いものへと変わった。
「……バトンタッチだ。噂で知っているかもだが、俺様は食人鬼みたいに優しくないぞ。殺される運命の奴等には何も教えてやらない。疑問に思ったまま、いや、疑問を抱かせない程の絶望を心に刻み込んで送ってやる」
いつの間に取り出したのか、殺人鬼の携帯を持たないもう片方の手には一本の肉厚のナイフが握られていた。
「さてと、俺が二人殺って良い事になっているんだが、一人は顔をボコボコに破壊して殺してやろうと思う」
そこで殺人鬼が撮影しながら私と玲子を交互に見出す。
「お前ら、かなり年が近いな。どう言う家族構成だ?」
そこで殺人鬼が玲子の口を塞ぐダクトテープを乱暴に剥がす。
しかし玲子は答えない。
すると殺人鬼が少し屈み、水平になるよう視線を玲子に合わせる。
「お前らはどう言った関係だ?」
その真正面からの問いにも答えない、何も口にしない。その代わりに実の父親を殺した殺人鬼を、目を見開いて睨みつけ続ける。
「くくくっ、お前いい度胸だ」
そこでナイフを持った殺人鬼が玲子の後ろに回り込む。そして上がる玲子の悲痛な叫び。
「おっとジタバタするなよ。あまりにも動いたらいくら俺様でも、ナイフで爪を剥ぐのを失敗して指を切断してしまうかもしれないからな」
そして正面に戻って来た殺人鬼は、手の平を開いて玲子の爪を三枚見せてきた。
「さぁ、お前はなんだ?」
「はぁはぁはぁ……私はこの家の子供。そしてその子は私の家にお泊まりに来た親友よ」
そこで目を一瞬見開いた殺人鬼が、私を見据えて大爆笑する。
「なんだ、お前滅茶苦茶運がないな。俺様達に狙われた家の奴等も運が無いが、お前はその中でも一番運が無いぞ。はははっ、決めた。お前は最も残酷な殺し方をしてやる。誰がどう見ても運が無いと思わせる殺し方をな、喜べ。……しかしこれは、今からこの動画の再生数が楽しみだな」
殺人鬼は口角を釣り上げ目尻を下げると、嬉しそうに私に向かってそう言った。
「さてとメインディッシュは一先ず置いておいて、まずはこの家の娘を母親の目の前で殺るか」
そこで風が吹く。殺人鬼がテーブルを蹴りで真横に吹き飛ばすと、瞬時に椅子に縛り付けられていた玲子の縄をナイフで切り落としたのだ。
そして手にしたナイフを床に投げつけ突き立てると、撮影しながら片腕を前にやり半身の戦闘ポーズを取る。
自由になった玲子は、勢いよく椅子から立ち上がると床に刺さっているナイフ目掛けて駆ける。しかし玲子がナイフを手にする事はなかった。殺人鬼の拳が玲子の綺麗な顔面に、深く突き刺さったのだ。そのため仰け反り床に転げる玲子。そんな玲子に跨った殺人鬼は両手で防ごうとする玲子の隙をついて左の拳を振り下ろしていく。玲子のお母さんがダクトテープ越しに絶叫をあげる中、玲子の顔は嫌な音を立てながらどんどんと破壊されていく。それは滅多打ち。そして鼻は複雑に折れ歯も全て抜けた頃、殺人鬼が飽きたと漏らして心臓にナイフを突き立てようとする。玲子もナイフを握り一生懸命に抵抗を試みるけど——ゆっくりとゆっくりとナイフは胸へ沈んでいく。
「ぐふぅっ」
そして心臓にナイフが突き立てられた玲子は、動きをパタリと止めた。
と次の瞬間、玲子に馬乗りになっている殺人鬼が頭を小刻みに横へ震わせる。そして振動が収まると表情が柔らかなものへと変わった。
「次は私の番だよ」
とそこで殺人鬼が首を捻り、散乱した食べ物を見やる。
「あぁ酷い、私の愛情一杯カレーライスがぶちまけられている。……配信者はいつもこうなんだよね」
そして殺人鬼が玲子のお母さんの方に顔をグルンと向けた後、舌舐めずりする。
「顔は生きたまま食べてあげる」
そう言って殺人鬼は音もなく立ち上がり玲子のお母さんのダクトテープを剥がすと、携帯を立て掛けた後飛び掛かり椅子ごと押し倒して噛みつき始める。助けてと声を荒げる玲子のお母さんを無視して何度も何度も。そうして殺人鬼は玲子のお母さんの頬や左目、そして舌を噛みちぎった所で返り血に濡れた顔をヒョイと上げる。
「目玉を潰されると焦るよね、混乱するよね。うふふ、沢山噛みついたからそれどころじゃないか。さてと、ここからは調理の腕の見せ所ね。人間死んだら一気に鮮度が落ちるから、出来るだけ手早く済ませないと」
殺人鬼は生きている玲子のお母さんの腹を切り裂きあばくと、次から次へと臓器をお皿の上に取り出していく。そして最終的に胸も開きドクドクと脈動する心臓を取り出すと、傷口から湯気を上げる玲子のお母さんを残して満足げな表情を浮かべ台所に消えて行った。
トントントントン。
私はこれから、どんな悲惨な殺され方をするのだろう。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、助けて。
しかし願いも虚しく、反抗も虚しく、私は撮影されながら肉料理を無理矢理食べさせられた。そしてその後全ての四肢を折られたうえで、長時間に渡り拷問を受け続けて気が付けば意識が途切れて——