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4/4

4話

 黒猫ちゃんはかなり臆病おくびょうな性格をしている。私が触れようとすると絶対に逃げ出してシャー!っと威嚇いかくされてしまう。

 仕方ないので触れるのは諦めて一緒に遊ぶ事にした。部屋には猫じゃらしの代わりになりそうなビニールひもと棒があったので結びつけて黒猫ちゃんの前で振り回してみた。すると黒猫ちゃんは元気よく飛びかかってきてひもの先端を追い掛け回して遊んでくれた。

 

 「かわいい!!」


 元気に遊ぶ姿に心を奪われ私は黒猫ちゃんが満足するまでずっとお手製猫じゃらしを振り回し続ける。流石に腕が疲れるので休憩を挟みながらだけど。

 写真ホルダーには黒猫ちゃんがいっぱいで居なくなる夜にはニヤニヤしながら写真ホルダーを見て時間を溶かしている。


 毎日会うに連れて分かった事がある。

 首輪をつけてないけれど恐らくこの子は飼い猫だ。毛はボサボサではなく整えられていてご飯も主張してこない。ご飯時には居なくなる。

 しっかりご飯を貰っていそうで安心したのだけど心配な事が一つある。


 一日中お外で日の光を浴びてるのに準備したお水を一滴も飲む様子が無いのだ。

 私が近くに居るのがいけないのかとベランダの端っこに置いてみても飲む事は無い。

 健康的に大丈夫なのか不安だが、毎日元気そうなのでどこかで水分補給しているのだろう。ただ単にまだ心を許してないだけだと思う事にした。

 けれど実際は違うのかいまいちよく分からない。毎日ガラス越しに手を合わせてくれるのが良い証拠だろう。


 色んな事を考え暖かい日の光を黒猫ちゃんと一緒に浴びたせいで、ウトウトしてきてベランダの扉を全開でお昼寝をしてしまった。

 

 「あれはもうダメだ。せっかく母親譲りのいい顔だったのだが・・・」


 これは夢の中でよく見る光景だ。悪態を着く父親に嘲笑あざわらうクラスメイト顔が一人また一人と流れていく。そして私の顔をぎこちない笑顔で見る仲の良かった友達や先生達。

 みんなの表情にたえられず授業中無断で泣きながらした帰宅。色んな辛い過去が何度も繰り返し繰り返し悪夢が忘れるなと言わんばかりに思い出させ傷口を広げてくる。

 怖い怖い怖いこっちに来ないで。


 いつもは永遠のように続く悪夢。でも今日はなんだか違った。

 ほんのりお腹の当たりが暖かい。

 その事に気が付くとだんだんと全身に向けて熱が広がっていく。すると辛かった悪夢から解放されてここ最近の日常となりつつある黒猫ちゃんとの思い出が呼び起こされていく。


 心が浄化されていくのを感じてゆっくりと目を開けると、お腹の上を一生懸命手をふみふみする黒猫ちゃんがいた。


 「かわゆすぎる!」


 今までは絶対に近くまで来させてくれなかったのに、私が悪夢を見てると気付いてか元気付けるかのようにふみふみをしてくれるなんて可愛すぎる!

 癒されながらふみふみを見ていると、目が覚めたことに気がついた黒猫ちゃんは私と目が合った。けれど見つめたままふみふみをしてくれている。


 可愛すぎるのでどうしても撫で回したくなり手をゆっくり伸ばしてみると、お腹の上で大きくジャンプして溝内みぞうちに飛び込み攻撃をしてバックし、部屋を駆け抜け最近の所定の位置であるベランダの椅子の上に乗りゆっくりと毛ずくろいを開始していた。


 この子は私になついている確定だ!ただ私から触れられるのが嫌なだけみたい。

 私はお腹を擦りながら黒猫ちゃんを見て距離が近くなっている事に喜びを感じた。


 人間は強い感情で呪いなどを生み出す事がある。

 最近仲良くしている彼女もその一種だ。深い自己嫌悪と近しい人からの負の感情が混ざり頬の火傷跡へ集まり目を背けたくなるほどの濃度の強い呪いとなっている。


 ある日私とたわむれるのに疲れ彼女がうたた寝をしている時、頬の呪いが動き出し全身へ回って行くのが見えた。

 夢の中でトラウマを再現する。これが彼女に発生した呪いの内容なのだろう。

 呪いの強さからして彼女への精神的苦痛は少ない無いはずだ。

 かなり呪いだが、即死性を持つ程の強い呪いそのものの私に比べたら全く相手にはならない。

 ベランダを借りている礼だ。彼女の呪いを回収してやろう。今更呪いが強くなっても私からしたら何も変わらないようなものだ。


 「このぐらいなら何とかなる。必殺肉球ふみふみ!にゃ!」


 直接触れると即死性を持つ私の呪いだが一枚何かを挟めば何も害は無い。服の上からお腹をふみふみふみふみ。こうして彼女の呪いを少しずつ吸収してやる。

 少し呪いが私に移動し、全身から頬に戻って行くのを確認していると視線を感じる。

 

 「かわゆすぎる!」


 肉球ふみふみで悪夢から目覚めた彼女は、頑張ってふみふみする私を見てニマニマとした目を細めた笑顔で凝視してきていた。

 そしてまた素手で触れようとしてくるので、危ないと知らせるようにお腹の上へジャンプ攻撃をして、逃げ出し部屋から出て所定の位置であるベランダの椅子の上に乗り毛ずくろいを開始する。

 彼女を見ると嬉しそうな顔でジャンプのダメージにもだえていた。

 幸せそうで何よりだ。

 こうして触れられないように逃げながらふみふみ治療する鬼ごっこが二ヶ月程続いた。


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