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A LEGEND  作者: 無南
1/1

日常

「暇だ」


 ベッドや机や本棚やテレビやゲームしかない部屋で、短い黒髪の少年はベッドに仰向けに寝ころびながら呟いた。


 漫画やライトノベルは全部見たし、ゲームもクリア済み。


 宿題なんてやる気が起きるわけがなく、予習や復習はもってのほか。時間が過ぎていくのをダラダラと待っているだけ。


 そんなどこにでもいるような少年、九条九矢(くじょうきゅうや)は、ごく普通の生活を送っている。名前が珍しいことを気にしている17歳の高校生。





 これは、そんな少年の物語。




 普通じゃなくなった少年の、数奇な物語。










プロローグ-日常-










 暇である。


 時刻は午後7時。遊びに行くには遅いし、寝るには早い。


 学校から帰ってきたままの服装なので、学ランのまま。


 親は帰ってきていない。


 とりあえず、腹が減ってきたから暇つぶしがてらコンビニに行こう。


 服は……このままでいいや。


 そうと決めたら即行動、と俺は携帯と財布を掴んで玄関に向かい、スニーカーを履き外に出た。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆










外に出た瞬間、ムワーッと擬音がつきそうなくらい生ぬるい空気が体を直撃したことにより、コンビニに行くことを一瞬ためらったのが10分前。今はコンビニにいる。


 コンビニの中は温度も程よく、バイトの店員の挨拶もよし、と無意味な評価を下して漫画を立ち読みする。

 昨日、いつも読んでる漫画雑誌が出たんだった。






Now Loading.






 立ち読みにも飽きた頃、腹が鳴ったことで本来の目的を思い出した。ありがとう、俺の腹。


 適当にサンドイッチとレモンティー、激辛スナック菓子を買って外に出ると、再びムワーッと生ぬるい風。


 若干イライラしつつ帰路に着くとポケットの中の携帯が振動しだした。


 そのことにまたイライラしつつ携帯を取り出し、メールの差出人を見ると、「楠」と表示されている。クラス替えで、名前の関係で席が前後になり、気があって仲良くなった悪友というやつだ。


 内容は何かと思い、歩きながら見てみると

『暇。』

と表示されている。


 意味分かんねえ。だから?


 返信するかしないか迷っていると、再びメールが届いて携帯が振動した。また楠だ。


内容は、

『今から遊びに行かねー?』


 携帯のディスプレイの右上に表示されている時刻を見る。


 4/29 TUE 19:51


 いくら高校生とは言え、遊びに行く時間ではないと思う。辺りも暗いし。バカかこいつは。


 バカかお前は。と返信し、ポケットに携帯を突っ込む。


 いつの間にやら、家とコンビニの間にある本屋の前に差し掛かっていた。


 本屋は明るい大通り沿いにあり、それなりに大きく、それなりに客足も多い。


 財布には余裕があるし、当分の暇つぶしにもなるからラノベでも買うか。


 目的地を自宅から本屋に変更して、本屋の自動ドアをくぐる。その際に、ドアの近くからピロピロリロリロと機械の音がしたことに少しビックリしながら足を踏み入れる。


 コンビニと同様、程よい温度と湿度に設定されており、外に出たくないなぁとか思いながらライトノベルコーナーへと直行する。


 ずらりと並んだ、身長178センチの自分よりも大きい本棚にビッシリと詰められたラノベの中からファンタジー系のものを選んでいると、再びポケットから振動。


 携帯を取り出しメールを見ると、やはり楠。


『いやね? 俺としてはもっと刺激が欲しいのよ。非日常的な。だからさ、どっか行こうぜー』


 俺といても非日常なんか味わえるわけないだろう。それに遊ぶ時間じゃないし。


 まぁ、少しは非日常的なことに出逢ってみたいと思う。悪の組織と闘ったり、変な能力(ちから)を得たり、異世界に行ったり……。


 しかしそんなことは有り得ない。あってほしいとは思うけど、有り得ないということには何の不満もない。今のままでいい。


 時間を考えろバカ、と返信し、携帯をポケットにしまう。


 そして、目の前にある、全5巻の異世界召還系のラノベを選んで、5巻とも持ってレジに向かい、会計を済ませた。


 本の入った本屋の袋を、さっきのコンビニ袋の中に入れ、外に出ようと一歩踏み出したところでまたメール。どうせ楠だ。

 呆れながら携帯を取り出してメールを見る


『ならさ、何か面白い話してくれよ。じゃないと俺が死んでしまうー』


 死んどけバカ、と返信するためにボタンをプッシュしたと同時に、自動ドアをくぐる。再び、ピロピロリロリロと音が鳴る。

 外に出ると、目にチカッと小さく光るものが映ったから思わず目を閉じた。こういうのを反射というんだったか、と中学で習ったことを思い出す。おそらく光は車か街頭のものだろうと推測してみる。


 網膜に焼き付いた光が瞼の裏で消えたのを確認した後、ゆっくりと目を開けると……






 眼前に、真っ白な世界が広がっていた。










 ……………………………………。


………………………………………?


………………………………………!?


「え?」


 自分の目を疑う。何を見間違えたか。


 車ではない。道路でもない。街頭でもない。


 視界は「白」しかない。


 携帯を持ちながら、手の甲で目をゴシゴシと擦ってみる。


 が、白のまま。本屋から外に出たわけだから屋外だろう。本屋のどこかの部屋に入ったわけではあるまい。確かに、入ってきた自動ドアと同じところから出たはずだ。それに、こんな部屋が在るわけない。


 そうだ。本屋の中に戻ってみよう。どうにかなるかもしれない。


 そう思い、後ろを向いてみたが、


「……あれ?」


 本屋が無くなっていた。


 本来ならば自動ドアがあり、その向こう側に店内が覗き見れるはずの空間が、白一色に染まっている。


「……………………」


 呆然としつつ足元を見ると、これまた白。


 アスファルトで舗装されているはずの道が、舗装されているのかされていないのか全くわからない白。


 ただ、立っていられるし、タイルのように堅い感触がスニーカー越しに分かることから、地面はあるのだろう。


 自分と自分が着ているものや持っているもの以外は全部、白。


 遠近感も全くないように感じる。


「………………」


 現状を全く理解できない。


 俺がいるのは本屋の前のはず。そして夜のはず。


 一瞬だけ、「ホワイトアウト」という現象の名前が思い浮かんだが、すぐに否定する。ホワイトアウトは、極地や雪山でしか見られない現象だから。ここは本屋の前。大通り沿い。そう、そのはず。


 にも関わらず、話に聞いたことがあるホワイトアウトという現象と今の状況は似通っている。雪原と雲が一体化したように見え、天地の境目が分からなくなる現象に。


 しかし、ここは日本の都市の中だ。雪原なんかない。どういうことだろう。




 ……なぜ俺は、こんなにも落ち着いていられるのだろう。怒りすぎると笑ってしまうように、ショックが大きすぎて冷静になれているのだろうか。


 驚くほど自分を客観的に見れている。普段以上に。


 持ったままの携帯のメールの返信画面の右上を見ると、


4/29 TUE 20:04


左上には、バッテリーの残量が。まだ満タンに近い。


そして、「圏外」の文字が。





…………。





 もしかして、もしかすると、もしかしなくても、俺はどうしようもない状況に立たされたのだろうか。

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