第6話 「ドラゴンのツノ」
太陽が登りはじめた早朝、私はグレイルを連れて岩山に登る。
目的地は岩山の中腹にある洞窟。
ランタンに火を灯して洞窟の奥へと進んでいく。
「グレイル、道中は薄暗いので気をつけてください」
「大丈夫だ。しばらくすれば目が慣れるだろ」
「着きました」
私は立ちどまり、左右の壁面に設置したろうそくに火を灯していく。
周囲が明るくなるにつれ、はっきりしてくる目の前の物体にグレイルの表情が青ざめていく。
「なぜ、このような物がここに⋯⋯」
無理もない。
目の前の物体は20年前、母親が採取したドラゴンのツノ、そのあまりなのだから。
まぁ、あまりと言ってもあの母親は先端部分のほんのわずかしか使っていない。
だから丸々残っているに等しい。
にしてもいつ見てもでかいなぁ。
ツノだけで3m以上はある。
「コイツを俺に見せてどうするつもりだ?」
「剣をつくるのよ。だからコイツを砕くのを手伝って」
壁面に立てかけてあるツルハシをグレイルに渡す。
「私なりに考えてみたのよ。ドラゴンの硬い鱗を斬るにはどんな素材がいいのかなぁって。
それで閃いたの。ドラゴンの身体で2番目に硬い素材なら、いけるんじゃないかって」
「なるほど⋯⋯と、言いたいところだが質問したいことが多すぎる。
このツノはどう考えても俺が戦ったドラゴンのツノだ。どうしてここにーー」
「一度、体を許したからって調子に乗らないで!まだすべてを話せる関係になったわけじゃない。
ドラゴンを倒したかったら、これから私のいうことに従って⋯⋯」
「ライナ、またその赤い目⋯⋯」
「いいから聞いて。いくら硬い素材で作った剣だとしても、それだけでドラゴンにダメージを与えられるとは思わない。
刀身にグレイルのマナを込める必要がある。だけど、剣に効率よくマナを注入するなんて並大抵のことじゃないわ⋯⋯」
「ライナ⋯⋯」
「ひとつだけ方法があるの。私の血を使って刀身に魔法陣を描く。込めた術式によってグレイルのマナは効率よく刀身に注入されるわ」
「ライナ、俺のためにいろいろと考えてくれるのはうれしい。だけど、君の身体を傷つけるやり方は好まない」
「指の先から血を数滴垂らすだけだからたいしたことじゃないわ」
「じゃあなんでそんなに泣いているんだい」
私はグレイルの体にしがみついて顔を埋める。
「私がここまでするんだから絶対に倒しなさいよ。ドラゴン」
「もちろんだ」
グレイルと2人でツノをツルハシで叩いて片手くらいの大きさの塊を採取することに成功した。
あまりに硬くて2時間かけてこの大きさだ。だけど、剣をつくるには充分だ。
そして私はもうひとつグレイルに試練を課した。
私が剣を打っている間、岩山のてっぺんにある大岩を剣で真っ二つに割ること。
使うのはなんの変哲もないただのロングソードだけど、ドラゴンを想定して、剣にマナを込めて岩を斬ってもらう。
ただマナを注入すればいいってものじゃない。いたずらに注入すれば刀身は自壊する。
グレイルにはその塩梅を見極めてほしい。
私はその間にドラゴンとの戦いでグレイルが全力でマナを注入できる強固な剣を打つ。
ドラゴンのツノを素材に選んだのもそのためでもある。
グレイルと洞窟で別れた私は下山してすぐに窯に向かった。
採取したドラゴンのツノを熱し、槌で叩く。
槌に返ってくる反動からいかにドラゴンのツノが硬いかがわかる。
3回叩いただけで手がものすごく痺れている。
“カッキーン”
岩山の山頂の方からも硬いもの叩く音が聞こえてくる。
グレイルもがんばっているんだ。私もーー
それから2週間が経過。
グレイルはロングソードの刀身を青白く発光させて振り抜く。
放たれた斬撃が大岩を通過して、鈍い音をあげながら縦に真っ二つに割れる。
ロングソードも刃こぼれひとつしていない。完璧だ。
「ライナ、見たか! やったぞ」
「抱きつこうとしないで! 臭いからお願い!」
「あ⋯⋯」
「帰ったら真っ先にお風呂入ってね」
下山してすぐにテーブルの上に作った武器を並べる。
右からツーハンデッドソード、打ち直したカットラス、アックス、ランス、クナイーー
お風呂上がりのグレイルが並べた武器たちに目を輝かせる。
「剣だけじゃなくてこんなにたくさん武器を作っていたのか?」
「ドラゴンと戦うことを考えたらこれだけの武器はやはり必要よ。壊された防具も修理してある」
「まるで勇者パーティー一向のような武器の豊富さだ」
「グレイル、聞いてちょうだい。トーレにお願いしてドラゴン討伐に参加してもらう冒険者を集めたの」
「ライナ! 俺はひとりで戦うと言ったはずだ。もう目の前で仲間が死ぬのはたくさんだ」
私はグレイルの胸にそっと額をあてる。
「グレイルが死んで帰ってこないことの方が嫌なの! ドラゴンとの戦闘のイメージを頭の中でたくさん繰り返したわ。
何度考えてもひとりで倒すなんてこと不可能よ。もうこれ以上、家族を失うなんてたくさんだわ」
「わかったよ⋯⋯」
グレイルは私の背中に両腕を回して包み込んだ。
グレイルの温かさが伝わってくる。
「ライナの言うことにいつも間違いはない。もうひとりで戦うことに固執しない。
君は本当に何者なんだ?」
「勇者グレイルの鍛治師よ」
***
冒険者ギルドーー
ドアを開くと私とグレイルを出迎えるようにトーレが待っていた。
トーレの後方のテーブルには勇者パーティーに志願した冒険者たちがジョッキを手に待ち構えていた。
全員、ギルドで1、2を争う上級冒険者たちだ。
「ずいぶんと待たせてしまったね」
「そうじゃそうじゃ。はやく飲みたくて辛抱ならん」
「そっちか」
「冗談はさておき、ワシはドワーフの戦士“ゴドル” そして右から力自慢の女剣士”ベリンダ“、槍使いの”ターク“”ホビット族の忍者“フィル”、
魔術師の女エルフ”マドル“、僧侶の”ドーク“だ」
「みんな頼もしいツラ構えだ。俺のために命を預ける覚悟を決めてくれたこと感謝する」
「堅苦しいのは嫌いだ。はやく飲もうじゃないか勇者殿」
「ならば俺のことはグレイルでいい。乾杯といこうゴドル」
「そのいきじゃ」
どこかホッとした表情をしたグレイルを見てこっちも安心した。
「トーレ、私も料理並べるの手伝うね」
「ちゃんとアテにしているから大丈夫よ」
グレイルはメンバーたちと早々打ち解けると憑き物が取れたかのように楽しげにゴドルたちと談笑している。
新生勇者パーティーの賑やかな宴は太陽が昇りはじめるころまでつづいた。
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