ドアマットヒロインです。人間不信なのに、第二王子に求婚されました……
ドアマットヒロインですが、虐められる描写はツライので、カットしました。皆様の想像力におまかせします。
そこ大事だろ! という方、すみません……サクッと幸せになります。
家族に嫌われていた私は。
ひねくれて育った。
祖母が亡くなった翌年に。
私は生まれた。
前当主であった祖母は。
厳格だった。
後継者である父と。
そりが合わなかった。
父が母と結婚しようとしたとき。
祖母は皮肉たっぷりに告げた。
「お前にピッタリだね。愚かなところが」
年を経るごとに。
祖母そっくりの外見になっていく私に。
父母は憎しみをつのらせた。
私を疎んじる他に。
彼らのしたことは。
二歳下の妹を溺愛することだった。
妹は、父の美麗な顔立ちと。
母の髪の色を受け継いでいた。
父母の性質も。
そっくりそのままに。
彼らは、私がいなくなればいいと、願っていた。
妹に、当主の座を与えたいと。
私は、彼らの望みを叶えた。
今、私は王宮に勤めている。
王太后様付きの侍女として。
王宮勤めは箔がつく。
男女ともに。
結婚相手には事欠かない。
が、仕事に打ち込み。
独身を通す人もいる。
私は、それを目指したい。
年老いるまで働いた後は。
恩給で、小さな家を買おう。
独り、静かに暮らすのだ。
王宮勤めも、三年を過ぎた頃。
私は、第二王子に求婚されていた。
何故?
疑り深く、他人を信じない。
誰とも上手に付き合い、かつ距離を置ける人。
それが、第二王子の求める人だった。
命の危険が、ないわけではないから。
警戒心をもって、行動してほしい。
言葉巧みに近づく人を。
うかつに信じないでほしい。
「それができる令嬢が、なかなかいなくて……」
王子は嘆息した。
婚約者候補は、何名かいたが。
全員、ふるい落とされた。
困り果てて、王太后様に相談したら。
私を推薦された。
「君は、誰のことも好きではないよね?」
私は、黙ってうなずいた。
小さな頃から。
私を守ってくれる人は、いなかった。
信じられるのは、自分だけ。
「私も、そうなんだ」
王子は微笑んだ。
「人を好きになっても、いいことなどないよね」
私は、深くうなずいた。
私にとって。
人を好きになることは。
差別することと、同じだった。
好きなヒトは、大事にして。
嫌いなヒトには、敵意を向ける。
それ以外には、無関心。
どうして、「みんな同じ」じゃダメなんだろう。
私は、決めた。
人を好きになるのは、やめよう。
そのかわり。
誰に対しても、平等に接しよう。
王子は語った。
幼い頃に。
暗殺されそうになったと。
人は裏切る、ということを。
若いうちに、学べて良かった。
「君のことも、特別扱いはしないよ。私のことは、好きにならなくてもかまわない」
「では、平等に」
「そう。平等に」
目と目を見交わし。
うなずきあう。
私は、王子の求婚を受け入れた。
立場上断れない、ということもある。
王太后様が。
私を薦めた理由は。
ふたつあった。
ひとつめは、実家と疎遠で。
便宜を図る可能性が低いこと。
ふたつめ。
皆が嫌がることを。
率先して引きうけること。
買いかぶりだ。
実家とくらべたら、王宮は天国だ。
面倒なことをやり遂げれば。
褒められる。
手際が悪いとののしられ。
もっと働けと、仕事を増やされることもない。
「君に断られたら、私は一生独身だったよ」と。
王子はおどけて言う。
「選択の余地はありませんでした」
「後悔は、していないよね?」
「そうですわね……」
私は、考えこんだ。
「平等という言葉を、覚えていらっしゃいますか?」
「懐かしい言葉だ」
私の部屋は。
贈り物のドレスと宝飾品で。
埋もれそうだ。
「特別扱いはしないと、言っていたのに」
「侍女と婚約者で、待遇が異なるのは当然だろう」
「そうだ。君の家、没落しかかっていてね。結婚式までもちそうにない。別の家に、養女に行ってもらうよ」
決定事項だと、王子は告げた。
いずれそうなるだろうと。
予想はしていた。
祖母の手腕は。
確かなものだったが。
父は、そのやり方を。
ことごとく否定した。
妹?
学んでいるところを。
見たことがない。
「君の家族は、平民落ちする。結婚式には、出席できない」
もう二度と、会うことはないだろう。
そう言われて。
気がついた。
誰に対しても、平等に接しよう。
それは無理な話だと。
家族がどうなろうと。
いかなる興味もない。
「平等というのは、難しいものですね」
「そうだね」
『誰のことも好きではない』
『人を好きになっても、いいことなどない』と。
あの頃、私は本当にそう思っていた。
でも、今は……
寸暇を惜しんで会いに来る。
この方に、伝えたい。
「婚約者と、他の人は平等じゃないです」
声が、震えた。
「結婚式が、待ち遠しいです」
「私もだ」
この方の。
満面の笑みを。
初めて、見た。
お読みくださり、ありがとうございました。