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第八話 そして俺たちは歩を進める

朝の3時、俺は相も変わらず魔術の研究をしていた。


「獄炎球の術式…書き換えられそうではあるんだがなぁ…」


先日の会議でテンションが爆上がりしている俺は一から書庫にある魔術本を漁り続けていたわけだ。

実際に改編魔術を見る前にある程度の知識をつけつつ、ワンチャン獄炎砲とやらを作り出せないかな?という魂胆だ。そのためいろいろと試してみては要るんだが……


「1160回目失敗……寝るか」


まあ全くと言っていいほどできない。

唯一の進捗と言ったら、ほかの魔術の術式をそのままコピーして移すことくらいだが…それだけでは柔軟性がない。あと一歩な気はする、しかしその"最後の一歩"がどれほど遠くにあるのかわからないのが魔術だ。

そしてそれが面白く、焦がれてしまうのだ。




~~~翌日~~~

「やあ。遅かったじゃないか、集合時間ギリギリだぞ?」


「昨日は夜更かししてたからね、これでも急いで来たんだよ?」


勇者と相変わらずな会話をしながら、俺たちは城前に集まった。

他のメンバーは…一人は魔術師団の一員で、もう一人は大盾を持ったタンク役か?


「あれ…?部隊は合計5人だったよな?あと1人足りない……」


「あの子は多分遅れてくると思うよ。結構寝坊助な子だし」


全く…もう集合5分前だぞ?

5分前行動くらいは小学校でも習うのになぁ。

とかなんとか考えてしばらくすると、奥の方から眠そうに歩いてくる奴がいた。

身長は…俺の少し下くらいか?いかにも固そうな鎧とぼろぼろの布を…あれ?


「ほんと…なんであたしが魔王討伐なんかしなきゃいけないのよ。あんとき断っとけばよかったぁ」


「あ!先輩じゃないですか!」


そこに居たのはフォンバ戦の時にお世話になったソラだった。

思わずテンションが上がってしまい、ソラのほうに向けて手を振る。


「あーあんたはあの時の…名前なんだっけ?あいつから名前聞いてたはずなんだけどな」


少し気まずそうに眼をそらすソラ。


「あーー思い出した、レイナ…だっけ?」


軽く首を振ると「覚えてたよ!当然ね!」とでも言いたげなドヤ顔をかましてくる。

何というか小動物感があるな。


「そうですよ先輩、二度と忘れないでくださいね?」


「忘れてないし……あと、もう敬語要らないよ。ランク的にはあたしが下の立場だしね」


「じゃあ…ソラ、改めてよろしく」


俺はそう言って手を差し出す。

その手をソラはパシンと叩き目を合わせてきた。


「おうよ」


そんな話をしていたら奥からロベリオが声を上げる。


「は~~い注目!!勇気ある英雄様方の集合だ!!」


『拡散』の魔術によりあたり一帯に広がったその声により、周りから人々が集まってきた。

おおよそ100人を超えた人々は歓声を上げ、拍手をし、道には花弁が散っている。

その光景は圧巻としか言えないものだった。

そしてロベリオはゆっくりとこちらに歩いてくる。


「さあ!堂々と、優雅に歩いて行ってくれ。この一本道は君たちのためだけのレッドカーペットだよ。」


ロベリオが背中を押しながら言ってくる。

……なんか落ち着くな、これ。


「やあ国民たち!!この勇者が魔王を打ち取り、この世界に平和を取り戻して見せよう!!」


「うわっ!びっくりした!急に叫びだすなよ…」


「俺らは今から世界を救う英雄なんだぞ?これくらい目立つ方がいいんだよ」


勇者のコミュ力には毎度驚かされる。

一切緊張していなそうなとこを見ると、こういったことは慣れているんだろうな。

だが、実は俺は周りが盛り上がっているとそれに合わせてしまうタイプだ。


「ほら!君も盛り上げないと!!」


勇者が手をつかみながらこちらを向いてくる。

まあ、たまには期待に応えてやらないとな。

俺はやれやれという気持ちで、もう片方の手を上に掲げ詠唱をする。

次の瞬間、『獄炎球』に爆発系譜の術式を組み込んだ魔術が空中に打ちあがり爆発、盛大な花火が上がった。


「最高の演出だろ?」


「ああ、俺にふさわしい花火だな」


勇者のナルシ発言ににムカッとしてきた。まったく…ロベリオの事を見習ってほしい。


「何であんたらはそんなにメンタル強いのよぉ……あたし心臓バクバクなんだけど!?」


ソラが俺の体に抱き着きながら弱音を吐いてくる。

意外と人前に出るのは苦手なのか…やっぱり動物っぽいんだよなぁ。

でもまあ、俺も前世では発表とかで心臓バックバクだったからな。どうにか落ち着かせてあげよう。

俺はソラの背中に手を当てて思いついた言葉を吐き出す。


「この計画を練った王子さまは本気で勝ちに行こうとしてる。私と話してた時も頭を下げて、本音を吐き連ねてまで頼み込んできたんだ。ソラもあの王子に誘われたんだろ?それはソラが王子に認められるほど強くて、信じられているからだ。……とにかく、自信を持っていいと思うよ」


ソラが少し落ち着いた顔になっている。

体をつかむ力が強くなっている気がするのだが…まあしばらくは抱きつかせておくか。




そして…壁門前に着いた。

緊張はもう走らないな。俺の中で何かしら覚悟が決まったのだろうか。


「「開門!!」」


壁門の両端にいる騎士が門を開ける。

ギギギ……ときしむ音を立てながらゆっくりと、その隙間から見える景色が大きくなっていく。


「準備は良いな?」


開ききった門を前に勇者が後ろを向いてそう聞いてくる。

俺を含み、全員が一切の迷いもなく首をコクッと縦に振った。

それを見た勇者は門の外に一歩を踏み出し…


「行くぞ!魔王討伐へ!!」


そう言って歩を進めた。






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