第六話 魔王に殴り込みする準備は良いな?
「やあ、僕は『ロベリオ=ラ=ローデント』。この国の王子だ」
改めてだが、俺はすごいことに巻き込まれたのかもしれない…
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「王子主催のパーティー招待?姉様がよく誘われてなかった?」
「はい…それだけでは問題ないのですが、『二人きりで話をしたい』との事です。」
アイシャが困った顔で見つめてくる。こんな顔をしている彼女は見たことがないぞ?
冒険者として結構ヤバめの成果を短期間で出したが王家に目を付けられるようなことはしてないはずだぞ?実はあの盗賊が国家の重要人物だったとかそんなやけくそしか思いつかない。
「……何やらかしました?」
「いやいや!やらかした前提で話し進めるのやめてくれ!心当たりないよ!!」
ほんとに心配になってきた。逮捕とかされるんじゃないかこれ?
「ちなみに開催時刻は一時間後です。遅くに帰ってきたレイナ様が悪いんですから早く着替えてください。」
これも全部あの盗賊どものせいだ。あいつらは今度見かけることがあったら亀甲縛りにして町のど真ん中につるしてやる。
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オシャレなご飯!煌びやかなスーツ!多種多様なお酒…は飲めないな。というか前世だとあと5年で飲めたはずだったし、こっちで10年生きたんだから飲ませてくれ!
当然今まで経験したことのない豪華を体現したようなパーティーを目の前にしてテンションが駄々上がりだ。今日は色々あっておなかも減ってるしバイキング感覚で食べてしまおう!なんて子供らしい考えを何とか理性で引き止め、アイシャに魔術の勉強の合間で無理やり叩き込まれたマナーを頭から全力で引き出す。
「君が今話題になってる"あの子か"」
唐突に後ろから声を掛けられた。"話題になってるあの子"…やっぱり結構目立ってるのか。
「こんにちは、えーっと…多分面識はないですよね?」
「ああ、そうだったな。まずは自己紹介だ。」
少し溜めながら、目の前の男はこう答える。
「俺は『勇者』だ。諸事情で本名は明かせないんだが…まあよろしく頼む。それと、俺は君と対等な関係を築きたいんだ。敬語は要らないよ、レイナちゃん」
勇者…それならこの威圧感にも説明がつくな。
少し気を抜いたら意識を飲まれそうな圧倒的すぎる圧力だ。だがそれよりも、このちょっとキザな感じと「ちゃん」付けにピキッときたぞおい。
「こちらこそよろしく、だけどちゃん付けはやめてほしいな『勇者様』?」
少し威圧する意味を込めてちょっとだけ魔力を出してみる。
そうすると勇者はギロッとした目線を向け、こちらに圧を掛けてくる。一般人なら泡を吹いて気絶するレベルだなこれは。
こいつが求めてるのは話題になっているらしい俺の実力を確かめることか…勇者は数多の魔物や国難を切り刻んできた稀代の英雄という話だが、それ故に相当な戦闘狂らしい。
だが流石にこの場で切りかかってくるようなことはないだろう。
なんて考えは浅はかで…この馬鹿は剣を抜き、俺に切りかかって来やがった。
「いい反応だ。不意打ちの一発を避けるとはな、どうやら想像以上のようだ!」
「待て待て!!周りの迷惑とか考えられないのか勇者のくせに!!」
「あいにく、周りのやつらに興味は一切持てなくてね!」
こいつなかなかに頭のネジを捨ててるな。
一切の容赦なく首と足元を狙い続けてくる…足に当たったら首への攻撃を避けられずお陀仏、首HITは問答無用で即死だ。
そして次の一振り、これもぎりぎりで避けようと体を反らすと…パキン!!と勢いよく剣が防がれる。
突然現れた超硬度の結界、勿論俺のな訳がない。
「はいストップ、流石に本気で殺しにかかっちゃダメでしょ勇者君。僕だってこの場を用意するのが大変だったんだよ?」
「…王子様も目をつけてたって事か。横取りはいい気分じゃないが…まあいい。"お話"して来い、ここで待ってるから」
「このアホは私がしっかりと監視しておきますので安心して行ってきてください」
後ろにいたアイシャがつぶやく。
それを聞いた勇者が今にも切りかかりそうな目で見つめているがアイシャならそこらへんは穏便に済ましてくれるだろう。昔は魔術の練習によく付き合ってもらっていたものだ。
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そうして奥のほうに連れていかれた俺は王子様と1対1で、面と向かって話し合っていた。
ここに来るまでの間に周りからの目線がえげつないほど飛んできたのだが、正直しかたないなと思える程にこの王子はイケメンである。前世でこんな顔してたらどんなにいい人生送れたのかなんて考えてしまう。
そんなイケメンに自己紹介と沈黙を渡された後、真剣な顔で口を開く。
「まず…ここにきてくれてありがとう。今から話すのは…命にかかわることで、君と勇者の戯れを無視できるほどの重大事項だ。」
「ここまで危険な感じを漂わせて草むしりの依頼とかだったら容赦しませんよ?」
「フフッ…そんな平和な依頼が出せる程、今の状況はいいものじゃないんだ。」
想像よりも状況は最悪らしい…
本気で草むしりならよかったんだが、命にかかわるとまで言われたら正直ビビる。
「単刀直入に言う。『魔王』の討伐作戦に参加してほしい。」
「魔王ですか…聞いたことはありますよ。山を素手で砕くとか、ため息で国を壊滅されるとか言われてるあの……」
「そんな逸話が夢物語で終わらず、現実に存在"してしまった"訳だ。本来魔王は数百年に一度姿を現す…魔物を支配する魔族すらも恐れおののく、大陸の果てに存在する魔界の頂点だよ」
どうやらこの時代は最悪の貧乏くじを引いてしまったらしい。
元々この国は規模や質で言えば大陸トップクラスの騎士団や、攻撃と支援のバランスが完璧とまで称えられている魔術師団を保持している最強の軍事主義国家だ。
それなのに…な訳だ。
一時期強さの指標として騎士団や魔術師団について調べていたことがあったが、そこら辺の冒険者より数倍は優秀だ。ここで重要なのは「優秀」という点である。単騎の実力にはもちろん限界があり、その壁を最も簡単に超える手段は「連携と信頼」を高めることだ。どれだけ強者が集まったところで連携を取らなければ対多数の時の勝率が下がり、どれだけ練度の高い部隊でも相手が信頼に値しなければ心から背中を預けることなどできやしない。
つまりは、わざわざ冒険者なんて不審物を部隊に組み込む必要はないというわけだ。
そうなると相手は…
「残念ながら、我が国には魔王に対できるほどの部隊がない。そこでだ、今回の討伐作戦では国中から実力者を集めて編成した総勢50人の大部隊を5人ずつの小部隊に分け、別々の旅路を進み魔王城にて合流したのちに魔王を討伐する予定だ。この作戦ならば強力な魔族や魔物と遭遇した場合にも全滅という事にもならず、撤退した場合でも敵の情報を知ることができる…」
「計画はわかりましたよ?ただ、私がわざわざその部隊に入る理由がわかりません。唐突に表れSランクまで上り詰めた冒険者…パッと見ではものすごい実力者に見えるかもしれませんが、今までの経歴が分からないというのは明確な不安点です。それでもこの話を持ち掛けたというのは何か…大事なことを隠しているように見えるんです」
「大事なこと…か、そんなものないんだけどね普通に。単純に、解るんだよ。僕は他人の魔力を見るのが得意でね、魔力には当人の性格や生い立ちがくっきりと見えてくる…本人が悪人か善人か、深い思惑があるのかとかね」
ロベリオが言っているのは『魔力視』の事だろう。
本来は相手の魔力の流れや量を見るだけの初歩的な技術だが、魔力操作が極めて繊細にできる者は一瞬で血液検査と診断テストを合わせたような結果を導き出せる…相手のすべてを理解してしまうギフテッド。そのせいで精神を病んでしまう者もいるらしいが、この王子はその才能を見極めるために使っている。
国をよりよくするという意思が伝わってくるいい使い方だな。
「僕の目は君の事詳しく見ることができない。この世界の理から外れている『転生者』によくある特徴だ。だが、君は良い人だ。これだけでいいだろう?理由なんて」
そんなこと言われたのは初めてだな、30年間生きてきて。だけど……
「そういう事なら、この依頼は受けられませんね。めんどくさいですし……何よりも、自ら死地に向かうなんて度胸は持ち合わせてません」
そう、これが俺の本音だ。「怖い」ただそれだけで足がすくんで手が震えて全てがマイナス思考に寄ってしまう悪い癖。
ロベリオは黙っている。
喉から出かかっている何かを抑えようと葛藤しているよう見えるその沈黙は数十秒続き……そして
「ここからは…僕の本音だ。聞き流してもらっても、「そんな理由で?」と一蹴してくれてもかまわない」
重い口を開きそして伝える。
伝えなければいけない…
「これは王子としてじゃなく、この国に生きる僕が冒険者の君にする頼みだ。いろいろ理由は連ねたが、結論僕もこわいんだ…故郷の国が魔王に襲撃され、帰るべき場所を失うのが。父上が病気にかかり数年経ち、もう長くないかもしれない言われたその時に魔族の活動が活発化…その結果僕が魔王討伐作戦の総指揮を受け持つことになった。あまりのプレッシャーに押しつぶされそうだった僕にとって君の噂は希望の光そのもので…不安だって吹っ飛んだ。どうか…お願いだ、僕が愛し、僕を愛してくれたこの国を守ってくれ……」
そう言って僕は深々と頭を下げる。
ダメもとの懇願だ、これで無理なら諦めるしか……
「…いいですよ。やりましょうか、魔王討伐!!」
思ったよりスムーズに答えを出された。
彼女はもしかしてだけど、僕の思惑が見えていたのかもしれないな…
覚悟は決まった、こんな思いを背負ったんだ。きっちり決めてこないとな。