第三話 仕事と森と竜巻ボクシング
棚にかかっている服を手に取り、袖に手を通す。今日はようやく訪れた日だ。うきうきした気分で、そして少し緊張しながら着替えを済ませ外に出る。
「いくぞ!冒険者ギルドへ!」
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冒険者ギルドの扉を開け、奥にあるカウンターへ向かう。
ギルドの中はところどころに金属の装飾がある木造の建物で、西洋の酒場を思わせるような建物だ。
「すみません。冒険者の試験を受けたいんですが」
「わかりました。こちらのギルド長室にお越しください」
受付嬢の人に連れられて、一際豪華な部屋に案内される。
「では魔術や剣術の能力値を検査しますのでこちらの水晶に光るまで手をかざしてください。この水晶にあなたの魔力を通して能力値をもとにして冒険者としてのランクを決定します」
冒険者のランクはSからFのアルファベットで表記されておりランク一つ一つに大きな差がある。
そうして言われた通りに手をかざすと、手のひらを通して体の中から何かが抜けていくのを感じる。
血液検査の時のような感覚が体中に少しの間巡った後水晶が淡い光を放ちそれを見てから手を放す。
そして能力値が水晶の中に映し出され…
____体力G 筋力G 防御G 魔術測定不能____
「え…測定不能…?この場合ランクはどうすれば…?ちょっと上に聞いてきます!!」
10分後
10分ほどたった後真剣な顔をして受付嬢が部屋に入ってくる。
「上の方とランクについて話し合った結果、測定不能というのが全くとして前例がないため他の冒険者と依頼を受けていただいて、その結果でランクを選定することになりました」
私としては全く問題ない話だ。この世界について実際に見て知ることができるし、ギルド内で人とのつながりができるのはうれしい話だ。
「私は全然いいですよ?元々冒険者になりたかったのも依頼を受けて冒険したかったからですし」
「わかりました。もうすぐ同じ依頼を受ける冒険者の方がホールにいらっしゃるので合流してください」
そうして私はランク確定のためにギルドで依頼を受けることとなった。内容としては都市から少し離れた先にある森の探索。何か森に異常がないか、生息しているモンスターはどのような特徴があり、どの程度生息しているのかなどを調べる定期検査のようなものらしい。報酬も存在していてその額なんと500000ベル(1ベルは1円と同額)と超高値でただの森探検程度で出していい額じゃないだろう。そうこう考えている間に一緒に依頼を受ける冒険者が到着したようだ。
「あ~あんた?今回依頼受ける新米って。あたしはソラって名前だからそう呼んで、よろしく」
淡白な自己紹介で彼女はそう言った。見るからに固そうな鎧に腕にボロボロの布を巻いた服装の彼女は同じくらいの身長で、しかし上から目線でこちらを見てくる。
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「濃霧の森」
ギルドから数十分歩いたところに存在する巨大な森。周りに漂う霧と土や木の匂い、穏やかな雰囲気と、その中に潜む不気味さがここが元の世界でないことを改めて感じる。
「ちょっと…大丈夫?」
「ッはあ…はあ…大丈ぶっ…です」
そういえば体力のステータスって最低ランクのGだった。
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少し休憩した後、改めて周りの状況を確認するためにとある魔術を使う。
『魔力探知』+『領域拡大』
魔力探知は体中から微力な魔力を発生させることで周りの物質に魔力を反発させ大まかな状況を把握する、まあコウモリエコーの魔力版だ。それを無理やり領域広げる。周りには…小型の魔物が数匹と人の二人組だけ。
…嫌な予感がする。本来はどんな環境にも多くの種類、大きさの生物が存在している。生態系を整えるために生物の量を調整していけば、消費者、生産者、分解者に分かれる。魔力探知は土の中の微生物も感知できる魔術だぞ?しかも小型の魔物はそこから一切動いていない…まるで何かから隠れているような?
「走って!早くしなさい!」
隣でソラが勢いよく立ち上がり叫ぶ。
私が唐突な出来事に戸惑っていると、手首を強くつかみながら走り始める。
「え…?急にどうし…」
「聞こえなかったの!?西のほうから悲鳴聞こえたのよ!!魔物に襲われてるのかもしれない…」
おかしい…魔物の魔力は動いてすらいない。二人組のどちらかが襲い掛かっている?いや…声は男女二人の声だからそれはあり得ない。それなら…?
”何かから隠れているような”
瞬間、大きな魔力が体中を襲う。地面を見ると草は枯れ果て、空を見ると暗雲が立ち込めている。
環境すら変えるような魔力量にはソラも気づいていたようで、手が少し震えているのが肌越しに伝わってくる。数秒後、朽ち果てた森を走り抜け、魔力と悲鳴の発生点が見えてくる。そこには巨大なドラゴンとその足元に腰を抜かしている男女がいる。その直後…
「ついてきてくださいね、”先輩”」
私はそう呟いてからソラの手を無理やり離し、ーー浮遊+加速ーーで空を飛翔しながら目の前にたたずんでいる魔力の発生源であるドラゴンの顔面に蹴りをぶちかます。そして隣には…
「生意気な口利くじゃない、”新米”!!」
そう叫びながら同じく蹴りを入れているソラがいた。
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Q.竜巻と殴り合えるか?
答えなんか当然NOだ。自然災害なんて生身で勝てる相手じゃない、というかまず戦う相手じゃない。
木々をなぎ倒し、天候をまるっと変え、周りの生物を震え上がらせる。離れた屋内でやり過ごすのが賢明だ。そうだったはずだ、この瞬間まではな…
『灼竜:フォンパ』
簡単に説明しよう。生息地周りの地中が超高温になるような、あまりに強大な魔力で付近にいる魔物の大半をショック死させるような天災級の怪物だ。
「知ってるわよね?こいつがどれくらいの化け物かってことくらい…」
震えた声のソラの質問からはおのずとその意図が感じられる。”生存者を連れて逃げよう”という当然に思えるその意見には、思わずうなずきたくなる…が
「ここで食い止めないと多分…町のほうにも被害が出ますよ」
「あたしたちが顔に蹴り入れたせいで?」
「……今更過去には戻れないですしちゃんと責任取りますよ。私は」
「りょーかい…」
震えながら、それでも前を向きながら、隣の先輩はそう答えた。
くだらない会話をしていたおかげで、その間に足元の二人は逃げれたようだ。
助けはいない。たった二人で竜巻と殴り合わなければいけない。
絶望的な状況で、できる限りの強化魔法をかけて体中に力を込めた。
魔力は少しでも隙間があれば物体をすり抜けるので、地中の生物も”魔力探知”で探知することが可能です。ですが、魔術は魔力をもとに物資化したものなので普通に地面に当たります。