第6話 も1つ忘れると
前回までは捌くところから始めれたけど、今回は釣るところから始まったので、書くのにとても時間が掛かりました。
また、釣りに行かないといけないので、今回はここらで失礼します。
ようやく家に着いた。
いつもは自転車を漕いで通っているのであまり苦にならないが、歩きだとなかなか距離がある。
家に入るためにドアを開けようとするが、鍵が掛かっていて開かなかった。
リュックから鍵を取り出し、鍵を開けて中に入る。
「ただいまー」
家に俺の声が響くが、誰もいないので当然返事はない。
扉の鍵を掛けて、玄関で雑に靴を脱ぐと、
「おかえりなさいませ、命様、神子都様」
という言葉と同時に、廊下の奥から長身で執事服を着た男性が、手に持った金属の大きな輪に大量の鍵を付けた物をジャラッと鳴らしながら出てきた。
「あれ? もしかして今日、忘れてました?」
「私がここにいるという事は、そういうことでしょう」
この神様は鍵の神様で、いつも鍵を閉め忘れた時に現れる。
俺の代わりに鍵を掛けておいてくれるのだが、それだけで終わらないのはご存じの通りである。
「鍵を掛け忘れるということは、被害に遭う確率が高くなるということです。またしても、それを忘れているようなので、もう一度身体に叩き込みましょう」
「キーさん、あれをやるにしてもお手柔らかにお願いします」
その言葉で相手の顔色は少しも変わらなかった。
ちなみに、鍵の神様だからキーさんである。
「いけません、命様。これも安全のためです。どうかご容赦ください」
キーさんが指をパチンと鳴らすと、家のあちこちからガチャガチャと鍵の掛かる音が聞こえた。
「命様は今回で4回目なので、1ヶ所につき4つの鍵穴がつきます」
何が起こっているのかというと、家の中のありとあらゆる物に鍵が掛けられ、何をするにも解錠、施錠を強いられる状態になっている。
鍵穴は全て同じ形をしているので、鍵は1種類だけなのだが、何しろ何度もやるのが面倒くさい。
そして、特に気を付けなければいけないのは、施錠を忘れることである。
それを忘れてしまうと、2種類のペナルティが科せられる。
「この加護は昼食をとり終えると同時に消滅します。それでは、ごゆっくりどうぞ」
キーさんは俺に1本の鍵を渡し、一礼してからスッと消えた。
この何の変哲もない鍵は、マスターキー的な役割を果たしてくれるとても重要なものだ。
これを狭い隙間に落とそうものなら、人生が詰んでしまう。
なので、なるべく早く昼食を終えて、さっさとこの加護とはおさらばするのが賢明な判断だろう。
まずは手を洗いたい。洗面所の扉の前まで行き、ドアノブを握ると、その上に4つの鍵穴が浮き出てきた。
さっき貰った鍵を使って、全て開ける。そして、部屋に入って全ての鍵を閉める。
水を出そうと水道のレバーを上げようとするが、そのレバーにも鍵が掛かっており、それの上に宙に浮くかたちで鍵穴がまた4つ出現した。
「はぁ〜、神子都これなんとか楽に出来ない?」
鍵を開けながら、神子都に文句を垂れると、
「あたしがこの状況に飽きたら助けてやるから、今は1人で頑張れ。あと、ちゃんと集中して開けないと、もっと面倒くさくなるぞ」
鍵を全て開けて、レバーを上げようとするが、動かなかった。
「あれ? 上がらない」
何度も力を入れて水を出そうとするが、レバーは微塵も動かない。
「だから言ったのに……」
「やばい、どれが開いてて、どれが閉まっているのか分からない」
この鍵穴には開いているか閉まっているかを判断する方法が無い。トイレの鍵のように、開いてたら青、閉まっていたら赤のような色分けもされていないし、鍵は時計回りにしか回転できず、1回転ごとに開く、閉まるを交互に繰り返す仕様になっている。
その為、1度間違えて分からなくなると、片っ端から試していくことになる。
まだ、鍵穴が4つしかないので16通りで済んでいるが、これがどんどん倍になっていくとなると恐ろしいものである。
「ふぅ、やっと開いた」
大変な思いをした後の手洗いは格別である。
特に、鍵を回し続けて疲れた右手に、蛇口から流れ出る水がよ沁み渡る。
……そんなわけもなく、速やかに手洗いうがいを済ませて鍵を閉め、洗面所の扉の鍵を(ry、すぐさま昼食作りに取り掛かる。
帰りにコンソメスープとか言っていたが、そんなものを作っていたら日が暮れてしまう。
どうせ俺しか食べないのだから、卵かけご飯で十分だ。
ここから先は解錠は(開)、施錠は(閉)で表す。
冷蔵室(開)を開けて、卵パック(開)から卵と、目についた納豆を取り出して、冷蔵庫を閉める(閉)。
冷凍室(開)を開けて、ラップに包まれた冷凍ご飯を取り出し、冷凍庫を閉め(閉)、電子レンジ(開)に放り込んで扉を閉めて(閉)温める。
数分後、電子レンジ(開)からご飯を取り出し電子レンジの扉を閉め(閉)、ご飯をラップ(開)からお茶碗に移すが、これがとにかく熱い。
「あっつ! あっつ!」
何とか移し終えてラップをゴミ袋に捨てた。
次に納豆の準備に取り掛かろうとしたが、急に右手が握った状態から動かなくなる。
(あっ、どっかでやらかしたな)
これが閉め忘れのペナルティの1つである。
体の一部がロックされ、加護が解けるまで動かせなくなる。そして、閉め忘れをそのまま放置しておくと、ロックされる箇所がどんどん増えていく。
すぐにそれだと理解し、今までやった事を逆再生で思い出しながら確認にしていくが、これといったミスが思い当たらない。
「ええと、どれだ? どれを閉め忘れた?」
次のペナルティが迫ってくるプレッシャーで頭が回らない。
今までに3回もこの加護を受けているが、何度やってもこの状態には慣れない。
「ご飯のラップのところだ。お前が『あっつ!あっつ!』ってやった後、無意識のうちに捨ててたぞ」
神子都の助言を受けてゴミ袋に目を遣ると、役目を終えてくたびれたラップが1番上に置いてあった。
これにはもう鍵を掛ける必要がないと思うが、ペナルティをこれ以上無駄に受けたくないので、ちゃんと閉めておく。
(左手だと回しにくいな)
利き手じゃないのもあるが、右手の時の倍ぐらい時間がかかる。
なんとか鍵を閉めて、昼飯作りを再開する。
こうしているうちに、あれだけ立っていたご飯の湯気もすっかり落ち着いていた。
納豆パック(開)を開けて納豆をそのご飯の上に盛り(閉)、卵を落とす穴を開ける。
そこに卵を落としたいのだが、今の俺は左手しか使えない。
片手割りを利き手じゃない方の手でやるなんて、殻を混入させてくれと言っているようなものだ。
(やるだけやってみるか……)
卵(開)を左手で握り、机に打ち付けてヒビを入れる。
先程作った穴の上まで持ってきて力を込めるが、
「いや、固っ!」
左腕が震えるぐらい握るが、びくともしない。
持ち方を微調整したらなんとか割れたが、割るのに夢中になって黄身が納豆とご飯の山を下っていった。
どうせ味は変わらないので問題ない、ちょっと残念なだけだ。
卵の殻(閉)を捨てて、醤油(開)を垂らして(閉)完成だ。
「よし、いただきます」
挨拶をして卵黄を割ろうとするが、卵黄の膜にスプーンが阻まれ鍵穴が出現する。
「こんなところにもあるのかよ」
左手で開けるのも慣れたもので、流れるように鍵を開けることができるようになっている。
納豆と卵とご飯をかき混ぜて、スプーンで1口ずつ食べる
本音を言えば、器を持ち上げて箸でかき込みたかったが、片手しか使えないので仕方ない。
加護の終わりが見えると、漢字書き取りの宿題のラスト1文字を書くときや、授業終了の5分前になったときの気分になる。
「ごちそうさまでした」
その挨拶とともに加護が解けて、右手が自由になる。
何も飲まずに昼飯を食べたため、何か飲みたい。
コップを用意して、冷蔵庫を開けようとするが、無意識に鍵穴を探してしまっていた。
「もう加護はないぞ」
「頭では分かっているんだけど、鍵がないのに違和感を感じる体になってるわ」
冷蔵庫を開けて、お茶を取り出して閉めようとするが、空の卵パックがあったのでついでに捨てる。
「あれ? 何でさっき卵取った時に一緒にパックを捨てなかったんだ?」
「その時はまだ卵があったからな、捨てれないだろ」
「じゃあ、今は何で卵がないんだ……?」
「それは、卵パックの鍵を閉め忘れたからだろ」
「あっ」
これが閉め忘れペナルティの2つ目だ。
鍵を閉め忘れた時に中身がどんどん無くなっていく。
1つ目は扉などの中身が無いものの閉め忘れで、2つ目は卵パックのような中身があるものの閉め忘れで起こるように分けられている。
このままでは親に怒られるので、買いに行くことにした。
お茶を一気に飲み干し、財布と携帯と家の鍵を持って外に出る。
ちゃんと鍵を閉めたことを確認して、出発する。
少し進んだところでまた家に戻り、鍵を確認する。
「さっさと行かんか!」
「いやいや、どうしたって不安になるって!」
何度確認しても拭いきれない不安を抱えながら、俺は卵を買いに近くのコンビニに向かった。
鍵を閉め忘れていたのは偶然です。ありがとう過去の自分。
あと、納豆と卵白の食べ合わせは少しだけ良くないらしいです。
そんなこと気にして、ストレスが溜まる方が良くないので、ガッツリ全卵でいっちゃってください。
簡単で美味しいが正義です。