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第4話 動けば不快、止まれば破綻

ちまちまとやっていたら、あっという間に6月になってしまっていました。

ちょっと時間かかり過ぎです。

やる気ってなんであんなに遠くに置いてあるんですかね?

もっと手元に置いておいて欲しいもんですよ、まったく。

 昇降口で靴を履き替え、廊下を渡って教室に入る。

 すると、少しピリピリとした緊張感に襲われ、今日が何の日だったのか思い出す。

 そう、今日は1学期の期末テストの日だ。

 登校中に遅刻したくないということは考えていたが、何があるのかすっかり忘れていた。

 今日は1限に数学Ⅱ、2限に現代文のテストがあるが、別にそんなに苦手な教科ではない。

 勉強はある程度やって来たので、そこまで心配はしなくていいだろう。

 自分の席について、必要な物だけ机の上に出し、公式の最終確認をする。

 少ししてチャイムが鳴ると、隣の席の人が戻ってきて、教室中に響き渡る様な大きな声を近距離で浴びせてきた。


「おーっす! おはよう命! ちゃんと勉強してきたか?」


「相変わらず声がでけーよ……おはよう姫乃(ヒメノ)。まあまあってとこだな」


 こいつの名前は三上(ミカミ)姫乃(ヒメノ)

 親同士が学生時代からの親友らしく、小さい頃から一緒にいる。

 いわゆる、幼馴染というやつだ。

 文武両道で社交性も高いので、いつもクラスの中心的にいる奴である。


「たまには点数勝負でもするか?」


「お前に勝てる奴なんてこの高校にはいねーよ」


 姫乃が相手だと頑張る気すら起きない。

 こいつは間違いなく天才だ。

 家が近いからという理由でこの高校に入学したのだが、本来の実力は高校生の中でもトップレベルである。




 しばらくして、先生がテストを持って教室に入ってきた。

 テストをするにあたっての注意点などが説明されてから、問題用紙と解答用紙が配られる。


「はい、じゃあ時間になったので始めてください」


 先生の合図と共に、紙をめくる音とシャーペンの芯を出す音が一斉に鳴る。


(とりあえずやるか)


 別に急がなくても時間は余るので、のそのそと名前を書き、解き始める。

 大問1の基礎問題の集まりを突破して、大問2.3を解けるだけ解き、裏面の問題に取り掛かる。

 紙をひっくり返した瞬間、最後の問題のあたりに神様の気配を感じたが、知らんふりをして順番に問題を進めていく。

 そして、最終問題の問6まで辿り着いた。

 明らかに変なオーラを放っているので、この問題を放置するかどうか悩んだが、問題文ぐらいは読んでやることにした。

 

 問6.下に意思を持って動く点Pがある。その動きを止めよ。

                       (20点)


 問題文の下の余白には、Pと示された直径1cm程度の大きさの黒い点だけがポツンと置かれていた。

 問題の意味が分からないし、全然数Bと関係ない。それに加えて、どうすれば正解なのかもよく分からない、とりあえず点Pを丸で囲っておいた。


(さてと、後は見直しして、余った時間は寝るか……)


 面倒なことを考えるのはやめて、凡ミスで点数を落としていないかの確認をする事にした。

 問1から見直しを始めようと紙を裏返すと、問題文や解答を押しのけながら、点Pがオモテ面の中心まで移動して来た。

 解答をグチャグチャにされたことで苛立ちを覚えるが、1度深呼吸をして無理矢理抑える。

 イライラしながら答案の乱れていない所を見直ししていると、点Pが俺に向かって文句を言ってきた。


「お前さ、何やあの雑な解答は? 俺、ずっと楽しみにしてたんやで? どんな解答が見れるのかなって。それなのにさ、問題文だけサラッと読んで、テキトーに俺を丸で囲って、見直しし始めたやん? 配点見た? 20点もあるんやで? もうちょっと頑張った方が良いと思うけどな俺は」


 無視して見直しを続けようとするが、点Pが視界の中に入ってきて、解答を荒らしてくる。


(めんどくさい奴が来たな)


 こいつの言う通りにしたくはないが、このままでは採点が出来なくなってしまうのでそれは避けたい、仕方なく裏面に戻って解き直すことにした。

 再度、紙を裏返し問6を見るが、まだ点Pはそこに戻ってきていなかった。


(なんで戻ってきてないんだよ!)


 また、表面に戻ると、点Pがせっせこせっせこと自分が荒らした解答を並べていた。


「ちょっと待ってや、もっかい解いてくれる言うんなら、これ直してかんとあかんやろ」


 あやうく、良い奴じゃないかと騙されそうになるが、自分で荒らしたのだから、そんなこと当たり前である。

 結局、ここで10分は待たされた。


「よし! じゃあ見せてや、君の本気の解答!」


 そんなこと言われてもって感じだが、思いついた事があったので試しにやってみる。

 最初にやったのは、円に外接する四角形で囲む事だ。

 点Pがギリギリ入るサイズの四角形に入れれば、動くことは出来ないだろう。

 自分では、そこそこいい線をいってる解答だと思うのだが、どうだろうか。

 相手の反応を待つ。


「なるほどな。さっきよりはええ感じの解答やんか!」


 点Pは俺の解答をそこそこ気に入ってくれたようだった。

 このまま何事もなく終わってくれるといいのだが……。


「でも、これは柔いな」

 

(柔いってなんだよ……)


 俺の書いた四角形は柔いらしく、普通に四角形の一辺をぶち抜かれて、逃げ出されてしまった。

 思ったより力技で解決されたのであまり腑に落ちないが、もう1つ作戦があるのでそっちを試してみる。

 テスト用紙に適当な線分A、BをX字になる様に引いて、その交点に点Pが来るようにした。そして、線分A、Bの交点を点Pとする条件を付け加えた。


「おおっ! 今度は条件使って止めに来たんか! ええやんええやん、ここから動けへんわ!」


 今のところは止められているが、この状態がいつまでも続く訳がない。

 この解答は俺の考えた中で1番自信があるものなので、これ以上はもう出せない。


「でもなぁ……。この条件やと線分を溶かしたら、交点がなくなるんよな……」


(何を言ってるんだこいつは?)

 

 点Pに触れている部分から線がどんどん溶けていき、端だけ残して消えてしまった。


「他の解答はもうないん?」


 この問題に対応する解答なんか、そう何個も出るはずがない。

 さっき以上のものを出そうと、頭を捻るがなかなか思いつかない。


「もうお手上げというなら、代わってやるぞ?」


 テスト中、宙をふよふよと漂って暇そうにしてた神子都が、俺を翻弄してくる調子に乗った変な問題を解くべく、名乗りを上げた。

 

「あいつが捻り出した程度の答えじゃ、全然満足出来んだろ?」


「まあ、悪くはなかったけど、まだまだって感じやね」


 俺が聞こえる位置にいるのに、まるで存在していないかの様に傷を抉る言葉を飛ばしてくる。

 そこまで言うなら神子都の解答を見せて貰おうかと、逆にふんぞり返る。

 どこに線を引くのか、どんな条件を付けるのか、それとも全く違う答えを出してくるのか、俺は神子都がどんな解答を出すのか普通に気になっていた。


「じゃあ、いくぞ」


 神子都はいつの間にか生成したシャーペンを構えていた。

 そして、大きく振りかぶって……。


(いや、なんで振りかぶって……)


 ドーンッ!


 シャーペンを点Pに向かって全力で投げつけた。

 神子都の姿や生成したシャーペンは周りの生徒には見えないが、衝撃音や風圧は発生しているので、周囲では悲鳴が上がっていた。

 あまりに一瞬の出来事で、監督の先生も正確な指示が出せずにいた。また、緊急地震速報も鳴らなかったので、何が起きたのか分からない上に、すぐに収まったので、このままテストを続けることになった。


「ふん、手始めにこんなもんでどうだ?」


 俺の理解が追いつく前に、物凄い勢いで叩きつけられたシャーペンは、解答用紙を貫通して綺麗に机に突き刺さっていた。

 思ってた解答と違う。

 数学の問題? を解くだけなのに、シャーペンが机に刺さることなるなんて、考えてもいなかった。

 それで、結局あの点Pを止めることができたのかというと……。


「あっぶなかったわ」


 すんでのところでシャーペンを回避していた。

 アニメだったら、血が頬を伝う演出が流れるだろう。そのぐらいギリギリでシャーペンを躱していた。

 流石の点Pも、シャーペンが飛んでくるとは思っていなかったのか、回避行動をとるのが少し遅れたようだ。


「なかなかパワフルな解答やね」


「線や点やらでは、止められそうになかったからな。物理的に止めてみたけど、どうやらいけそうだな」


 そこから神子都と点Pの怒涛の攻防戦が始まった。

 点Pを止めるというより、もはや殺しにかかっている神子都と、それを全力で回避する点P。

 正直言って神子都の方が分が悪い、先程は不意を突けたので良かったが、これだけ動き回っている点Pをシャーペンの先端で捉えるのはかなり厳しい。

 神子都もそれを分かっているので、1度手を止めて何を思ったのか、シャーペンを鉛筆に持ち替えた。


(それで何か変わるのか?)


 そんな俺の思考もお構いなしに、次は鉛筆で点Pを丸で囲い始める。

 もちろん、すぐに破られて抜け出されるが、懲りずに囲み続ける。しかも、後に書いた円の方が抜け出された時の破損が大きい気がする。

 おそらく、点Pがだんだん囲まれるのに慣れてきたのだろう。


(さっき自分で線では止められないって言ってたじゃん) 


 10回ぐらい同じ展開が繰り返された時、いきなり神子都が薄い線で点Pを囲った。


「イデッ!」


 今まで、何回も円を破ってきた点Pが急に止められた。

 先程よりも薄く、いかにも弱そうな線が、意外にも点Pを閉じ込めることに成功した。


「その鉛筆はもしかして……」


「この鉛筆がどうかしたか? ただの鉛筆だぞ?」


 形勢が逆転して余裕が出てきた神子都は、点Pを囲っている円をゆっくり半分に切り始めた。

 2等分、4等分と切り分けるに連れて、逃げ場が少なくなっていく。

 限界まで切り分けた時に、点Pが敗北を認めた。


「お嬢ちゃんの勝ちやわ」


「まあまあな問題だったぞ、それじゃあな」


 最後に鉛筆を点Pに優しく突き刺して、この戦いは終わりを告げた。




 チャイムが鳴り、数Ⅱのテストが終わった。

 後ろから前に解答用紙を回し、最後に先生が回収する。

 ちゃんと人数分の紙があるか確認しているときに、1枚のボロボロの解答用紙が見つかった。

 もちろん、俺の解答用紙だ。


「立神、テストが終わったら職員室に来い」


「はい……」


 俺がやった訳じゃないが、まあこうなる。

 テスト後に職員室で、なんで解答用紙がこんなに穴だらけなのか聞かれたが、本当の事を伝えても信じてくれるはずがないので、適当に誤魔化して、なんとか凌ぎ切った。

 教室に戻り、帰りの支度をして、学校を出る。


「あーっ、やっと帰れる」


 朝急いだ分、帰りはゆっくり歩く。

 2限だけしかやっていないが、テストの日は解放感がいつもより多い気がした。


 余談だが、現代文のテストは何事も無く平和に終わった。

カッコつけて条件とか何とかやってますが、ちゃんと出来てるのか分かりません。

そもそも、問題自体がフワフワしたものなので、ストライクゾーンを広めにして読んでもらえるとありがたいです。

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