第3話 怖いものには追われろ
前回の話の前書きも、後書きも書いたはずなのになぜか反映されてなかったので、修正しておきました。
血反吐を吐くぐらい暇なら見に行ってください。
ちなみに今回のパン粉の割合は10%程度に抑えることが出来ました???
その分、小さくなったのは内緒です。
「うわぁ、めっちゃ揺れるなぁ」
思い切って右足を乗せたはいいが、浮遊物はグラグラと揺れるし、恐怖で膝はガクガクしてるので左足が踏み出せる気がしない。
このままでは進まないので、左足を乗せる前に右足の近くに両手を置き、クラウチングスタートの様な姿勢になって体を支えた。
その後に左足を乗せて、安定する頂点で地を這う様な体勢になって一息つく。
次の奴に移動したいが、今度は不安定な所から不安定な所への移動なので、先程よりも渡るのに時間がかかる。
「神子都さん、さっきから進んでませんよ」
「これくらい簡単に行けると思ったんだけどな、やっぱり失敗出来んとなるとこうなるか」
俺の気も知らないで、神様達は宙に浮かびながら、早くしろと言わんばかりの態度で俺が足を踏み出すのを待っている。
そうは言っても、ミスって落ちたらあのひん曲がった自転車と同じ運命を辿ることになる。
それを理解していながら、慎重にならない奴は人間じゃない。
動悸はまだ収まらないし、呼吸は荒いままだが止まったままではいられない。
覚悟が決まるのと同時に、神子都が声を掛けてきた。
「ここを渡るのは怖いか?」
「見てこれ、怖くて足の震えが止まんない」
「そうかそうか、ならその恐怖を無くしてやろう」
そう言って、橋の入って来た方に手を伸ばす。
気になった後ろを見ると、そこには大きさの違う黒い球が2つくっついており、ちょうど蜘蛛から足を取った姿をしていた。それに加えて、その表面には大量の羽虫の様な黒い粒が飛び交っている。
全長は3mほどあるだろうか、正確かどうかはどうでも良くなるぐらい大きい。
「そして、最後にこれを生やしてと……」
そう言うと、前の球からは1対の、後ろの球からは2対の黒い腕が足の代わりにグチャグチャともビチャビチャとも言えない音を立てながら生えてきた。
どんな生物でもこの怪物を見たら本能的に恐怖を感じて、逃げ出すだろう。
後ろに出てきたそれは、恐怖そのものが形になっていると言っても過言でないほど、おぞましいものであった。
「行ってよし!」
その瞬間、俺を目掛けて猛スピードでダッシュしてきた。
恐怖と気持ち悪さで背中が震える。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
もう落ちる恐怖はもう1ミリも残っておらず、今まで進めなかった残りの2つを、カエルの様にピョンピョン跳ねて一瞬で渡りきった。
橋を渡りながら後ろを見ると、あの怪物は崩れた所を渡ることが出来ず、手前で立ち止まっていた。
額の汗を手の甲で払いながら、ホッと胸を撫で下ろした。
「ふーっ…危なかった」
「そうだな、ちなみに他の人に迷惑になるから、橋は直しといたぞ」
気が付かない間に橋が直っていて、あの怪物が進めるようになっている。
「ほら、休憩している暇はないぞ、ラウンド2だ」
再度走り出した怪物が襲い掛かってくる。しかも、先程よりも少し速い。
こちらも全速力で逃げるが、重いカバンと制服を身に付けているので分が悪い。
相手の体がデカいため小回りが苦手であると踏んで、曲がり角を多く通れる道を選んで走る。
「結構長いこと逃げてますね」
「脳と筋肉を全力で働かせているからな、こんぐらいは出来るだろ」
「でも、もうすぐ捕まりそうですね」
足が重い、喉が痛い。
ハァハァと呼吸している口の中は血の味で満たされていた。
いくら小回りが苦手だといっても、曲がり角に行くまでの直線で少しずつ距離を詰められてしまう。
4つ目の角を曲がろうとした時に体力が尽き、とうとう捕まってしまった。
前足か前腕か分からないもので、仰向けにされ四肢を固定される。
前方の球の下側に線が入り、ガパッと大きく開く。そこには、ティラノサウルスにも引けを取らない程大きな牙が生えている。
そして、その立派な牙を俺の喉元に突き立てた。
「……んっ?」
黒い怪物は確かに噛み付いているのだが、あの巨大な牙をもってしても血の1滴も出ないレベルの甘噛みだった。
「ここらが潮時か」
神子都はそう言うと、俺を取り押さえていた怪物がサーッと消えた。
疲れた俺はそのまま道で大の字になって息を整えていた。
かなりの距離を全力疾走したので、多少は時間に猶予が出来ているはずである。
その後に歩けるかどうかは定かでは無いが、そこは根性でなんとかしよう。
5分ぐらい休憩してから、震える足を無理矢理動かして学校に向けて歩き始める。
このペースで行くと、チコちゃんの言った通りの時間になってしまう。でも、もうこれ以上速くは進める気がしない。
そこはもう諦めて、さっきの怪物の話でもしながらゆっくり行く事にした。
「あいつなんであんなに噛みつきが弱かったんだ?」
「見た目に力を注いだから、攻撃力が貧弱になってしまったわ」
おそらく俺が捕まるのが分かっていたので、わざと弱く設定したのだろう。なので、これは神子都なりの優しさなのである。
「にしても、あれに追いかけ回されるのは、なかなかキツかったんじゃないですか?」
「死ぬより怖いことってあるんだなって思ったね、あの時は」
あれこれ話しているうちに、学校が見えてきた。
長い道のりだった、というかもう疲れたので帰って寝たい。
やっとの思いで校門をくぐると、時間が止まり、3人だけしか動けない状態になる。
「じゃあこの上に腕を出してもらっていいですか?」
チコちゃんはそう言いながら、可愛いクマさんのイラストが描かれた、可愛くない大きさのコップを持ってきた。
何L入るかは分からないが、チコちゃんと同じくらいの高さがあるコップだ。
「今から時間を注ぎますね」
そして、俺の腕を雑巾の様に絞り始める。
腕からは透明なボンドの様な少しとろみがついた液体がドバドバと溢れ出し、みるみるうちにコップを満たしていく。
「いただきま〜す」
笑顔でコップをがっちり持ち、グビグビと飲み進めていく。
その瞬間から周りの景色が猛スピードで逆再生されていく。
出来れば吐き出さないでくれと願いながら、その気持ちのいい飲みっぷりを眺める。
明らかにチコちゃんより飲み物の方が大きかったが、何処に入っていったのか、全て飲み干してしまった。
「ぷはぁ、ご馳走様でした……うぷっ」
「もしかして……吐きます?」
「ちょっと後ろを向いて、耳塞いでもらっていいですか?」
少し恥ずかしそうに目を逸らしながら言ってきたので、言われた通りに後ろを向いて耳を塞ぐ。
ちゃんとやっているかをチコちゃんが念入りに確認した後に、俺の後ろで重低音の振動が起こったのを皮膚で感じた。
振動が止んだ後に軽く肩甲骨辺りをトントンと叩かれ、もう大丈夫ですと言われた。
「じゃあ、時間も戻ったので私はこれで失礼しますね」
なんとか無事に時間は戻ってくれたようだ。
助かったのは良かったのだが、お腹の容量が足りたのか聞いてみた。
「あれっ?容量オーバーになったんじゃないの?」
「ここにくるまでにギリギリ消化が間に合いました」
「良かったぁー…… じゃあ、さっきのアレはなんだったの?」
それを聞いたチコちゃんは頬を赤らめながら、少し怒りを含んだ声で答えた。
「なっ内緒です! それでは今度こそ失礼します」
背中を向けて上に飛んでいき、ある高さまで行くとフワッと消えた。
そして、また時間が進み始めた。
「なぁ神子都、なんでチコちゃん最後怒ってたと思う?」
こいつマジかと言わんばかりの目でこちらを睨みつけてくる。
今後もこれが続くとまずいと思ったのか、一応めちゃくちゃ嫌そうな顔で教えてくれた。
「食べた後に出るのはゲロ以外にもあるだろ? あれだよ、あれ……」
一瞬なんだろうと思考を巡らせたが、そうするまでもない身近なものだった。
俺はやってしまったという罪悪感でいっぱいになりながら、チコちゃんへの謝罪を繰り返していた。
「チコちゃん……ごめん」
「やっぱりあの時にとどめを刺しておくべきだったか……」
登校した中で俺が1番ダメージを受けたのは、加護ではなく自分の察しの悪さだった……。
神子都を少女姿にする予定じゃ無かったので、開幕から連続で少女を出す羽目になってしまった。
でも、チコちゃんは少女以外のイメージが湧かなかったから、結構泣く泣くの思いで書きました。
何かもっとなんとか出来ないのか?と考えはしましたがダメでした……。
今度の自分に期待しましょう。