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第28話 幸せは危険から

コツコツと進めています。

いや、コツコツは言い過ぎか?

ちまちまかな? ちまちま進めています。

決して、しぶしぶではない。決して……

「それで、何がしたい?」


「私、図鑑で見たあれに会いたいです!」


 ネラは目を輝かせながら両拳を胸の前まで持ち上げて、フンフンと鼻を鳴らしながら答えた。

 図鑑で見たとなると、哺乳類か鳥、魚や昆虫あたりの生き物だろう。

 よっぽどの奴でなければ、俺でもなんとか会わせてやることができるはずだと思いながら話を続ける。


「あれって?」


「恐竜です!」


「恐竜!?」


 ちょっとそれは骨しか残っていないんじゃないかな。

 なんてったって21世紀だからね、今は。

 早速、無理難題に直面してしまい、頭を抱える状況に陥ってしまった。


「まあ、流石に会えないですよね。すでに絶滅してますし……」


「頑張っても、骨のレプリカか再現したフィギュアぐらいしか見せられないかも」


 ネラもその生き物が見られないことは知っているが、もしかしたらがあると思ってその名前を口にしたようだ。

 結果はもちろんダメだったが、予想していたとはいえそれなりに悔しそうにしていた。


「とにかく、動物が見たいです」


「それなら、動物園かな」


「そこにはなんの動物がいるんですか?」


 動物園のホームページを開いて、飼育されている動物一覧を見せる。

 すると、ネラは俺のスマホを持っている手を両手でがっしり掴んで、画面に見入り始めた。


「こんなに沢山いるんですか!?」


「まあ、そういう所だからね」


「早く! 早く行きましょう!」


「分かったから、ちょっと待ってて、準備するから」


 急いで身支度を整え、最低限必要なものをカバンに入れて家を出る。

 もちろん戸締まりもしっかりやった。

 キーさんに出てこられると大変だからね。


「じゃあ行こうか」


 動物園まではバスと電車を使って、1時間ちょっとで到着した。

 入口で入園料を払ってから中に入ると、動物特有の香りが一層濃くなる。


「久しぶりの臭いだな」


 俺が過去の記憶を引っ張り出しているうちに、ネラはどんどん先に進んでいた。


「うわー、すごい。生きてる動物だ」


 ネラはすでに入り口近くの動物達を、柵を乗り越えそうなぐらい前のめりになりながら観察している。


「そんなに嬉しい?」


「そうですね。あの部屋では写真でしか見れなかったので、ずっと動いているのが見たかったんですよ」


 その後はカバの汗がどうだとか、キリンの睡眠時間はこうだのとか、ゾウの鼻はこうなってるとか図鑑で身につけた知識をひたすら語ってきた。


「もっと近づいてみてもいいですかね?」


 ライオン達が横たわっているところを見ていたネラは、柵越しからではなく飼育エリアの中から動物の観察がしたいようだ。

 動物を見るという目標が達成されたことで、また1つ欲が深くなってしまったのだろうか。


「ネラなら問題無いとは思うけど」


 俺がそこに入っていったらすぐに人生が終わってしまうだろうが、ネラなら最終結果だけでいいなら無事に帰ってこられるはずだ。


「そもそも、あたしはあいつがここを無事降りられるかが不安なんだが?」


 確かに、塀の高さは動物が登れないようになっているので、身体能力が特に高く無いネラには厳しいかもしれない。

 しかし、そんなことはお構いなしにネラはズルズルと塀を滑り降りた。

 そのまま、オスのライオンの目の前まで歩いて行ったが、なにやらライオン達の様子がおかしい。


「神子都、あれ」


「そうだな」


 どうやらライオンにはネラの姿が見えているようだ。

 野生の勘でも働いているのだろうか。

 のんびりと横たわっている個体もいたりするが、全員の視線はネラのいる1箇所に集まっていた。


「はぁ〜、可愛いなぁ」


 ライオンにメロメロになっているネラは警戒されていることに全く気が付いていない。

 そのまま手を伸ばしてオスのライオンの顎を撫でようとし始めるが、


「あっ!」


「まあ、そうなるよな」


 触れた瞬間に猫パンチを食らって、あっけなく弾け飛んだ。

 しかし、パンチを食らった本人はライオンに夢中になりすぎていて、殴られた事にすら気付いていなさそうだ。


「すまんが、回収よろしく」


「はぁ〜」


 神子都は目を閉じて頭をカクッと下げながらため息をついた。

 そのまま文句も言わずに、ふわりと飼育エリアに飛び降りてネラの元に近づく。

 すると、ライオン達は神子都の危険性を感じ取ったのか、ネラの時は横になって目だけで追っていたライオン達が完全に警戒モードに入っていた。


「おいおい、あんまり神子都を刺激するなよ」


 ライオン達は唸り声を上げながら、神子都を取り囲む。

 危険な奴が急に入ってきて気が立つのは分かるが、神子都も今は多少気が立っているのであまり刺激しないでほしい。


「百獣の王程度であんまり調子に乗るなよ」


 神子都がライオン達を威圧すると、離れたところにいる俺まで寒気を感じた。

 そんなものを直に浴びたライオン達は四方八方に逃げていったが、ボスであろうオスのライオンだけは負けじと神子都を睨み続けていた。


「ほう、逃げなかったことは褒めてやるが」


 神子都がボスライオンに近寄って頭を撫でると、崩れ落ちるように倒れてしまった。

 逃げはしなかったようだが、結局は最後まで耐えられずに気絶してしまったようだ。


「まだまだだな」


 その後、神子都はネラを回収して俺のところに戻ってきた。

 そして、しっかりとネラの中身も詰めてくれたが、


「おい、それで次はどこを見にいくんだ?」


「……えーと、なんでこんな状況になってるんです?」


 ネラは胴体を縛られて、今度はヘリウムの入った風船のようにプカプカと浮かんでいた。

 そして、紐の端を神子都が掴んで飛んで行かないようにしている。


「あたしの仕事が増えないようにしたいからだ。ほら、次はどこに行くんだ?」


 ネラの前で地図を開いて、指差しで行きたい場所を示してもらう。

 次は爬虫類や両生類などが展示されている建物に行きたいようだ。

 ワニやトカゲやカメなど、色々な生き物を見ながら進んでいると、急にネラが不快な顔をしだした。


「なんか、向こうからやけに嫌な視線を感じるんですけど」


 ネラの視線の先にはヘビの展示エリアがあった。

 大きさや色が異なる様々な種類のヘビたちがいるが、どのヘビも手前のガラスに鼻先をつけてネラを見ていた。

 チロチロと舌を出しているのが、捕食者が獲物を見つけた時の舌舐めずりにしか見えない。


「エサだと思われてるんじゃないか? ヘビは卵を食べるからな」


「早く次のところに行きましょう」


 流石に全ての動物を好きになる事は出来なかったようだ。

 ヘビのエリアだけはそそくさと通り抜け、館内を一回りしたところで外に出る。

 次の行き先を地図を見ながら選んでいると、後ろから誰かに呼び止められた。


「すみませんが、その吊り上げられている姫様を返して頂いてもよろしいですか?」


「アルヴァ!?」


 振り返るとそこには全身に白銀の鎧を着た騎士がいた。

 この人がネラの言っていた護衛の人か。


「私は姫様の護衛で白身の神様のアルヴァと申します。すでに知っているかもしれませんが、姫様は外界に出ると少しの事で破裂しまいます」


「そうだな」


「ですので、姫様はあの部屋の中にいないといけないのです」


「そうでもないぞ」


 神子都が部屋に閉じ込めることについて否定すると、アルヴァから反論が返ってくるが、それをネラが遮って止める。


「神子都様は破裂した私を復活させることができるので、嘘はついていないです」


「しかし……」


「それに、私のわがままを聞いてくださる良い方達ですし、こちらの方のほうがアルヴァよりも強いです」


 こちらの方が強いという言葉を聞いた時に、アルヴァの身体がピクッと反応したのを俺は見逃さなかった。

 争いが激しくなることが確定した事が分かってしまったため、勝手に視線がこの3人を避けてしまう。


「それでは少しだけテストをさせてください」


 やっぱりこうなるか。

 アルヴァは腰に付けた煌びやかな剣に手を当てて、上半身をかがめて戦闘態勢に入った。


「あなたがどれだけ強いのか、私が自ら確認させて頂いてもよろしいですか?」


「構わ……」


 神子都が返答を終える前に、アルヴァは目にも止まらぬ速度で神子都を切り裂いた。

 青白い一筋の残像が見えた後、振り終えた剣に視線を送ると剣身が根本から折れていたため、神子都の身体まで届いていなかった。


「直そうか?」


「いえ、結構です。自分で出来ますので」


 どうやら神子都はアルヴァが抜剣をする直前に剣身を破壊したらしい。

 話している途中で攻撃されたのに、先手で対応しているのは流石としか言いようがない。

 

「これは、完敗ですね」


 神子都がアルヴァに圧倒的な力の差を見せつけたため、とりあえずは納得させることが出来たようだ。


「姫様もあなた達の事を頼りにしているようなので、お世話は大変でしょうが、よろしくお願いします。私は他にもやるべき事があるので、ここで失礼いたします」


「やるべきことって?」


 ネラは首を傾げ、心当たりが無いような表情でアルヴァに聞く。


「城の修復ですよ。跡形もなく吹き飛ばされてしまったのでね」


 そういえばそうだったと言わんばかりの表情をしているネラの顔には、多量の汗が噴き出ていた。


「それは……、ごめんなさい」


「いえ、謝らなければならないのは私の方です。使命に囚われすぎて視野が狭くなっていました。申し訳ございません」


 アルヴァは視線を落として申し訳なさそうにしているが、ネラが神子都の元に吹き飛んで来なければ、外に出られただけで動けなかったことだろう。

 そう考えれば、アルヴァのしていたことは間違ってはいないとは思う。


「それでは、今度こそ失礼いたします」


 一礼してから去ろうとしているアルヴァに、最後にネラが声を掛ける。


「アルヴァ! 明日はこの人達と一緒にお祭りに行くの。あなたも一緒に行かない?」


「わかりました。また明日、時間になったら合流します」


 初めてアルヴァと遊ぶ約束を結べたネラは、満面の笑みを浮かべていた。

 その顔を見たアルヴァも少し嬉しそうな表情を浮かべてから、去っていった。


「しまったな」


「『しまった』ってなにがですか?」


「いや、復活させられない事にしておけば、こいつを持って帰らせられたなと思っただけだ」


「それはひどいです!」


 もし、1つでも対応を変えていれば、今頃は自由になれていたかもしれない。

 後からそれに気がついた神子都は額に手を当てて少しうなだれていた。




「次はここに行きたいです」


 ネラが地図に指をさした場所は、ウサギのふれあいコーナーだった。


「そこに向かうなら、こっちの道かな?」


 地図と周囲の景色を照らし合わせて、目的地に向かって移動を始める。


「ここなら私でも大丈夫ですよね?」


 ウサギと触れ合うぐらいだったら、神子都に迷惑をかけずに済むであろうと考えているネラだったが、


「そうだな、(ミコト)が触れ合っているのを見るぐらいなら大丈夫だな」


「そんなぁ……」


 やっばりダメだった。

 ウサギにも敵わない判定をされたネラは、もうしばらくは拘束されたままのようだ。

 俺はネラが羨ましそうに見つめてくるなか、ウサギ達と触れ合って癒しを貰っていた。

いいアイデアが出ない時は、明日の自分に期待して眠るのですが、明日の自分は明後日の自分に期待して眠るので、結局いいアイデアはいつまで経っても出ないことに気づきました。

……気づいただけです。


進行度 1.8%

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