第27話 内も外も外
前回、5月病の季節がどうとか言いましたけど、律儀に守らなくてもいいんだぞ俺。
そんなに有言実行出来るなら、もっとデカい夢でも語っとればいいのになって思います。
自分に……。
命が住む次元とは、少しズレたところに位置するシェール城。
そのお城の中央の部屋には、ネラという名の1人の姫がいた。
「ふぅ、今日も暇ね」
ネラは机に肘を乗せて頬杖をつき、自分の濃いオレンジ色のロングの髪を指先でクルクル回しながらため息をついた。
この場所自体には特に不満はない。
なぜなら、この部屋は必要なものがあれば、本でもケーキでも1日に1つだけ生み出すことが出来るからだ。
唯一の問題があるとすれば……。
「ずっと1人なのよねぇ」
ネラはまだここから出たことがない。
金を基調としたこの部屋には豪華な両開き扉が付いているが、外には常に護衛が待機していて外に出ようとするとすぐに引き留められる。
過去に何度も脱走をしようと試みたけど、ことごとく失敗に終わった。
最初は堂々と扉から出ていき、あえなく撃沈。
変装も試してみたけど、この扉から出てくるのは私しかいないため、全然意味がなかった。
扉から出るのは諦め、壁に穴を開けて逃げようとしたこともあったけど、空けた穴の先にすでに護衛が回り込んでいてすぐに埋められてしまった。
「さて、とりあえず最初はおねだりしてみますか」
ネラは扉を顔だけ出せるぐらい開けて、ダメ元で護衛にお願いをしてみる。
「ねぇアルヴァ、1回ぐらい外に出してくれてもいいんじゃない?」
「いけません姫様、部屋の外は危険でございます」
「出られないなら、せめて私の遊び相手になってよ」
「それも出来ません。私はその部屋には入れないのです」
「もう、なんでダメなのよ!」
あれもこれも出来ませんって、じゃあいったい何ができるのよ!
扉を壊れるくらいの勢いで閉めると、ネラはまた1人ぼっちになってしまった。
「まあいいわ、今日は出られる自信があるから」
今までの経験から、ネラが辿り着いた答えはこの部屋から出ずに外に出ることである。
経験上アルヴァがいるところは抜けられる気がしないので、もう通らないようにするしかない。
そのためには、この部屋と外を繋げるか、
「ここを外にしちゃえばいいのよ」
ネラが今日頼んだ物はこの城を吹き飛ばせる威力を持つ爆弾だった。
目を閉じ、両手を合わせて祈ると、天井から1粒の光が落ちてくる。
それを両手で優しく受け止めると、淡い光を放ってから物騒な物が現れる。
ダチョウの卵程の大きさの球の頭に導火線がついた、ありきたりな爆弾だ。
形だけを見れば丸っこくて可愛くも見えなくもないが、光を控えめに反射するマットな質感の黒色が、その危険性をひしひしと伝えてくる。
「さて、これをどこで爆発させるかなんだけど……」
部屋から出られない以上ここでやるしかない。
周囲を見渡して、どこでやるのが1番いいのかを考えるが、その結果どこでも同じだろうという結論になった。
「もう、このままでいいか」
爆弾を抱き抱えたまま爆発させることに決めたネラは、すぐに行動に移したが、
「これって、火がいるわよね……?」
この種の爆弾を用意したら、火が必要になることは火を見るより明らかなのだが、脱出なことばかり考えていて爆破方法まで気にしていなかった。
今日はもう欲しいものを頼んでしまったので、火を使うには明日まで待たなくてはいけない。
「ボタン式にしておいたほうがよかったわね」
気持ちがせいてしまったことに後悔しつつも、このおかげで落ち着ける時間を得られたと前向きに捉える。
次の日、ネラはマッチを頼んでようやく準備が整った。
マッチの先端を箱の赤い面に擦り付け着火し、床においてある爆弾の導火線に火を移す。
しっかりと火が燃え移ったことを確認したら、抱え上げてその時を待つ。
「うーん、このまま爆発させて大丈夫かしら」
部屋の中でやる以上どこにおいても変わらないだろうと思って抱えたが、流石に少し不安になる。
「まあ、駄目だったらそれまでよね」
どうせここから出られないなら、この一か八かに賭ける。
「さて、外に出られたら何をしようかしら」
これからの事を考えたネラが微笑みをこぼす。
それと同時に、手元の爆弾が強烈な音を放ちながら爆発し、周りの全ての物を吹き飛ばしていった。
「ふぅ〜、ごちそうさま」
朝ごはんを食べ終え、食器を片付けてから自分の部屋に向かうと、扉の下の隙間から何かが染み出てきているのが見えた。
「今度は何?」
鮮やかなオレンジ色のドロドロとした液体が隙間からとめどなく溢れ出してくる。
俺はその原因を調べるために、気味が悪いながらも扉を開いた。
恐る恐る中を確認すると、部屋一面がペンキをぶちまけたかのような状態になっていた。
そして、中央にはドレスを纏った人が倒れているように見えるが、その姿はやけに薄い。
急いで駆け寄って確認すると、中身が全て飛び出ているのか、白っぽい皮だけがきれいに残っていた。
「この液体が中身ってこと?」
「あたしは知らん。とりあえず、詰めてみるか?」
神子都はそう言うと、溢れている液体を集めて女性の口に勢いよく流し込む。
みるみるうちに身体は膨らみ、肌も血の気を帯びた色に変化した。
最後の1滴まで流し終えると、女性は目を開けてゆっくりと体を起こした。
「……ここは?」
彼女はまだ焦点の合っていない半開きの目で、現状を把握しようとしている。
そんなことを聞かれても、俺は何を答えれば良いのか分からない。
地球、日本、俺の部屋、どの選択肢もあまりしっくりこずに悩んでいると、その間に状況が理解できたのか彼女の目がパッと開いた。
「出られた? 出られたのね!」
何から出られたのかはよくわからないが、とりあえず喜んでいるので良いことが起こったのだろう。
今度はこっちが状況を理解出来なくなり、キョトンとしてしまう。
その間に彼女は立ち上がり、
「急にお邪魔してすみませんでした。急いでいるので失礼します」
と一礼して、急いで部屋を出て行こうとしたが、
「まあ待て」
と神子都が足を引っ掛けてそれを止めた。
彼女がバランスを崩して床に倒れると、また中身が勢いよく飛び出した。
「……止めてくれたのはいいけど、可哀想だよ」
「こんなに弱いとは知らなかったからな」
急いでいるところ申し訳ないが、こっちも色々聞きたいことがあるのでちょっと止めさせてもらった。
こんな風になるとは思っていなかったけど……。
「どうする? 動けないように手足を縛ってから注ぐか?」
「そうだね、そうしようか」
復活させた後にまた勝手に動かれても困るので、神子都の案を採用して、一旦軽く拘束させてもらうことにした。
もちろん、本人の許可はとっていない。
拘束のせいで中身が飛び出すかもしれないが、そこは神子都がいい感じに調節してくれるだろう。
神子都は皮になった彼女を椅子に座らせてから手足を縄で縛り、再度中身を詰め込んだ。
「……気がついたか? 悪いが手足を縛らせてもらってるぞ、さっきのようになられても困るからな」
彼女は起きてすぐに縄を外そうと少しもがいていたが、力はあまり強くないようで外すまでには至らなかった。
命は彼女が落ち着いたのを確認してから、話を進めた。
「最初に君は誰で、なんでここに来たのか教えてもらってもいい?」
「私は……」
彼女は1拍置いてからここに来るまでの経緯を詳しく説明し始めた。
この女性は黄身の神様で、名前はネラと言うらしい。
彼女は1人で部屋に閉じ込められているのに耐えられなくなり、爆弾でお城ごと爆破して脱走を試みた。
その結果、吹き飛ばされて俺の部屋に行き着いたとのことだ。
俺は神様って言うのは割とみんなこういう風なんだなと思いながら、相槌を打って話を聞いていた。
「私の話はこれで以上になります」
「なるほど、大体は分かったよ。それと、さっき急いでたけど何かやることがあるの?」
ネラは起きてすぐに、何かから逃げるような素振りで部屋を出ようとしていた。
急いでいる理由が分かれば、多少は手助けすることが出来るし、彼女が1人で行動するのは避けた方がいいと思う。
すぐに中身が飛び出てしまうのでね。
「これは予想なんですけど、多分アルヴァもこっちに飛ばされているんですよね」
「ああ、護衛の人ね」
「そうです。彼に見つかったらまた城に連れ戻されると思うので、その前にやりたい事をやっておかないとって……」
あの焦りは城に連れ戻される恐怖から来ていたらしい。
そして、次にネラのやりたい事について訊ねると、
「祭りが見てみたいです」
とのことだった。
丁度明日、近所でそこそこ大きな祭りがあるので、俺はそれに連れて行く事に決めた。
「私、明日までここに居られますかね?」
「まあ、ここより安全な場所はあんまりないと思うけど、ねぇ神子都」
「おい、あたしを頼るなよ」
勝手に仕事を増やすなと言わんばかりの表情で睨んでくるが、なんだかんだ言ってもちゃんとやってくれる。
アルヴァの対応は神子都に任せておいて、俺は今から何をするかについて決めていく。
「明日まで時間があるけど、祭り以外にやりたいことは無いの?」
「それはもう、沢山ありますよ!」
ネラはいつも退屈過ぎて1日の長さに苦しんでいたが、今日明日だけは短くなってくれるなと、心の底から願っていた。
命の部屋にネラの皮が落ちている場面で、
「人体模型にプレゼントしたら喜びそうな物がある」
的な文を入れようとしたのですが、誰目線でやればいいのか分からなかったし、気持ち悪いなと思ったので書けませんでした。
せっかく頭の中に降ってきたのに勿体無い。
進行度 1.6%




