第2話 他人の遅刻は蜜の味
書きたいアイデアは500文字の2セット程度なのに
それを繋げるために3000文字も書いている……
75%がパン粉で構成されているハンバーグだな???
「この美味そうな匂いは、どの部屋から出てきているのかな?」
マンションの外廊下にずらっと並んでいる扉の前に立ち、すんすんと鼻を鳴らしながら、1つずつ匂いを確かめる。
「ここですね……」
チャイムを押すために手を伸ばす。
時間がない。
朝から面倒な加護に当たってしまったな。とにかく急ぐほか無い。エレベーターは待ってられないから、階段を駆け降りないといけないなとか、向かい風はやめてくれとか、交通量が少ないといいな、などと考えながらドアレバーに手を掛けて思いっきり押し込む。
「ゆっくり開けた方がいいと思うぞ」
神子都にそう言われるが、扉を開ける時間すら惜しい。忠告を無視して、扉を開けながら一歩目を踏み出す。
その瞬間、バァンと音を立てて扉が止まり、思いっきり顔面をぶつけた。
「何だよもう!次から次へと!」
目に涙を浮かべながら、吐き捨てるように言った。
神子都はやれやれといった様子で首を振っている。
顔を押さえながら扉を止めた原因を突き止めるため、ゆっくりと
扉を開けていく。
そこには少し紫がかった白色の髪を持つ少女が、何事もなかったかのように佇んでいた。
「あっ!おはようございま〜す」
扉を急停止させた原因は、笑顔で元気な挨拶をくれた。
この子は遅刻の神様で、人の遅刻の時間を好物としている。有難い事に、食べられた時間分は巻き戻す事ができるため、遅刻を回避することが出来るようになる。しかし、限界巻き戻し時間は1時間で、これ以上遅れてしまうと時間を吐き戻してしまう。そうなると遅れた以上に時間が進んでしまうため、取り返しのつかない事になる。
2~3日の時間を置いてから、「ごめん寝てた」って返信が来ることがあるが、それはこの子による影響であり、決して嘘なんかではない。
「おう、おはようチコちゃん、久しぶりだね」
遅刻の神様だから、頭文字を取ってチコちゃんと呼んでいる。
今日はまだギリギリ間に合う時間に出ているため、チコちゃんが満足する量の遅刻は出来ないはずである。
外廊下と階段を駆け抜けながら話しかける。
「今日はいつもより遅くなったけど、まだギリギリ間に合うよ?」
しかし、チコちゃんはキョトンとしていた。
いや、間違っていないよなと焦ってスマホを確認するが、見間違えてはいない。
こうなると、道中で何か面倒なことに巻き込まれると考えておいた方がいいだろう。
「今回は、この匂いから察するに45分の遅刻ですね」
自転車で行くのに45分も足止めされるのかよ。でも、1時間以内なので遅刻はしなさそうだ。
いつもより45分無駄に自転車を漕がないといけなくなるのは面倒だが、どうということは無い、と思っていた。
「うーん、まだ昨日の遅刻がお腹に残ってますね」
その言葉ひとつで余裕が吹っ飛ぶ。
お腹にどれくらいの時間が溜まっているかによって、結果が大きく変わってくる。
「何分!?何分ぐらい溜まってるの!?」
頼む神様15分以内、15分以内であってくれ、心の中で唱えつつ待つ。
大体、このような願いは裏切られる事が多い。
チコちゃんはお腹をさすりながら、今の状態が腹何分目なのかを探っている。
数秒後、答えが出たようだ。
「20分ですね」
終わった。
このままでは5分オーバーして、吐き戻しを食らってしまう。
自転車に飛び乗って、走り出す。この時、神子都はいつも荷台に跨っている。
自転車で通学、通勤をしている人なら共感できるだろう、向かい風である。でも、これぐらいの向かい風ならいつも通りのことなのだが、いつも通りイライラしながら漕ぐ。
通学時間は自転車で20分程度、家を出てすぐに1箇所だけ堤防と橋を渡る必要があるが、それ以外は街中の平坦な道を走る。そして、このルートで時間を稼ぐとなると……。
「橋、ちゃんと架かってるかな……」
いつもの橋が渡れなかった場合、隣の橋を渡らなければいけない。しかし、そうするとなるとかなり上流まで登るか、下流まで下るかを余儀なくされる。その場合はチコちゃんの言った通りになるだろう。
そんなことを考えていると。
「どうした?橋が架かっているか不安か?」
さっき呟いてたことが聞こえたのか、神子都が後ろから話しかけてきた。
「まあ、神子都達が関わってくると、何が起こるかわからないからな」
神様達は理解の範疇を超えている事を平気でやってくる。そのため、1%の予測と99%の死の覚悟が必要である。
「安心せい!なんてったってあたしがついてるからな!」
あなたも対象外では無いんですけどね。とはいえ、自信満々でそう宣言する神子都はとても心強い。
実際、神子都の助けが無ければ、今頃あの世にいただろう。日頃の加護を耐えた分だけ助けられているのである。本当は逆なのかもしれないが。
「大丈夫、そこは心配してないよ」
俺もここまで生きているので、神子都の能力の高さはよく知っている。だから、何も気にせず安心して任せられる。
助け方がちょっと雑なところが気になってはいるけど、助けられた側が文句を言うのは何か違うので、いつも複雑な感情になりがちである。
息を切らせながら堤防の坂道を駆け上がる。登校する為に使うエネルギーの9割はこの坂に奪われている、と言っても過言では無いほど疲れる。
重たい足を回して、やっとのことで上まで登り切った。止まってられないので、走りながら心の中で一息つく。そして、ここまで来たら橋が架かっているか確認することができる。
そこには、いつも見ているまんまの橋があった。
「なんだ、壊れてないじゃん」
既に橋が壊れていて通行止めになっていたりしたら最悪だったが、とりあえずは渡れそうなので一安心だ。
順調に橋の上を進んでいくが、風が強くなった以外は何も変化は無い。
「チコちゃん、今日は隣の人と間違えたんじゃないの?」
何かアクシデントが発生してくれれば、ある意味安心できるのだが、あまりに何も無いため逆に不安になってくる。
こういう状況は気が休まらないので、やるなら早くやってほしいところである。
「心配はご無用です!これでもわたし神様なので」
「ですよね……ってちょっと待てぇー!」
中央に差し掛かったところで、前方から橋が思いっきりが崩れ始めた。
橋の崩壊は瞬く間に広がり、自転車に乗ったまま川に向かって落下する。
こういう時は神子都がなんとかしてくれる。
最初は焦っていたがすぐに冷静になり、落下する瓦礫を横目に見ながら共に落下する。
「………ちょっと神子都さん?もう下着きますよ?」
落下先は川だが、瓦礫の所為で水面ではなくなっていた。
このままだと死ぬ。恐怖で声にならない絶叫をし、腹の奥がキュッと強張る。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!グエッ!」
制服の襟に何かが引っ掛かり急停止した。
あまりに急な減速をしたため、頭は吹き飛びかけるし、おまけに変な音まで出てしまった。
もうちょっと優しく助けて貰わないと、こんなの落下したのと同義である。
多分、神子都が襟を思いっきり掴んで止めてくれたのだろう。そう考え、礼を言おうと痛い首を後ろに回す。
「ありがとう神子都、一応助かったよ……」
いなかった。右から見ても左から見てもいなかった。慌てて襟がどうなっているのか手で確かめる。
糸だ、ピンと張った糸が上から垂れて来ている。手触りは繊維質では無くプラスチック系であり、襟にはフックのようなものが刺さっている。
俺は現状を把握した。
釣られている。まさか、俺が釣られる側になるとは思っていなかった。
このままではどうしようも無いので、巻き上げてもらう事にした。
手を挙げ、クルクルとリールを回す動きを神子都達に見せる。
「今上げてやるからもう少し待っとれ!」
神子都はリールを巻いて、どんどん俺を上に上げていく。
このまま橋の上まで連れていってくれればいいのだが、なぜか橋の断面に来たところで停止した。
「あの〜もうちょっと巻いてくれます?」
後ろ向きに引き上げられている為、ここからでは何も見えない。代わりに、ギシギシッとした音と、それに続いてスタスタと此方に歩いて来る音が聞こえた。
「せーの、よいしょーっと!」
カツオの一本釣りでもしてるのかという勢いで持ち上げられ、綺麗な弧を描く。
本来の一本釣りなら針が外れるのだが、返しがついているのだろう、外れる事無く半回転して2度目の地面と挨拶を交わす。
「ちょっ!死ぬ!」
「ちょっとやりすぎたか?そろそろちゃんとするか」
「ブフゥ!」
いきなり目の前にふかふかのマットが生成されて、そこにダイブした。
いや、させられた。
起き上がり、神子都に目をやるとサングラスに帽子、半袖短パンというまさに釣り人の見た目になっていた。
さっきまでスウェットだったのに。
近くには折り畳みの椅子やクーラーボックスなんかも用意してあった。
さっきの音はその椅子から立ち上がったときに鳴った音であろう。
「こっちの命が掛かってるのにくつろぎすぎだろ」
「助けてやったのに生意気だな……落とすか」
「すいませんでした!ありがとうございます!」
なんとか助かったので早く学校に向かいたい。
しかし、橋はかなり大きく崩れている為、飛び越えられそうにもなかった。
「しょうがない、遠回りするか」
ここの橋を渡るのは諦めて、隣の橋を渡ることにした。
神子都はその間に先ほど生成した物を取り込んでいた。
これらの物は神子都のエネルギーで構成されているため、簡単に出し入れ出来る上に、好きな形や性能の物を生み出す事が出来る。
片付けが終わり、出発しようとするがあるものが無い事に気がついた。
「あれ?自転車は?」
「ああ、それならあそこに転がっておるぞ」
橋の下を見ると、橋だった残骸の上に自転車が見るも無惨な姿で横たわっていた。
その姿はオレンジ色の道着を着たキャラが自爆攻撃を受けて死んだ時と酷似していた。
そんな事はどうでもいい、問題はそこじゃない。
「もしかして、ここから走るの?」
橋が渡れなくなったのに加えて自転車まで失ってしまい、絶望的な状態である。
それを見兼ねた神子都が橋の壊れた部分に指を差す。そこにキノコのカサのような浮遊物が3つ生成され、向こう岸まで行けるようにはなった。それはいいが風のせいでユラユラ揺れている。
そして、今作った道と向こうに架かる橋のどちらを渡るのかを聞いてきた。
「さあ、どっちから行く?」
そんなのこっちを選ぶしか無い。
落ちたとしてもまた助けてくれるだろう。多分……。
覚悟を決めて神子都の作った浮遊物に足を掛ける。
思ったよりチコちゃんを話に混ぜることが出来なかったので
次回はもっと頑張ります