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第14話 急上昇と焼き飯

曲がり角でぶつかる所までは前からイメージがあったんですけど、それ以外は急ごしらえっていう。

暗闇を歩いている気分になるので、進むのが大変です。

「ほら、いつでもいいぞ」


 神子都は軽く両手を広げて、ドラゴンの攻撃を受け入れる体勢をとった。


「遠慮なくいくよ!」


 ドラゴンは口を大きく膨らませると、どうやって出しているのか、自分の頭よりも大きい火球を放った。

 火球といっても炎の塊というよりは、溶け始めている岩の様な見た目をしており、通過した所には陽炎が発生していたため、かなりの熱を持っている。

 俺に直撃しようものなら四方八方に焼肉が飛び散りそうだ。

 でも、それは普通の人間に撃った場合である。


「よっと」


 神子都は火球を軽々片手で受け止め、まるでバスケットボールかの様に人差し指の上で回し始めた。

 その状況を見たドラゴンは、火球を吐いた時よりも口を開けて固まっていた。


「よし、じゃあ近くの人のいる所まで送ってもらおうか」


 まだ、固まっているドラゴンの顎に神子都が冷めた火球を投げつけると、やっとこっちの世界に戻って来れたようだった。


「ちょちょ! ちょっと待ってね。さっきのをあんなにあっさり止められた事なかったから、驚いちゃって」


 見た目だけで、神子都が火球を素手で止めるイメージを出来る奴なんていないだろう。

 浮いているところを除けば、ただの少女にしか見えないのだから。 

 ドラゴンは何度も深呼吸をして、動揺を抑えていた。


「それで、近くの町まで送ればいいんだっけ?」


「うん、それでお願い。ええっと、君の名前は?」


「エボシだよ。戦いばっかり考えてて、名前教えてなかったね」


「僕は(ミコト)。で、こっちが僕の神様の神子都。こっちも起こったことばっかり話して、大事なとこを言ってなかった」


 手合わせも自己紹介も終えたところで、ようやく移動が出来そうだ。

 エボシの足をよじ登って、首の付け根の鱗にしがみつく。


「落ちないでね! いくよ!」


 翼の一振りで巨体が空高く舞い、意識が飛びそうな程の負荷が全身にかかる。

 もしかしたら、さっきの注意は意識に対して言っていたのかもしれない。

 移動の時間に色々聞こうと思っていたのだが、これじゃ無理そうである。

 必死に歯を食いしばり、加速を耐え切ってから目を開けると、既に上を向かなくても積雲が見えるほどの高さに来ていた。

 しかし、吐き気や頭痛が大人数で押しかけて来ていたので、町を探したりする余裕は無かった。


「運んでくれるのは良いけど、もうちょっとゆっくり加速してもらっていい? 体千切れそうになったから」


「あれ、駄目だった? ごめんごめん、ここからはゆっくり行くよ」


 エボシにぐったりと張り付きながら、込み上げる焼き飯を押さえる。


「神子都〜、いいとこ見つかりそう?」


「向こうに王宮っぽいものが見えるから、そこに行こうかな」


「じゃあエボシ、そこまでこの速度でお願い」


 ゆっくり飛んでくれるのはありがたいが、弱っている俺には羽ばたく度に発生する上下の揺れが効き過ぎた。

 





 異世界の神様が必死に、さっき送った男子高校生を探していると、電話が掛かってきた。

 勿論、掛けてきた相手は転生の神様である。


「どうだ、そっちは見つけれたか?」


「いや、まだ時間かかりそうです」


「そうか、こっちも片っ端から転生者達を尋ねているが、特に何も起こっていないから分からないそうだ」


 転生の神様は表面上は冷静を装っているが、内心は上司からのお叱りの電話がいつ来るのかと、ハラハラしていた。


「とにかく、急いで見つけてくれ、頼んだぞ!」


「はい、分かりました」


 予定に無い人を異世界に送るなんて、入学式に招待されてない人が来るようなものだ。

 何も起こらなくてもギリギリアウト、何か問題が起きようものなら大事件である。

 どちらにせよ早く見つけるに越した事はない、電話を切って、まだ尋ねていない転生者達に会いに行くことにした。






 移動中の俺はずっとダウン状態だったが、神子都とエボシは休む事なく喋り続けていた。


「エボシはなんで最初はあの口調だったんだ?」


「ああ、あれをやると皆萎縮するから勝ちやすくなるんだよ。今回は駄目だったけどね」


 今はエボシが優しい奴だと分かってからならば、最初の口調でも問題ないが、初見の時にあの口調で話されたら、ほとんどの相手は萎縮するだろう。

 ただ、今回は相手が悪かっただけだ。


「あれが片手で止められるなんて、思ってなかったよ」


「まあ、加護で能力を強化してたからな」


「その加護っていうのは、頑張ったらおれでも使えるようになるのかな?」


 あんなに強い能力を見せられたら、誰だって使えるようになりたくなる。

 エボシが期待に胸を膨らませていたが、神子都の一言ですぐに萎んでしまった。


「無理だな」


 余程ショックだったのか、一瞬体が完全に固まったのが背中に伝わってきた。

 エボシの気分が下がるのに連動して、少し高度も下がった気がする。


「まあ、加護と似たようなことは頑張れば出来るから、落ち込むこともないぞ」


「それなら、加護以外で頑張るかぁ」


 その言葉で多少は持ち直したらしく、高度がちょっと上がったが、


「加護使いたかったなぁ」


 と小声で言っていたのを俺は聞き逃さなかったので、未練はまだ残っているようだ。

 そんな会話に耳を傾けていると、突然神子都が名前を呼んできた。


「おい(ミコト)! 着いたから降りるぞ」


「着いたってまだ空じゃん」


「このまま降りたら大騒ぎになるから、ここから飛び降りるんだよ。もう王宮の真上まで来てるぞ」


 気分が悪く過ぎてエボシの背中にしがみつきながら、ずっと目を閉じていたので、全然気付かなかった。

 ドラゴンが来なくても上から人が降ってきたら大騒ぎになると思うが、そこは考慮しないのだろうか。


「それで、どこに降りる?」


 当たり前のように飛び降りようとしているが、ここはバンジージャンプなんかよりも何倍も高い所である。

 神子都が助けてくれるだろうけど、それでも怖い。

 エボシの足まで移動して下を見ると、真ん中に大きな王宮があり、それを囲むようにして街が出来ている。

 そして、更にその街を囲うように壁が立っていて、まさに王道ファンタジーの街といった感じである。


「最初から王宮に行くって言ってるんだから、王宮に降りるに決まってるだろ!」


「えっ!? そっから行くの?」


「1番情報が集められそうじゃないか? ほら、さっさと跳ぶ!」


「そう……なのか?」


 間違っては無さそうだけど、合ってるとも言い難い。

 数秒考えた結果、何の情報も無いのに正解なんて考えても無駄という結論に至った。


「よし、それで行こうか。エボシもここまで連れてきてくれて、ありがとね」


「これぐらいなら、いつでも任せて」


 エボシの足から手を離して、大の字になりながら落下していく。

 景色がゆっくりと動いているので分かりにくいが、かなりの速度が出ているのを顔に当たる風から感じられる。


「今度会うときまでに、もっと強くなっとけよ。また来れるかは分からんけどな」


「今度はもうちょっといい勝負が出来るようになっておくよ」


 神子都は1度頷いてから、(ミコト)の後を追い始めた。

 エボシは久々に刺激を与えてくれる相手が見つかった嬉しさと、すぐに別れが来てしまった事の寂しさの両方を抱えながら、段々と小さくなっていく2人を眺め続けていた。

バンジージャンプよりも何倍も高いって書きましたけど、スカイダイビングよりは低かった。

エボシ意外と飛んで無かったな。


試み進行度は0.2%です。なかなか進まない……。


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