第12話 一方通行
アリスの出番が1000文字しかないのは可哀想だったので、頑張って伸ばしました。
ちょっと書くのが早くなっているのが分かるのですが、毎日投稿の域にはまだ達していないですね。
アリスと神子都のこの争いは昔から何度も行われているが、いつも神子都の圧勝だった。
抱きつきにいってはボコられ、抱きつきにいっては投げられ、と手も足も出ないようなそんな実力差が2人の間にはあった。
特にアリスはシアトのような強力な能力も使っていなかったので、そんなに強くない神様という印象が強い。
しかし、今回は神子都の劣勢から始まった。
「あら、あっさり掴まえれちゃったわ。後は引き寄せて頭を撫でるだけね」
アリスは左手で神子都の右手首をしっかりと握り、力強く引っ張る。
「くっ」
神子都は左手でアリスの手を引き剥がそうとするが、ついでと言わんばかりにそちらの手も掴まれる。
両手が塞がった神子都は、俺が今ちょうど使用している参考書や本棚の本を加護の力で高速で飛ばしてアリスの頭や背中にぶつけるが、全然効いていないようだった。
「神子都、それ今俺が使ってるやつ!」
「結局こっち見てばっかりで進んでないから、いいだろ!」
それについては何も言い返せないが、何か腑に落ちない。
それにしても、こんなにピンチな状況なのに、神子都は参考書をぶつけるなんて攻撃を選んだんだ?
そんなに撫でられるのが嫌なら、もっとなりふり構わず能力を使うべきである。
そして、それが出来るだけの力が神子都にはある。
「もっと強い攻撃出来ないの?」
「出来るけど、やらんだけだ」
なんでだよ、とツッコミたくなるが、神子都の表情は至って真面目だった。
ふざけてはいないようなので、何かしらの理由があるのだと考え始めると、アリスがそれを察したのか、神様の能力について話し始めた。
「お前は何も神子都ちゃんから教えてもらってないのね。いいわ、今は少し気分が良いから教えてあげる。」
アリスが話し始めた内容は次のようなものだった。
まず、神様の能力は万能じゃなく、無制限に乱用出来るようなものでは無いということだ。
強い攻撃をしようとしたら、それだけ大きな代償を払う必要があるのだ。
「代償については個人差があるから、他の神様のことまでは詳しくは分からないけど、私の能力の場合は戦い続けたらいつかは勝てるようになるけど、初見の相手には脆いと言う弱点があるわ」
今までに会った神様は友好的か、そうでなくとも軽くあしらえるレベルの奴らばかりだったので、そんな無茶をする必要が無く、そんな事はあまり気にしたことがなかった。
まあ皮肉な事に、今回は友好的過ぎて困る羽目になっているのだが。
「説明はこれぐらいで良いかしら? そろそろ神子都ちゃんの心の準備も出来ただろうしし、こっちに集中するわ」
「そうだな、ベラベラと喋ってくれたおかげで、準備が出来たぞ」
そう言った神子都の額には、いつ生成したのか小さな光の球が浮かんでいた。
「あら? 何かしらこれ」
「手を離したら教えてやるよ」
「自分で喰らって確かめるからいいわ」
「そうかい」
神子都がその球を炸裂させると、アリスの身体をすっぽりと覆うような極太の光線が放たれた。
家が壊れるんじゃないかと心配になったが、実在する物体に影響は無かったので、それは杞憂におわった。
徐々に光線の威力が弱まり、アリスの状態を確認できるようになるが、
「まじか」
神子都が時間を掛けて準備した攻撃を受けても、アリスの身体には傷1つ付いていなかった。
笑って誤魔化しているが、もう打つ手は残って無いのは俺から見ても明らかだった。
「残念だったわね」
アリスは無抵抗になった手を引いて両手で抱きしめ、その小さな体を堪能していた。
次に、頭の後ろに手を回して撫でるが、伝わってくる感触はサラサラとした髪ではなく、粘液のようなドロドロとしたものだった。
その粘液は既に神子都の全身を包んでおり、指や髪の先から糸を引いて雫が垂れている。
それは黒色をしているのだが、神子都の肌の色も透けて見えるレベルの濃さであり、真っ黒と言えるほどではない。
「アリスさん早く逃げて!」
こんな風になった神子都は見た事が無いが、俺の直感が危険だと判断して、咄嗟に叫んでいた。
それこそ、橋の上に出てきた怪物を見た時と同等か、それ以上のの警告を体が発している。
アリスは神子都から手を離し、足を1歩後ろに下げるが、それと同時に右腕が肩の少し下から切り飛ばされる。
「嘘でしょ」
切断面は白い光で満たされており、血が出たりすることは無かったが、痛々しいのは変わりない。
体から離れた腕はすぐに光の粒となって、霧散して消えた。
まだ、神子都は攻撃の手を緩めない。
アリスの頭に照準を合わせて手をかざすと、先程と同じ大きさだが、黒色の球が生成される。
「そこまでだよ、神子都」
その球の正面に立ち、さっきよりも黒く染まっている神子都の手首を強く握って、呼び止める。
「庇っても意味ないよ」
その声にいつもの神子都の可愛さと凛々しさは微塵も感じられず、ノイズと砂嵐が混ざったような酷いものだった。
確かに、さっきと同じものなら物体には影響が無いので、光線は俺の体を通過して後ろにいるアリスにだけダメージを与えるだろう。
というより、俺に影響があろうとなかろうと、撃たせた時点で負けである。
「この状況の方が意味ないだろ。今、その光線でアリスさん消したって、すぐ復活するんだろ?」
「……」
本当にアリスを消したいのなら、この世から数学を無くすしかない。
神様の姿は本体ではないので、木っ端微塵にされてもすぐに元に戻るので、攻撃するメリットは気分が良くなるぐらいしかない。
「大体、その変な状態になってから代償を考慮して行動してないだろ。この球も一瞬で生成しやがって」
最初に球を生成した時は、時間をかけて準備をすることで代償を減らしていたと思われるが、2回目はアリスに通用する威力の球を、即時に生み出していたので、かなり多くの代償を払っていると考えられる。
「今日は神子都の負けだ。その状態で勝っても、後から苦しくなるだけだぞ」
この状態のまま勝っていっても、いつかはアリスに対策される。
そうなった場合、神子都は代償を増やすことでしか勝てなくなってしまので、それは避けたい。
「分かったら帰ってこい」
そう言うと、黒い球は萎んで無くなり、神子都の全身を覆っていた粘液も蒸発したのか無くなっていた。
「すまん、迷惑をかけた」
「それはいつものことだろ」
しょぼくれている神子都がこれ以上酷くならないように、フォローのようなものを入れつつ、アリスの方を向く。
既に腕は再生しているが、袖は半袖ぐらいの長さに切られたままになっていた。
「アリスさんも今日はもういいですね?」
「……ごめんなさいね、私が羽目を外しすぎたわ」
こちらも満身創痍のようだ。
アリスはいつの間にか眠っている神子都を俺のベッドに寝かせて、
「今度は許可を得てからやるわ」
と言って、ウインクをしてから部屋を出て行った。
俺が思っていたよりも元気が残っていたようだ。
「諦めるという選択は無いのか」
アリスの子供好きの重症具合に苦笑いしつつ、散らばった参考書を片付けていると、神子都の寝息が聞こえてくる。
「気持ち良さそうに寝やがって、こっちはまだ課題が残ってるっていうのに」
スヤスヤと眠る神子都に軽くぼやいてから、課題に取り掛かる。
神子都を止めに入った影響で脳が興奮しているのか、今はまだ疲れを感じておらず、いい感じに集中している。
時間は思っているよりも早く進んでいて、寝る時間はなさそうだったが、なんとか終わらせることは出来そうだ……。
「流石に途中で力尽きたか、まあ仕方ないな」
調子良くスタートを決めた命だったが、その状態は長く続かず、1時間に満たないところで電池が切れたかのようにペンを持ったまま寝てしまった。
「あ〜あ〜、最後のページなんて何書いてあるか分かったもんじゃ無いな」
ノートをペラペラめくって文字を一目見るだけで、調子がどう変わっていったのかが分かる。
「しょうがないな」
神子都がノートと命に加護をかけると、ノートには全ての課題が綺麗にまとめられ、命の頭にはテスト範囲の知識が詰め込まれ、疲労を吹き飛ばした。
「これで借りは無しだぞ」
神子都はベッドから布団を持って来て命に掛けて、しばらく寝顔を眺めて過ごした。
少しするとスマホのアラームが鳴り、命が飛び起きた。
「やべぇ! 寝てた」
寝起きから早々にノートと参考書を開いて課題に取り掛かるが、
「終わってるじゃん」
ノートには解答が全て綺麗にまとめられており、睡眠時間が短いのに加えて机で寝たとは思えない程、体が軽い。
「これ神子都がやった?」
「さあな、そんなことより今日は味噌汁が食えるぞ」
「よっしゃ、飯だ飯」
神子都がやったというのは分かりきっていることだが、これ以上は追及したりはしないし、感謝も敢えてしない。
その方が神子都もいいだろう。
いつもはご飯と味噌汁を半分眠りながら食べているのだが、今日はとんでもなく調子がいいので目玉焼きも作る。
フライパンに油を注いで加熱し、冷蔵庫から昨日買った卵を取り出して、温まったフライパンに卵を割り入れるのだが、
「神子都これって」
「ああ、今日の加護だ」
卵の殻がどうあがいても割れない。
「結局こうなるのかよ……」
俺の調子のグラフが絶好調から普通に下がって行くのが、目には見えないがハッキリと分かった。
今回はちょっと作りが甘かったですね。
設定や攻撃方法も、もっといい案があると思うんですけどね。
説明も文字にするのが難しい回でした。
もっと分かりやすく、簡単な内容で面白く出来るよう努力します。
前回書き忘れましたが、
新しい試みの進行度は現在0.1%です。