第10話 とりあえずゲーム
夏の課題は最初に終わらせますか?
最初に終わらせて、後はいっぱい気楽に遊べる方がいいですよね。
親にガミガミ言われないし、ストレスも溜まらないしで最高だと思います。
でも、自分は最後に終わらせます。
理由はこの先にあります。
どうぞごゆっくり。
「何して遊ぼうか」
男性とも女性とも言えない中性的な顔に、透き通るような水色のフワフワしたショートカット、薄手の長袖の上からでもハッキリと分かる程華奢な身体を持つその神様は、悪戯な笑みを浮かべながら俺を楽な方へと誘う。
夜ご飯を食べる前に休んだとはいえ、まだ疲れは残っているし、やる気も出てきていない。
たとえ万全な状態だとしても、勉強を始めるのには時間が掛かるのに、疲労と眠気のデバフに加えて遊びの誘惑までされたら抗いようが無い。
けど、遊ぶ前にこの神様が何の神様なのか知っておきたい。
「遊ぶのはいいけど、君は何の神様?」
「僕は先送りの神様だよ」
なるほど、今の俺と最も相性の悪い神様だな。
まあ、どうせやる気が出るまでだらけて時間を無駄にするのだから、それまでは遊んででも時間を有効活用した方がいい。
「やる気が出るまでならいいよ」
「そうこなくっちゃ、ちょっと頭貸してね」
先送りの神様は俺の額に指を置いて目を閉じ、俺の記憶の中から面白そうな物を探し始める。
この時、脳から額に置いてある指先に向かってエネルギー的な何かが流れていく感覚があったので、少しムズムズした。
「この魔王の家ってゲームが面白そうだよ」
「結構昔のゲームを見つけてきたな。それ小さい頃にやったけど、難しすぎてクリア出来なかったんだよね」
魔王の家はタワーディフェンス系のゲームで、魔王の家の間取りやレイアウト、魔物の配置などを決めて、家を訪ねて来る敵を撃退し、その時に落としていったお金でどんどん家を強化しよう、という感じ内容となっている。
幼い頃に父さんが攻略していくのを横で見ていたり、実際にこのゲームをやった事があるが、なかなか面白いゲームである。
その時の俺はこのゲームをクリアは出来なかったのだが、それでもキャラ図鑑を見たり、配置を考えるのが楽しかった記憶がある。
部屋や魔物の能力の説明なども詳しく書かれていなかったり、敵は味方の魔物に比べて高性能であるなど、まさに昔のゲームと言ったようなとても難易度が高いゲームだった。
久しぶりにこのゲームの事を思い出したら、急にやりたくなってきた。
「確かここのゲームが入れてある箱の奥にあったような」
買ったゲームは売ったりせずに、全てこの箱の中に入れてある。
何世代も前のゲーム機やカセットをやるのはいいが、今でも正常な動作をしてくれるのかはいつも心配になる。
箱の最奥から必要な物を取り出し、本体の電池を交換して電源を入れる。
「これソロプレイのゲームだけど、君はどうするの?」
「僕は横で見て少しちょっかいが出せれば、それで十分だよ」
じゃあ遠慮せずにやりますか、と意気込んでニューゲームを押そうとした瞬間に、後ろから凄まじい殺気を感じた。
「本当にそれをやるのか?」
神子都の発する殺気に思わずゲーム機の電源を落として、ベッドの上に投げ捨ててしまった。
この殺気の原因は早くテスト勉強に取り掛からないからだろう、というよりそれしかない。
そんな神子都にも怖気付く事なく先送りの神様はゲームをやるよう進めてくる。
「早くやろーよ、勉強なんて後でいいから」
ここで神子都の怒りの矛先が俺ではなく、先送りの神様に向かった。
「ちょっとあんたに言いたい事があるんだけど」
「奇遇だね。僕も君に言いたい事があるよ」
俺がさっさとテスト勉強をしなかったせいで、神子都と先送りの神様が喧嘩を始めてしまった。
いや俺が悪いのは理解しているが、そこまで怒る事では無いと思うんだけど、何がそんなにいけなかったんだろうか。
「あんた知ってる? 命は明日……」
先制攻撃を行った神子都だが、先送りの神様が人差し指を横にスライドさせた瞬間に言葉が途切れてしまった。
「そこから先は後で言ってね。まず、あんたじゃなくて僕の名前は……、えーと君、命君だっけ? 僕の名前いい感じにつけてよ」
自分でいい感じの名前がすぐに思いつかなかったからって、俺を頼られても困るんだけど。
「名前!? んー、先送りの神様だから……」
先送り、先延ばし、後回し、ここら辺の似た意味の言葉達から適当に選ぶ。
「じゃあ、シアトってのはどう?」
後回しの頭をずらしながら呼んだら、まあまあいい感じの語呂が出てきたのでそれにした。
そんなに悪い感じでは無いとは思いながら、先送りの神様の反応を確かめる。
「いいね。君もこれから僕のことはシアトって呼んでよ」
神子都の事を両手で指差ししながら、シアトは自分の事を名前で呼ぶよう要求した。
神子都は快くとは言えないがそれを受け入れ、再度口論を再開し始める。
「シアト、命は明日……」
「おい、最後まで……」
「それやめ……」
何度神子都が話し始めても、シアトの加護によって先送りされてしまう。
「まあ、名前で呼んだからってゲームはやめないけどね。ほら、僕が止めている間に早くやって」
シアトはニコニコと笑顔を浮かべながら、神子都の行動を封じている。
俺は先程ベッドに投げ捨てたゲーム機を拾い電源を入れ、ニューゲームを押して上書きするセーブデータを選ぶ。
1番上に父さんのクリア済みのセーブデータ、その下に俺の昔のセーブデータがあるのだが、その俺のデータもクリア済みになっていることに気付いた。
「あれ? このゲーム、俺まだクリアしたことないんだけど……」
俺は絶対にこのゲームをクリアしていない。
だからと言って母さんはゲームをしないし、父さんはこのゲームをやっていたが、クリアした後にやっているのを見た事がないし、やるとしても俺のデータは触らないであろう。
そうなるともう1人しかいない。
「これ神子都がクリアした?」
神子都の方を見ながらそう言うと、珍しく顔を真っ赤にして俯いていた。
神子都がゲームをしているところなんて、俺は今まで見た事が無かったので驚きだった。
セーブされている時間が午前3:00辺りだったので俺が寝てからやっていたのだろう。
神子都がこのゲームをやり始めた理由は、俺がやっているのを隣で見ていて、自分もやってみたいと思ったのだとか。
別にそんなに恥ずかしがる事でも無いと思うが、隠してた物を見られるとなると、それ相応の精神的ダメージを受けるだろう。
テスト勉強を早くやれと言っていたのも、このゲームをプレイさせない為の作戦だったのかもしれない。
「そんなに気にする事無いって神子都、それより早くこれやろうぜ、あんまり覚えてないから色々教えてよ、な?」
神子都の顔はまだ少し赤くなっているが、いつものようにニヤリとした顔で俺の隣に座った。
「教えてやるのはいいが、このゲームに関してはあたしはうるさいぞ」
神子都の反対側にはシアトが座り、強そうな神様2人に挟まれた状態でゲームを開始する。
プレイヤーの名前を付けると、難易度を選択する画面に切り替わった。
「どの難易度にする?」
「1番難しいベリーハードでいいだろ」
「やっぱり1番難しいやつでしょ」
両サイドが最難関を所望されたので、クリアした事がないのにベリーハードを選択する。
初めにゲームの世界の設定や状況などを説明され、それが終わると、ベリーハードを選択しているのにも関わらずチュートリアルが始まった。
説明の通りに部屋を配置していこうとするのだが、
「部屋の配置について説……」
「部屋ごとに効果が……」
「魔物は部屋を……」
全然読ませてくれない。
「おい、シアト! あんまり覚えてないんだから読ませてよ」
「チュートリアルなんて勘でいけるから大丈夫だよ」
「チュートリアルは手伝わないからな、自分でやれよ」
昔の記憶を頼りに配置を終えると、戦士が家を荒らしにきた。
戦闘は殆ど自動で行われるのだが、戦闘中に魔物の行動を設定することもできる。
部屋から逃したり、逆に前線に向かわせたりとなるべく魔物が死なないように命令をすると中々忙しい。
そして戦闘の結果は……、
「負けた……」
チュートリアルで出てきた戦士に完全敗北した。
こっちの攻撃は全然通らないのに、相手の攻撃は一撃で魔物を粉砕してくる。
チュートリアルまでベリーハードになるのは聞いていない。
これは何度も負けながら試行錯誤していくしかない。
多分今日はここすら終わらないと思いながら、一向に勝てる気がしないチュートリアルに挑み続けた。
テスト前とか夏休みとかはやたらと昔のゲームがやりたくなりませんか?
いつもは思い出さないようなゲームを掘り起こしてやっちゃったりするんですよね。
魔王の家は仮想のゲームですが、現実にある好きなゲームのパクリゲーです。
生意気なゲームのパクリです。