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まさか、聖女のキスにそんな副作用が 1



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 私は、三日三晩意識を失っていたらしい。

 離れることなく、看病してくれていたミルさんが、涙ながらに教えてくれた。


「……レナルド様は?」


 寝ている間に、魔力は回復したらしい。

 ヨロヨロと私は、ベットから起き上がる。

 あの時、呪いのせいで、私以上に限界だったのは、レナルド様の方なのに。守護騎士様は、相変わらず無理をする。


 ここ数年、いつでも近くにいてくれた、その姿が見えないせいで、嫌な予感が胸を占める。


「レナルドは、無事よ? 安心して休んでいなさい」

「っ……無事なら、どうしてここに、いないんですか?」

「……私が、嘘ついたことある?」

「……ないです」


 ミルさんの発した、その問いに関する正確な答えは『ない』ではなく『できない』だ。


 魔法使いとしての力には、制約がある。

 強大な力を使うことができる代わり、ミルさんの場合、嘘をつくことができないらしい。


 そのことを、以前そっと教えてくれたミルさんに、「どうしてそんな大事なこと私に」と聞いたら、「信頼がほしいから」なんて答えが返ってきて、号泣したのは記憶に新しい。


「……じゃあ、どうして」


 私がつぶやくと、長いため息のあと、ミルさんはカーテンにそっと隙間を作った。


「黙っていても、いつか分かることね。……見てみなさい」

「あ……」


 私は、慌ててカーテンを閉め直す。

 今いる部屋は、三階らしい。

 目の前には、大きな庭があるけれど、その先にある門の前に、たくさんの人が集まっているのが見えたから。


 遠目にも分かるほど、どの人の顔も、険しい。

 

「あちらは、レナルドに任せておけば良いわ。ところで……」


 胸を揺らしながら、ガバリとミルさんが、私のベッドに体を乗り上げてきた。


「み、ミルさん?!」

「これは、一体どうしたことかしら?!」


 妙に興奮しているミルさんと、理解の追いつかない私。二人で、ベットの上で見つめ合う。

 どういう状況なのだろうか、これ。


 でも、よく見るとミルさんの視線は、私ではなく私の少し横に逸れているようだ。


「…………にゃ?」


 私の左肩上には、もう封印の箱は浮かんでいない。だって、封印の箱シストは……。

 そうやって、毛繕いしている姿は、首に赤いリボンを巻いた、ただの白い子猫みたいだけれど。


「かわいいわぁ!」


 ミルさんが、猫好きだなんて、知らなかった。

 シストを愛でるミルさん。

 その時、勢いよく扉が開いた。


「リサ!」


 弾丸のように、飛び込んできた人は、確かにレナルド様だ。でも、何だろう、この違和感。


 そろりとミルさんは、起き上がり、名残惜しげにシストを一瞥すると、なぜかレナルド様に「ちゃんと伝えなさいよ?」と、言って部屋を出ていく。


「リサ……。目が覚めて、よかったです」


 ぎゅっと、レナルド様に抱きしめられる。信じられないくらい、良い香りがする。


 急に近づいた距離感。私の頬は、誰が見ても分かるくらい、紅潮しているに違いない。


 そうだ、名前。


「レナルド様? 私の名前……」

「ああ、やっとリサの名前を呼ぶことができる」

「え?」

「ずっと、こんなふうに名前を呼びたかったんです。気がつきませんでしたか?」


 気がついてない。たしかに、この世界に来てから、私の名前が呼ばれたのは、守護騎士の誓いを立ててくれた時、レナルド様に呼ばれた、ただ一回だけだった。

 その後から、三日前の事件まで、私の名前を呼ぶ存在は、シストしかいなかった。


 そういえば私、聖女では、なくなったんだ。


 今まで自然と使うことができた、魔法の大半が発動できなくなっている。治癒魔法だけは、何とか使えるみたいだけれど。


 それは、確かに聖女という称号が失われてしまったことを意味している。


「……外に集まっている人たちは」

「そんなことより、婚約して下さい」


 そんなことって、たぶんあの人たち、私が聖女じゃなくなったこととか、魔神が現れたことで、押しかけてきているんですよね?

 この場所がどこなのか分からないけれど、間違いなくレナルド様には、多大な迷惑をかけているに違いない。


「そんなことって。…………ところで、今さっき、なんて言いました?」

「リサ、俺と婚約して」


 聞き間違いではないらしい。それに、私を見つめて少し目元を赤くした、美貌の騎士様。

 吐息がかかりそうなくらい、距離が近い。


 いつもと全く違うレナルド様の様子と距離感、その言葉に、自分が置かれた状況も忘れるくらい、私の頭の中は、真っ白になるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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