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聖女召喚されましたが、中継ぎらしいです 2



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 旅に出る当日に、ようやく集まった聖女のパーティーは、なんというか個性的なメンバーで構成されていた。

 腕は確かなメンバーばかり。でも、今までそれぞれが、ソロでしか活動していなかったらしい。


「あの……。よろしくお願いします」


 剣聖、魔術師、盗賊、聖女。……そしてなぜか、守護騎士。

 これだけ見ると大変バランスの良いメンバーに見える。

 でも、寄せ集めだと揶揄されるように、なんというか……。

 やっぱりほかに言い方が見つからない。

 つまり、個性的なのだ。


 挨拶もそこそこに、鏡を見始めた魔術師。

 胸の谷間が破壊的な魅力を放つ彼女は、これでもかというほどセクシーな格好をしている。

 ミニスカートから見えるすらりとしていながら、程よく筋肉が付いた美しい脚。


「ミルというの。よろしくね、かわいい聖女様?」


 そんな会話で始まった、ミルさんとの関係。

 

 けれど、旅の間も、彼女の素顔を見たことがない。

 魔術師のミルさんは、いつも完璧にお化粧をしている。 

 戦いの最中でも、その髪の毛が乱れることすらない。


 そう、不思議に思って聞いてみたら、形状記憶の魔法を常時髪と化粧にかけているのだと言っていた。

 才能と魔力の無駄遣いのような気もしたが、大事にするものは人それぞれなのだと、納得することにした。

 やる気があるのかと、通常のパーティーならば怒られてしまいそうだけれど、ここは中継ぎ聖女のゆるいパーティーだ。誰も文句を言う人がないせいか、ミルさんはのびのび美を追求している。


 でも、やるときはやる人なのだ。


 一度、魔獣の大軍を、たった一撃の魔法で焼き尽くしたのを見たことがある。


「えっ、すごい! 魔法! 天才!」


 興奮を隠しきれずに、語彙が死んでしまった私に、ミルさんは妖艶に笑いかける。


「あまり魔力を消費すると、お肌に良くないから、人前で披露したことは、ほとんどないんだけど……。聖女様は、守ってあげたくなるのよね」


 そうして見せてくれたウインクも、破壊的な魅力だった。同性の私ですら、トゥンク……。と心臓が高鳴ってしまった。


 そして、剣聖のロイド様は、寡黙だ。どれくらい寡黙かというと、「ああ」と「いや」くらいしか、話しているのを聞いたことがない。

 つまりは、会話が成り立たない。これでは確かに、通常のパーティーにいるのは、困難かもしれない。


 そもそも、剣聖の称号がステータスに現れるのは、数十年に一人らしい。得難い人材なのだが、剣聖様も100年後の魔人襲来に出会わないから、無駄な称号と言われているのだと聞いた。


 本当に、失礼なことだと思う。

 だって、剣聖だけれどもロイド様は、誰よりも剣を愛していて、毎日の鍛錬を決して欠かしたりしないのだから。


 そんなロイドさんの、喜怒哀楽が分かるようになってきたのが、私の最近のひそかな自慢だ。


 そして最後に盗賊のビアエルさん。その身長は、私の胸くらいまでしかない。ほかの種族の血を引いているという噂だ。お酒が大好きで、いつも飲んでいるような気がするけれど、ダンジョンのトラップ解除や、宝箱の解錠、そして斥候の腕は確かなベテランだ。


「それにしても、気難しいビアエルを手懐けただけでも驚きなのに、ロイドとも意思疎通できる聖女様は、大物よねぇ」

「え? 普通ですよ」


 ミルさんが、口紅を塗り直しながら話しかけてくる。

 これだけ見ると、楽しい女子トークな気もするが、残念なことに現在は戦闘中だ。


「それにしても……。あのレナルドって騎士。強すぎない? 称号ないんでしょ?」


 剣聖のロイド様よりも、たくさんの魔獣を倒しているように見受けられるレナルド様。

 たしかに、生まれ持った称号はないものの、この世界に来てから、ステータスが見える私には、守護騎士の称号が浮かんでいるのがはっきり見えてしまっている。


 でも、守護騎士だから強いわけではないだろう。

 レナルド様が、強いだけなのだ。


「――――本当に、私の出番ないですよね」

「……心の底からそう思っているから、困るのよね」


 呟いたミルさんの言葉は、聞こえない。

 私たちのほうに近づいてきた魔獣に、ミルさんが雷魔法を放ったから、轟音で聞こえなかった。


 その直後に、レナルド様とロイド様の後ろから、魔獣が襲い掛かる。

 私はあわてて、魔法障壁を立ち上げる。


 戦場にはそぐわない、桃色の光とともに、バチンと魔獣を魔法障壁が弾いた。


「――――ほら。聖女に求められる、後衛としての役割。きちんと果たしている」

「え? たまたまですよ。ほめ過ぎです」


 全体回復魔法とか、王都を包み込む結界とか、蘇生魔法とか、ゲームの中の聖女みたいな、強力な魔法が使えない私は、聖女としては落ちこぼれだろう。

 ちらりと、遠くを見れば、いつもの千鳥足は演技だったのかなと思えるくらい俊敏に、ビアエルさんが敵をまた一体倒していた。


「……回復魔法を使える人間ってだけでも、希少なのに。無尽蔵な魔力に、解毒魔法、魔法障壁まで……。それに、聖女様が初めて戦いに参加した時の強大な魔法陣。その価値に周りが全く気が付かないなんて、守護騎士の影響力が恐ろしいわ」


 ――――なぜなのかしら。ミルさんをはじめ、パーティーの皆さんの私への評価が、異様に高いのは。


 ちらり見つめる先、戦い続ける守護騎士レナルド様が、最後の魔獣を倒したようだ。

 こちらに手を振るレナルド様は、珍しく笑顔だ。


 守護騎士様は本当に頼りになるなと感心しつつ、私たちは魔獣から魔核を取り出す作業へと入るのだった。



最後までご覧いただきありがとうございます。


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