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聖女の告白と戦い 3



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 ミルは茫然と空から地表を見下ろす。

 敵が、多すぎる。

 ミルを倒さなければ、魔法がやまないと気が付いたのか、地上の魔獣でも遠距離攻撃を得意とする者は、空に向けて攻撃を始めた。


「息つく暇もないとは、こういうことね」


 思ったよりも、早く限界が訪れてしまいそうな予感。

 その時、ミルの後頭部を色鮮やかな鳥の魔獣の突撃が掠め、クラリと脳震盪のように意識が一瞬失われる。

 とたんに落下していくのを感じながらも、魔法の発動が出来ない。


 ――――終わった。


 あまりにもあっけない最後。今までの努力は、何の意味もなさなかった。

 周りのご令嬢たちが、ドレスに、化粧にと華やかに楽しそうにしている中、魔術の深淵だけを見つめてきたのに。

 今まで、武装代わりにまとっていたドレスも、化粧もそぎ落としたのに。届かなかった。


「ミル!」


 ドサリ。軽い感触で、地面にぶつかることなく抱き留められた。

 クラクラする意識を無理に浮上させ、目を開ければ、目の前には、ほっとした表情でほほ笑む剣聖。


 攻撃の手を緩める余裕なんてないはずだ。

 幾多の傷が、それを証明している。

 そして、魔獣の一斉攻撃が迫っていた。


「――――馬鹿ね。もう少しは、長生きできたのに」

「ミルと、一緒がいい」

「ほんとバカ」


 確かにそこにある体温。こんな終わり方も悪くないかもしれない。

 魔術ばかり求めて、近くにいた幸せに目を向けようとしなかった報い。

 それでも……。


 ――――ギャンッ!


 その時、魔獣たちがミルとロイドから距離をとる。


「――――お前たち」


 そこには、銀狼の群れがいた。

 魔獣であるはずの銀狼の群れは、ミルとロイドの周囲を守るように取り囲んでいる。


「――――え? 銀狼って、確か」

「家族」

「そ……。そうよね?」


 二人の終わりには、ほんの少し猶予があるようだ。

 だが、ミルが対空戦から離脱したことで、王都には空からの攻撃が降り注ぐ。

 冒険者たちに、誘導された住民たちは、地下へと逃れていた。

 だが、終わりが近いことを誰もが予想していたのだった。


 そんな中、王宮から逃れる一団。それは、集中砲火を受け始めた王宮と王都から、逃れようとする王侯貴族と一部の高位貴族だった。

 一部の騎士達は、王族から離反し、すでに王都周辺の戦いに身を投じている。

 王族を見限ったのだろう彼らは、守護騎士レナルドと聖女が王都に戻ってきたという情報を得て、正門へと向かっていた。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「思ったよりも、戦っている人が多いです」

「――――自分で守ろうともしない者に、用はないですから」

「……これも、レナルド様が?」

「騎士団長とは、同期です。王族に従うことを望まない人間は多い。聖女様を旗印にすれば、あっという間に半数が離反しました」


 たしかに、私の扱いはひどかった。

 それでも、聖女として最前線に立ち、慈善事業に力を入れる中で、貴族や騎士たちの中にも、真っすぐに前を向き、人のために戦う心を持つ人たちがいることを知った。


 だから、私は戦い続けることを選んだの。


「――――とりあえず、王都全体に結界を張ります」

「無理はなさらずに」

「いいえ……。なぜか、力がみなぎっているの。できる」


 桃色の光が、今はもう王族のいない王都全体を包み込んだ。

 私は、すでに王族が王都の外に出ていることなど知る由もない。

 ただ、出会った人たちの笑顔を守りたい。

 そして、レナルド様と、その場所でほほ笑んで……。


 そこで浮かぶのは、幸せそうに笑うレナルド様。

 なぜ、レナルド様が自分のことを許せないのか、まだ聞いていないけれど……。


 どうか、幸せになって。


 桃色の魔力が、王都に降り注ぐ。

 そこに魔獣が侵入することはできない。

 空に浮かぶのは、聖女の魔法陣。


「うわぁ。ずいぶん大きいわ」

「さすがです。――――聖女様」


 私のことを褒めながら、あっという間に魔獣を倒していくレナルド様。

 シストは、『あと150匹』とつぶやいていた。

 この調子なら、すぐにその数に到達するだろう。


「――――シスト、ナオさん」

「聖女様? 俺の前で、ほかの男の名を呼んではいけません」

「心……狭いです」


 シストは聖獣様だ。男性ではない。

 あれ? でも、初代聖女を愛しているみたいな言い方をしていたような?

 聖獣様と初代聖女様の恋物語? ときめく。


「俺の心の機微全ては、聖女様限定ですから」


 ラベンダー色の瞳が細められ、私のことを見つめた。

 レナルド様の動きも、どんどん良くなっているみたいだ。

 シストが言っていた言葉や、守護騎士をやめてしまったことと関係があるのだろうか。


 ほどなく合流を果たした、赤い髪と瞳のロイド様と、紫の髪をいつになく振り乱した、服が破れ、いつも以上になぜか色っぽいミルさんと合流を果たすのは、この直ぐ後のことなのだった。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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