表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/33

予知夢、そして執着 1



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 私が、のんびりと辺境の村で生活している頃、聖女の仲間たちは、レナルド様の屋敷に集まっていた。


「まさか、魔人がな……。少々早いな」


 盗賊のビアエルさんが、つぶやく。

 その手には、今日もエールの入ったジョッキが握られている。


「良く無事だった」


 珍しいことに、剣聖ロイド様も、彼にしては長めの言葉を発した。


「それで、レナルドは、これからどうする気なの? 聖女様の力は、その名と共に、失われてしまったのでしょう?」

「リサは、何があっても守ります。だが、歴史上、魔人が目撃された直後には、魔獣のスタンピードが起こっている。……今回も起こるでしょうね?」

「聖女様の力なしに、戦う気なの」


 ミルさんが、眉をひそめる。

 それは、たぶんレナルド様の覚悟を汲み取ってしまったからだ。


 聖女は、ただの象徴ではない。

 魔人が現れると、聖女の力は強くなる。

 その力で、人類は、魔人や魔獣との戦いに辛うじて勝利してきたのだ。


 そして、その戦いの中、最前線で戦った聖女は、そのほとんどが命を落とした。そして、聖女を守る存在である、守護騎士も。


 私の知識は、王族が用意してくれた講師や資料が元になっている。あとは、仲間や守護騎士であるレナルド様が教えてくれたものだ。


 けれど、誰一人として、そのことを私に教えてはくれなかった。


 象徴でしかない聖女が、恐れて逃げると困るから、王家は私に伝えなかったのだろう。

 そしてレナルド様や仲間たちが、中継ぎではない聖女が、ほとんど生き残れなかったなんて残酷なこと、私に言えるはずもない。


「……リサを聖女にはしない。聖女である限り、彼女は、王国の民を守るために戦うでしょうから。王家に利用されていると、分かっていても。そんなこと、俺は許さない」

「……それは事実だけれど。あなたの場合は、それだけじゃないでしょう? レナルドは、ずっと、聖女の称号を消す方法を探していたものね」

「…………スタンピードは、俺が処理します。リサを守ってくれませんか?」


 レナルド様が、テーブルを囲む仲間たちに目を向ける。複雑な表情のまま頷く、私の大事な仲間たち。


「でも、あなたも大事な仲間だわ。レナルド」


 部屋を出る時、ミルさんがつぶやいた言葉。

 たぶんそれは、レナルド様には届かなかった。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



『おはよう、お寝坊さんだね。理沙は』

「……おはよう。シスト」


 目覚めると、私の頬を白い子猫が舐めていた。ザリザリとした感触が、少し痛い。


『夢を見た?』

「うん、仲間たちの夢」


 詳細は思い出せない。夢なのだから、仕方ない。

 でも、今回の夢は、聖女の称号を失う前には、良く見ていた予知夢に近い。


 過去だったり、未来だったりするけれど、それは私に何かを知らせてくれていた。


「レナルド様が、また無茶なことをしようとしている気がする」

『理沙が夢を見てそう思うなら、事実だろうね』

「もう、聖女じゃなくなったのに? そういえば、聖女じゃない私に、なんでシストはついてきているの?」


 聖女が描かれる時、左肩の上には必ず、封印の箱が浮かんでいる。……初代聖女を除いて。


『さあ、それは理沙が自分で考えて?』


 そう言われて、改めてシストのことを考える。


 魔人が現れたことを黙っていた。

 封印の箱のはずが猫の姿になってしまった。

 私が王都から逃げるのを手伝ってくれた。


「……シストは、敵じゃないよね?」

『そうだね。少なくとも、僕は理沙の敵じゃない』

「じゃあ、誰の敵?」

『……聖女の敵の敵』


 禅問答みたいな、シストの言葉。

 でも、あとから考えれば、それが答えだったというのは、良くあることだ。


 それ以上は、答えるつもりがないとでも言うように、シストは、ゴロリと寝そべる。


 だから私は、先ほどの夢に思いを馳せる。

 夢の中のレナルド様の声も瞳も、冷たく硬質で、私といる時とは違っていた気がした。


 

最後まで読んで頂きありがとうございます。


下の☆をポチッと押して、評価いただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ