評価型社会(ディストピア本丸)
お、ラッキー。今時缶をポイ捨てする奴が居るとは。俺はポイ捨てされていた空き缶に向かって走る。路地を清掃している連中に見つかる前に何としても拾わないといけない。缶を拾おうとした瞬間、家の前清掃している奴らに気づかれ、
「ゴミ拾いありがとうございます。ですが、私が拾って処分しておくので大丈夫ですよぉ。」
「ありがとうございます。でしたらお渡ししますので処分の方をお願いします。」
俺は笑顔で空き缶を渡しつつ、内心で舌打ちする。協調性も見られているから、ここで下手に手柄を取ろうとすると逆に"評価"が下がりかねない。向こうもそれは同じだろうから痛み分けと言った所か。向こうも向こうで家庭のことがかかっているからしょうがないと自分を納得させ空き缶を渡しその場を立ち去った。
見慣れた老人をおぶった人に見慣れた金持ちが孤児に募金したという報道を片目に歩く。本当にこの世界は"正しい世界"だな。街中の至る所に監視カメラが設置され、AIの判定で良いことをすれば”評価”が上がり、悪いことをすれば”評価”が下がる。その評価が税金の課税率や行政サービスの有無、クレジットの上限枠、民間企業のサービス、就職まで決まる。
だからもちろんみんな良いことをするしよっぽどのことがない限り悪いことはしたがらない。この制度が出来てから刑事犯罪は90%減ったらしい。むしろ100倍近く犯罪があったことの方が恐ろしいな。評価制度万歳!
「おはよう、良樹くん」
「おはよう、良奈さん」
取り止めのないことを考えていたらもう学校の近くまで来てたらしい。みんなが元気に挨拶をしている声が聞こえてくる。中学校では挨拶をしない変な人が居たけど、やはり高校では選抜が済んでいるのでそんなことはないな。学力5割、評価5割の選抜があるので挨拶すらできない人はそもそも話にならないからな。
自主的に窓を拭いている人に感心しながら教室に入室する。早めに来たらやりたいが、その為に早く来ようとかそこまでは思えない。隣の人への挨拶を済ませてから着席し、1限目の授業がわかるようにサッと万能教科書を取り出し目を通しておく。まあ、本当はこうしておくと評価が上がるという噂があるからなんだけどな。大多数の人が万能教科書を開いているのはそういうことだ。
教師が出席簿を抱え、背筋を綺麗に伸ばして教室に入ってくる。おはようございますと完璧な笑顔で言うとホームルームが始まった。仕事の給料査定ももちろん評価も参照されるためこのように”理想的な教師”からホームルームや授業が受けられる。画一的にいい教師からの指導が受けられるので非常にいい制度だと思う。
普通ではホームルームも終わりそうと言う頃に先生が笑顔で言う。
「転校生がクラスにやって来ました!」
空気を察して皆が皆お〜〜と拍手をして盛り上がる。
入って来てくださいと言われて入ってきたのは、女の子だった、金髪の。ハーフとかだったらわかるが普通に日本人に見える金髪だ。確かに下の高校のように校則が存在しない以上金髪であってもおかしくはない。髪を染める行為が悪い行為か、非行かと言うのは揉めている部分ではあるから評価が下がらないかもしれない。だが、下がるかもしれない行為をするのが俺には信じられなかった。
「華山 秋風。よろしく」
更に追い打ちをかけるようにぶっきらぼうに言った華山さんにクラス全員が騒然とした。クラスの人の全員が無難に自己紹介が終わり拍手をして迎え、休み時間になったら積極的に話しかけに行き昼休みには一緒に弁当を食べて放課後には学校を紹介してあげる。そんな算段をしていたからだ。特に隣である僕は授業の進行を教えてあげたりしないといけない。
絶望だ。非行に走る人は正さないと評価に関わってくる。関わる全員が全員その責を負うことは間違いないが、関わりが深いものほど責任が高くなってくる。このクラスで言えば先生、クラス委員、隣の俺の責任が高い。先生は特に動揺することもせず予想通り空いている席の俺の隣を進める。先生だからやはりこういったイレギュラーな事態も慣れているのだろう。俺が何かするまでもないかもしれない。少し冷静さを取り戻した俺はテンプレート通りよろしくと頼ってもいい旨を言うと無事無視されホームルームは終わった。