閑話2 勇者よーー英雄よーー仲間を集め世界を救え
これは僕の全ての始まりの物語だ。
まだ小学1年生だか、2年生だか、夕方、祖母のお見舞いに行こうとしていた途中、突然長身細身の男と小柄な2人の不良たちに目をつけられてしまった僕は、路地裏に連れ込まれてしまった。
「オラオラァ、さっさとその金を渡せば楽になるぜ?」
「アニキの言う通りでヤンス! そんな大金、子供が持つよりよっぽど有効活用してやるから早く渡すでヤンス!」
おおよそ、アニキと呼ばれる長身の男とヤンスが口調な小太りな男は僕が持っていたお使いに使うお金に目をつけたのだろう。
「うっ、こ、このおおかねは…ばぁちゃんの…おみまいに……つかうものなんだ! おまえらなんかには渡さない!」
必死の抵抗は無意味だった。
「そんな事言って無いでさっさと渡せ!」
無力で幼かった頃の僕は不良に首を絞められ、絶体絶命のピンチに陥ったのだから。
でもーー。
「うっ、」
「ァ、アニキ! 流石にそれはまずいでヤン…ブゴフォ!?」
「っ! 何もんだオメェ!」
そんな恐ろしい不良たちも、一人の少年には敵わなかった。
「ぼく? ぼくはうみやはると、家出中の『むまりゅうつかい』、だよ。こうゆーのなんていったっけ……えーっと、そう! せーぎのみかただよ! そのこをはなせ!」
「正義の、味方……!」
彼の言葉は、彼の行動は僕の記憶に深く刻まれる。
これが僕と晴兎くんとの出会いだった。
「ハッ!何だか知らねぇが関係ねぇ、所詮はガキだ。行くぞ!」
「ヤンス!」
連携して攻撃する不良たちもーー。
年齢的な体格差もーー。
全てを薙ぎ払う強さだった。
「…………むまりゅうおうぎ、はてんくうざんげき!」
ヒーローのように、空を飛ぶように、高く飛び上がった晴兎くんは手を剣のようにして不良たちを薙ぎ払った。
「きみは……?」
「ぼく?ぼくはうみやはると、家出中の『無魔流使い』、だよ。こうゆーのなんていったっけ……そう! せーぎのみかってやつ!」
「せいぎのみかた…ぼくもなりたいなぁ……」
僕は彼に救われた。
彼みたいになりたいと思った。
彼のかっこよさに、彼の正義に憧れた。
だから僕は、自分なりに強くなろうって決意したんだ。
______________________________________________
中学生になって晴兎くんと再会した。
晴兎くんは僕のことを覚えてないみたいだけど、それでも僕は僕なりに力をつけた。
つけ続けた。
剣道部に入って中学男子の全国だってした。
再開したからには、今度は僕が守る。
そう決意した……はずだったのだ。
ある日、僕らは蒼色に輝く魔法陣によって異世界へと召喚されることとなった。
蒼色に輝く魔法陣の前では部活の竹刀で窓をいくら叩いても、必死にドアを開けようとしようとも、逃れることのできない。
だだ、無力だった。
あの日と変わらない無力だった。
その後、神殿に召喚された僕らは、召喚先のお偉いさんの説明によってここが異世界だと分かった。
そして幸運なことに僕は新たな力を手に入れた。
だからこのチャンスを逃したくなかった。
だけど……。
「フフフ、随分な量の魔力じゃない。アタシが遊んであげる。」
突如現れた魔族、魔神エレイナになすすべもなかった。
「勇者様! この果実を食べ超必殺を使えばなんとかなるかも知れません…!」
虹色に輝く果実を口にし、僕は最後の希望とも言える超必殺を放った。
「〈超必殺〉っ!“最終最強覇道斬”!」
聖剣が眩しい輝きを放ち10メートル程の巨大な剣となった。
そしてその巨大な聖剣は光の鎖で魔神エレイナを拘束し、目視出来るスピードでこれ以上無いくらいのスピードで魔神エレイナに倒れる。
これで助かる…!
「こんな程度の攻撃、万全の私にかかればどうってこともないわ」
簡単に希望は打ち砕かれ、目の前でクラスメイトが虐殺されていく…!
「卓也! 綺羅っ! 晴兎くん!」
最後に目の前で晴兎くんが殺される。
そして僕もあっけなく殺されたのだった。
______________________________________________
「っ…! …? 傷がない? 夢……、だったのか?」
ある日突然異世界に召喚されて魔神に殺され、みんなが死ぬ。
あの光景は本当に夢だったのか…?
小声でステータスオープンと唱えてみる。
「夢じゃない…!?」
目の前ではっきりと現れるステータス。
夢じゃないと言わんばかりに超必殺まで記されている。
「時間が戻ったのか?」
安堵したのも束の間、しばらくしてホームルームが終わると魔法陣が展開される。
「(まずい…! また召喚される!)来い! 〈聖剣召喚〉!」
聖属性魔法を使いつつ、聖剣で魔法陣へ薙ぎ払うも無駄に終わってしまった。
そして……。
「少しは骨があると思ったけど、残念ね」
殺されてはループしてレベル上げ、ループしてはレベル上げが始まった。
レベルは50を超え、ようやく僕は勝利にありつくことができた。
翌日、晴兎くんは神殿から追放された。
話を聞くと「勇者様が身を張っている間、何もしなかった無能だから」らしい。
納得いかないが、無事らしいのでひとまず安堵した。
それが間違いだった。
「久しぶりだね星也。悪いけどここで倒させてもらうよ。」
「僕は君とは戦いたくない……! だけど君は、止めても無駄なんだろ?」
「そうだ。超必殺〈肯定する空想〉作成…〈対勇者の剣〉」
「なんだ…その剣は!?」
禍々しい嫌な予感がする剣。最初から決着をつける!
「来い聖剣! 〈超必殺〉っ!“最終最強覇道斬”!」
「〈否定する空想〉」
その瞬間、晴兎くんを拘束する鎖と巨大な聖剣は消失し……。
「そんな馬鹿な!?僕の超必殺が無効にされた!?」
「勝負はついたよね。さよなら」
「晴兎くん……どう、して……」
そして僕は殺された。
______________________________________________
・
・
・
ループ。
ループ。
ループ。
もう数すらわからない時間が再び戻った俺。
もはや幾星霜のループを繰り返した。
魔神エレイナを撃破し、晴兎くんを勝たせ、魔王ルシファーを撃破し、「クロスオーバー計画」とやらで強くなった女神エターナルを撃破し、魔王になってしまった晴兎くんを倒して、天界を壊滅させ、多くの神々を撃破し……。
ついに俺は収束の彼方へと辿り着いた。
収束の彼方、それは真っ白な世界が永遠に続く何も無い世界だった。
『ほう……廻帰の大英雄か。面白いな。』
「っ!? 何者だ!」
突如脳内に聞こえる声。
姿は見えず、変わらず真っ白な世界だけが目に映る。
『人はわたしを収束の彼方と呼ぶ。そしてここは全ての世界線の終着点。ソナタの廻帰にも、もう先はないだろう。』
収束の彼方とは意思を持つ世界なのか!?
いや、それより俺のループのことを知っているのか!?
そしてもう先は無い?
最後のループと言うことなのか?
他にもいくつもの疑問が俺の中に浮かび上がる。
『廻帰の大英雄、ソナタはこれからあらゆる運命が収束される終着点の世界へと行くことになるだろう。その前にいくつか手助けをさせてもらおう。わたしももう長くはないのでな。』
全くわからない。
意味も、手助けと言う意図も。
『わからなくてもよい……が、いくつかの質問は許そう。』
いくつかの質問。これは俺に与えられたチャンスなのかもしれない。いくつ質問できるかわからないがこれだけは聞いておきたい。
「どうして俺はループをしているんだ? そしてなぜそれを知っている?」
『廻帰の大英雄たる由縁でもあるループ。それはソナタの勇者たる素質の突然変異でもある。今、世界は"バグ"の脅威に晒されている。ソナタの勇者的素質にバグが起こり、『引き継いでコンテニュー』と言う状態が起こっていた。これがループの仕組みだ。そしてわたしは全ての世界の終着点。あらゆる世界の行き着く先でもあるのだから知って当然でもある。』
俺がバグっている? 本来ならありえないと言うことか?
とにかくだが、なんとなくはわかった。
『さて、廻帰の大英雄。今のソナタは本来の"霧乃 星也"とはもはや別の存在として確立している。そのまま終着点へいくのは危険だ。ループの夜明け、そして最後の一投と言う意味で"朝葉 アタル"と言う名を与えよう。存在の補強にもなる。ステータス反映もされているはずだ。』
またかなりの情報量を叩き込まれる。
「そこまでしないといけない終着点とやらはなんなんだ?」
『その質問には少し背景を説明する必要があるだろうな。まず前提として終着点はあらゆる世界の行き止まり。そしてあらゆる世界の情報を収集し、多くの世界を生み出す"原初の世界"と連携することであらゆる次元の世界の均衡を保ってきた。』
『だが、原初の魔王誕生をきっかけに世界には不具合と言う名のバグが発生。原初の世界の神は10種類の〈主人公〉を集め、『主人公』すらも凌駕する『グランドマスター』へと至り、あらゆる次元の世界を白紙化させるつもりだ。』
『おそらく君一人……いや君の数人分でも歯が立たないだろう。そこでだ。終着点は他の世界と違って他の世界の同一人物だったり、君のようにあらゆる次元で一人しか存在できない対象もまとめて全員存在ができる。ある程度情報をわかるように、ソナタの聖剣にアクセス権限をできる限り与えておこう。』
急に壮大な話になった。
だけど、世界がリセットとやらで白紙化すれば俺もどうなるかわかったものではない。
俺がやるしかないのか。
『勇者よーー英雄よーー仲間を集め世界を救え』
決意を固め、聞こえた音を最後に俺の意識は遠のいた。
・
・
・
そして、最後のループが始まった。
「やあおはよう、晴兎くん」
「あー、おはよう霧乃くん」
ガキ大将に絡まれる晴兎くん、そして毎回啓成先生のホームルーム終わりに魔法陣が展開される。
「おぉ……!」
ここは……神殿ではない!?
召喚先まで違うと言うのか?
俺は急いで周囲を見回す。
いつも通りのクラスメイト、そして一人見慣れない女。
怪しい。
そして今までと違う点はいくつもある。
これが世界の収束なのか?
だが……! 俺のため、そしてあのとき無魔流使いの晴兎くんに助けられた晴兎くんのためにも……!
なんとしてでも俺は世界を救ってみせる……!
______________________________________________
少しでも興味を持っていただたら広告下の☆☆☆☆☆の評価やブックマークを押したり、感想などで応援していただると大変嬉しいです!




