雪の小噺
雪が降る。
そんな予報を無視した私は、一人交差点で雪に降られていた。
まつ毛に、頬に、雪が貼り付いて冷たい。
肩を震わせて寒さに酔う。
はぁ、と息を吐くと真っ白い。
君は元気にしているだろうか。
冬が嫌いだから、外にも出たくなくて学校すら休むような君は。
真っ白い肌をして、それでも存外健康そうな君は元気だろうか。
頭を振って、青に変わった信号に従う。
スマホを握っていた手がひどく冷たい。
コートのポケットにスマホをしまって、手を握ったり開いたりを繰り返す。
道路を渡りきって、自分の家に帰らんと少しだけ急ぐ。
ふっと緩んだ歩幅。
あの日の君が浮かんだ。
寒い冬の日。
帰り道、一人で歩く私のかじかんだ指を後ろから絡めとって満足げに笑う君。
一重の目がきゅうっと撓って、ふへへと笑う君。
驚いた私の肩が跳ねたのを、面白いと言う君。
飽きないなぁ、その反応。なんて言った君が、私を振った。
あの子がもっと君を楽しませてくれるから。
私なんかよりも新鮮な反応で、素直で、よく笑うから。
悔しかったんだよ。
これでも、沢山泣いたの。
あんなでも、ちゃんと君を好いていたの。
しばらく学校を早退してしまうほどには好きだったの。
あの日、一重の目が細められて私を睨めつけた。
私の近くにいたあの子が怪我をしたから。
私じゃないって、信じてくれたのは君以外のみんな。
それでも心が救われなかったのは、未練がましく君が私の中にいたせいだ。
だけど、あの子が私を嫌った日。
君は私を見つめて泣きそうな顔をした。
あの子が私を貶すたび、君の顔が歪んでいった。
それは、全部君が好いてくれていた私だったから。
そんな言葉に頷いて肯定する私に、君が怒った。
あの子を傷つけてまで、私に怒るなんて馬鹿じゃないの。
背を向けて去っていくあの子、追いかけてって書いてあるのに。
君は私の手を掴んだ。
振り解けば、また摑まる。
訳が分からなくなって、混乱する。
頭の中がぐちゃぐちゃで、君の顔すら見えない。
滲む視界の中で、なんなのと叫んだ。
君は何も言わないで、ぐっと腕を引いた。
抱き寄せられた私は、堰を切ったように泣いた。
君があの子と付き合っていないこと。
あの子が私を嫌っていて、君を狙っていたこと。
君は私を守るために犠牲になろうとしてくれたこと。
バカだ。
君も私も、盲目的に恋に落ちたせいで
学校では卒業までいじられる羽目になった。
先生にも、クラスメイトにも、後輩にも。
明日、やっと君が帰ってくる。
長い留学期間を終えて、夏の国から。
きっと嫌そうな顔をするだろう。
こっちは冬で、君の嫌いな季節だから。
ここから膨らむ話があれば書いていきたいですね…