アイドルになるまで
「みんな今日はありがとう!!盛り上がっていこうねー」
ステージでアイドルが叫んでいた。そのアイドルは活動開始から5年目でメジャーデビューし、初ライブだ。アイドルに興味がないオレがライブを観に来たのには、理由がある…
6年前の夏…
高校2年の夏休みに、友達の竜馬と高校の後輩の直也、そして幼馴染みで先輩である楓と後輩の燐の5人で東京に遊びに来ていた。
「東京暑いっすね。まだ歩くんですか。」
と田舎の後輩感が強い言葉で、直也が文句を言い出した。
「体力なさすぎでしょ‼︎黙って歩きなさい‼︎」
と理不尽に楓に怒られていた。可哀想に…直也が文句を言いたくなるのもわかる。なぜなら、楓と燐に付き合わされ意味もなく原宿の竹下通りを歩かされているのだから、文句の1つも言いたくなる。
「直也、そこでコーヒーでも飲んで休むか?」
「いいっすね。真さんも行きますか?」
オレは少し考えて返事をした。
「そうだな、行くか。」
楓と燐を置いて、オレ達はコーヒーを飲みにカフェに入った。そして、30分経つと2人が急いだ様子で店に入ってきた。その勢いで楓が
「燐ちゃんがスカウトされた。」
と店内で大声で叫び出した。オレは呆気にとられ、一瞬言葉が出なかったが、我に返ると言葉を発した。
「何の?」
「アイドルよ、アイドル。凄いと思わない?」
「AKB?」
「AKBじゃなくて、新しいアイドルなんだって。」
話がよくわからずオレは楓を落ち着かせて、詳しく話を聞いた。
聞いた話をまとめると、オレ達がカフェに入ってすぐに2人は男の人に声をかけられたらしい。その人は新しいアイドルメンバーのスカウトをしている人らしく、原宿でアイドルでやっていけそうな人を探していたみたいだ。そしたら、燐が目に留まり声をかけた、ということらしい。
楓が一通り説明し終わると、直也が
「それってちゃんとしたスカウトマンなんですか?変な人じゃなくて。」
アホな直也にしてはまともな疑問だ。
「ちゃんと名刺を貰って、書いてある事務所を調べたけど、芸能プロダクションの会社よ。」
「じゃあ凄いじゃないですか。燐ちゃん可愛いっすからね」
「そう思うよね!!燐ちゃん学校でもモテるけど、まさか東京でも可愛いって認識だとわね。」
本人を差し置いて、2人は燐の可愛さで盛り上がっている。たしかに燐は学校でモテている。学校のみんな曰く、可愛いのもちろん、社交的で誰にでも明るく接するのがモテる理由らしい。だけど、アイドルになれるほどなのかと考えていると
「私、アイドルやってみたい」
と今まで口を閉じていた燐が一言小さく呟いた。本人はみんなに聞こえていないと思ったらしいが、みんな聞こえていた。
「やりなよ、燐ちゃん」
「燐ちゃんならすぐ人気になりますって」
と楓と直也が後押しするように騒ぎ始めた。オレは竜馬と目を合わせた。たぶん思ってることは同じだが、お互い言葉にはしなかった。
そして、幼馴染みがアイドルにならないかというスカウトをされるという珍しい体験をした以外、特別面白味のない夏休みを過ごし、夏休みが終わり高校の2学期が始まろうとしていた。