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Cafe Shelly

Cafe Shelly 目指せ!大物

作者: 日向ひなた

 年収一億円! フェラーリで優雅にドライブ 別荘地で優雅な生活

 他にも、とてつもなく大きな言葉と、それをイメージさせる写真が貼ってあるコルクボードを眺めている。これはある本で読んだ、成功を実現させる方法だ。しかし今のオレはとある電機部品メーカーの一作業員でしかない。週ごとに日勤と夜勤を繰り返す毎日。そこに貼ってあることに向けて、何一つ実現に近づいているものはない。

 だがあきらめてはいない。いつかはこうなってやる! その意欲だけは心の中で燃えている。そうしてまた本棚に手を伸ばす。今日はジョセフ・マーフィーの成功のための本を眺める。この本はもう何度も目を通した。潜在意識にイメージを落とし込めばそれが実現するという内容だ。オレはそれを繰り返し繰り返し実行中。

 しかし現実は厳しい。こういったことを始めてからもう三年以上経つが、状況は一向によくならない。いや、むしろさらに厳しい状況に追いやられている。残業カットのおかげで懐も正直厳しい。アフィリエイトなどのインターネットでの副業をいくつもやっているが、こちらも泣かず飛ばず。時間と費用だけが飛んでいく状況だ。

 しかしあきらめない。でも厳しい。その思いの繰り返し。

 ピンポーン

 そんなオレの部屋に、突然来訪者が。

「はいはい、どなたですか?」

「オレだよ、オレ」

 なんだかオレオレ詐欺みたいなやりとりだが。その声で誰だかすぐにわかった。悪友の悠人だ。ヤツとは高校時代からのつきあいで、学校を出てから就職のためにここに引っ越してきたのだが、何の因果かやつの就職先もこの近く。おかげで未だにつるんでいる。

「竜太郎、今日セミナーがある日だろう。そろそろ行くぞ」

 セミナー、といっても悠人が加盟しているネットワークビジネスの勉強会のこと。栄養補助食品とやらを売っていて、その健康セミナーなのだ。どこぞの先生が来て、一般客に健康の大切さを伝える。そして後半はネットワークビジネスの担当者が自分のところの商品について伝え、さらにシステムの説明。そしてその後勧誘が始まる。

 実はオレは悠人からその手で勧誘され、一応メンバーに入っている。入った頃は年収八桁を稼ぐアップの魅力にとりつかれ、オレも率先して活動したものだ。けれど副業でそれだけの年収を得るなんてとても無理。気がつけば日常に埋没され、今ではたまにこうやって悠人からの誘いでセミナーに顔を出すだけになってしまった。やはりこれが現実だ。

「やっぱ赤城さん、すげぇよなぁ」

 悠人は目をぎらぎらさせて興奮していた。セミナー会場では私たちのネットワークのトップである赤城さんが雄弁を奮っている。彼はこれで大成功をおさめた人だ。年齢もまだ四十才になったばかりじゃないかな。年収もすごいが、その生活ぶりも見事。海に面した温泉地に別荘を持っているし、クルーザーも所有しているという。そこでよくパーティーを開いているらしいし。ふだんはこうやって全国各地で開かれるセミナーで講演をしてまわっているという。だからといって雲の上の人ではない。とても気軽に声をかけてくれ、リーダーとしての人望も厚い。

「一度別荘に遊びに来なよ」

と言ってくれたのはいいが、そこまで遊びに行くお金もないのが現実だ。聞いた話では、赤城さんは元はオレと同じように工場で働いていた作業員らしい。それがわずか三年くらいで年収を八桁にもってきたというのだから。赤城さんに会うと、またがんばろうという気持ちになれるから不思議だ。

「竜太郎くんだったよな、ぜひがんばってくれよ」

「はい、がんばります!」

 いつもこのときは興奮状態。やれそうな気になってくる。

「よぉし、オレはあの世界の人間になるんだ!」

 セミナーのおかげでまた気持ちが高まってきた。

「悠人、赤城さんみたいになろうな。いつかはフェラーリに別荘、絶対に手に入れてやるぞ!」

 帰り道、オレは拳を握りしめて力強くそう言った。

「それはいいけどよ、おまえ一人くらいは勧誘してくれよな。それに商品の購入も滞ってるじゃねぇかよ」

 悠人の言う通りなのだが。こちらもふところ事情や人付き合いの事情がある。そういう悠人も、新規開拓は進んでいないようなのだが。

 そうやって歩いていると、悠人がふと足を止めた。

「そうだ、ちょっと行ってみたいところがあるんだけど」

「え、どこにだよ?」

「オレの友達がおもしろい店があるから一度行ってみるといいって教えてくれたんだ。確かこの辺だったと思ったんだけど」

「なんていう店なんだ?」

「喫茶店なんだけどね。なんて名前だったっけなぁ。シェリーとかシュリーとかいってたっけな。確かあの通り沿いだって聞いたけど」

 悠人が指差した先に細い路地がある。悠人は足早にそちらの方向へと移動していった。オレも悠人に続いていく。指差した角を曲がったとき、オレはびっくりした。

「へぇ、こんな通りがあるんだ」

 目に入ったのはパステル色豊かな光景だった。

「えっと、どこだよ…」

 悠人はその喫茶店を探しているが、オレは別のものに目を惹かれていた。向こうからとてもかわいい女の子が歩いてきている。髪が長く、色白で清楚な感じ。このパステル色豊かな通りにとても似合う。カメラを持っていたらつい撮影したくなる光景だ。その女の子がビルの二階へと足早に消えていった。オレはおもわずそこへ駆けだしていった。

「お、おい、竜太郎、どこに行くんだよ!」

 悠人の声を無視してオレは女の子が消えた地点へと向かった。そこには二階のお店へと続く階段がある。

「なんだよ、竜太郎、突然走り出して」

「あ、いや、ちょっと。あれ、ここ、おまえが探していた喫茶店じゃないのか?」

 ふと見ると階段の下にメニューが書いてある黒板の看板。そこには「CafeShelly」と書かれてある。

「カフェ・シェリーか」

「あ、間違いない、ここだここだ」

 悠人が探していた喫茶店にさっき見た女の子が消えていった。ここでオレは運命を感じた。これはきっといいことが待っているに違いない。そのいいことを、オレは勝手にその女の子との関係にしてしまってはいるが。

「じゃぁ行ってみるか」

 オレたち二人はその喫茶店へと足を踏み入れた。

カラン、コロン、カラン

 ドアを開けると、心地よいカウベルの音。

「いらっしゃいませ」

 そして低く渋い声で私たちを出迎えてくれるマスターと思われる人物の声。

「空いているお席へどうぞ」

 窓際の席はカップルが座っている。四人掛けカウンター席は男性が一人、本を開いている。さっき見たかわいい女の子の姿は見あたらない。オレと悠人はあいている丸テーブルの席へと腰を下ろした。

「おい、竜太郎、何キョロキョロしてんだよ?」

「あ、いや、なんでもない」

 そう言いつつも、目はあの女の子を探していた。おかしいな、何かの見間違いかな? でもここにつながる階段を上っていったのは間違いない。階段はこの店で行き止まりになっているし。

 思えばいつもそうだ。これはいける、そう思ったものは必ずどこかで行き詰まる。携帯インターネットの副業もそうだし、悠人から誘われたネットワークビジネスもそうだ。そもそもオレは何で成功したいのだろう。とにかく大物になってお金を稼いで、裕福な暮らしをしたい。それを夢見てはいるが、何かに情熱を傾けるような思いを感じたことがない。今もちらっと見た女の子に一瞬の情熱を傾けたが、姿が見えないとなるとあきらめに入ってしまった。

「おい、竜太郎、なんか元気ないぞ」

 悠人はそんなオレを見て何かを感じたようだ。

「いらっしゃいませ、ご注文が決まりましたら声をかけてくださいね」

 肩を落として下を向いているところに、お冷やが運ばれてきた。ふとその声の方を見ると…

「あっ!」

 オレは思わず声を出してしまった。そう、目の前にいるのはあの女の子。

「え、何か?」

「いえ、なんでもありません」

 なんと、あの女の子はここのウェイトレスだったのか。どうやらさっき姿が見えなかったのは、外から帰ってきて裏でエプロンをつけていたからのようだ。

「そうそう、ここのおすすめはオリジナルブレンドだそうだ。なんでも飲むとそのときの気分によって味が変わるって聞いたんだ。おまえもそれでいいか?」

「あ、あぁ」

 悠人の話は半分しか耳に入っていない。

「あ、すいません。ここのオリジナルブレンドってやつを二つもらえますか?」

「あ、はーい」

 かわいらしい声だ。このとき、オレの頭の中ではこんな光景が浮かんでいた。さっきの女の子と、湖の畔の別荘のテラスでコーヒーを飲んでいる。オレはすでにプチリタイヤして、優雅な生活を送る身。特にあくせく働かなくてもそこそこの収入が入ってくる。

「おい、竜太郎。おまえまた空想してるのかよ?」

 そう声をかけられて我に返った。

「空想じゃねぇよ。これはイメージ。こうやって潜在意識にイメージを落とし込むと現実になるんだぞ」

「はいはい、その話は聞き飽きたよ。そう言って三年も経つけど、おまえ何一つ現実になってねぇじゃねぇか」

 そう言われると身も蓋もない。いろんな本を読んだ。そしていろんなビデオも見た。その中でいわれている方法をいろいろとやってみた。けれどオレの理想とする世界は何一つ現実となっていない。三年前に立てたイメージでは、今頃オレは年収一千万円を超え、かわいい彼女がそばにいて、高級車を乗り回しているはずなのだが。本当にこのやり方でいいのだろうか? ふと不安に陥る自分がそこにいた。

「あの…」

 背中からそう声をかけられて振り向くと、さっきのかわいいウェイトレスがそこに立っていた。

「はい。あ、ごめんなさい。声がちょっと大きかったですか?」

「いえ、それはいいのですが。今、イメージを潜在意識に落とし込むって話が聞こえたものですから。お客さん、もしよろしければあちらの方の話をお聞きになりませんか?」

 ウェイトレスが指し示したのはカウンターの男性であった。

「こんにちは、君たちがとても興味深い話をしていたから、お節介かもしれないけれど話をさせてもらえないかと思ってね」

 くるりと振り向いたその男性。見た目はスマートで嫌みのないかっこよさがある。メガネをかけたその目は、とても優しく見える。

「こちらは羽賀さんといって、コーチングをやっているの。マスターと私の友達でもあるのよ」

「えっ、羽賀さんですか!?」

 悠人は驚いた顔をしている。

「おい、誰なんだよ?」

「バカヤロウ、羽賀さんといえばコーチングの世界でも有名な人だぞ」

「そもそもコーチングってなんなんだよ?」

「あはは、まだ知らないのも無理はないかな。ボクがそちらにおじゃましてもいいかな?」

「あ、はい、喜んで!」

 悠人の目はらんらんとして輝いていた。オレはその男性がどんな人物なのか知らないので、むしろうさんくさい目で見つめていた。

「あらためて、羽賀といいます。君たちがイメージの話をしていたので、とても興味が湧いてね」

 オレ達の話に入り込んで、失礼なヤツだ。だが悠人の次の一言で、それはとんでもない間違いだと気づかされた。

「羽賀さんって、あのみらいクリエイトの羽賀さんですよね」

「うん、そうだよ」

 うそっ! みらいクリエイト。これは願望達成のための手法で、自分がそうなった未来をありありとイメージすることで、そのための行動をいつの間にか起こしているというもの。セミナーを受講した人の声を聞いたことがあるが、とても楽しくてやる気が起きたということ。オレは残念ながらまだそのセミナーには参加したことがないのだが。まさかそのみらいクリエイトの創設者、羽賀さんとこんなところで出会えるとは。というか、パッと見た目はとてもそんな成功者には見えない。

「あのー、失礼ですが羽賀さんってみらいクリエイトで大成功をおさめているんですよね? もっとお金持ちの派手な生活をしているとばかり思ったのですが」

「おい、なんて失礼なことを言うんだ!」

 悠人にそうたしなめられたが、どうしてもオレはそこが疑問に思えた。だが羽賀さんは笑いながらこう答えてくれた。

「はっはっは、やっぱそう見えないか。でもこの格好の方が楽でいいんだよなぁ。それにボクは君たちが思っているほどお金持ちじゃないよ。このカフェ・シェリーでコーヒーを飲むのが唯一の贅沢だからなぁ」

「あら、ここに来るのってそんなに贅沢だったんだ。ならもうちょっとサービスしてあげるね」

 ウェイトレスの女の子はそう言って羽賀さんにクッキーを一枚プレゼント。

「羽賀さんっ!」

 オレはなぜか羽賀さんに質問したい衝動にかられた。

「オレ、思考は現実化するってことでいろんな本に書かれていることをやっています。欲しいものをコルクボードに貼って毎日見ていますし。そうなるってイメージをしっかりと頭の中でつくっています。もうそれを三年もやっているのに、未だに実現したものが一つもないんです。これって何か間違っているんでしょうか?」

 オレは真剣に羽賀さんを見つめた。後から悠人に聞いた話だが、このときのオレはまるで目の前の羽賀さんを脅迫するくらいの勢いだったそうだ。だがその羽賀さんはオレの勢いに押されるどころか、それを笑顔で受け止めてくれた。

「そうか、君も多くの人が悩んでいる壁に当たっているんだね。おっと、そういえばまだ名前を聞いていなかったね」

「あ、オレは木下竜太郎といいます。こっちは飯島悠人。高校からの腐れ縁です」

「竜太郎くんに悠人くんか、よろしくね。で、さっきの質問だけど、これは多くの人がぶち当たる問題なんだよなぁ。ってか、みんな思考は現実化するって意味の本質にたどり着いていないんだよ」

「そうなんですよ。私は羽賀さんのおかげでそれがわかったから、今ここにいるようなものですよ。はい、シェリー・ブレンド二つ、どうぞ」

 そう言ってマスターが会話に参入してきた。

「あ、どうもありがとうございます。ところでそれってどういう事なのですか?」

 オレはマスターからコーヒーを受け取る。今はコーヒーよりもマスターの話が気になる。

「まぁ私の話よりも先に、コーヒーをどうぞ」

「は、はぁ」

「おぉっ、そうだそうだ、まずはシェリー・ブレンドを飲んでもらわないとなぁ」

 羽賀さんは急にノリノリの口調で私たちにコーヒーを勧めてくれた。

「では…」

 そうしてコーヒーを口に含む。この瞬間、何かがオレの頭を横切った。なんだ、この感覚は。それを確かめるために、もう一口。

「ん、んーっ」

「どうだったかな?」

「なんだかわからないけれど、すっごい大きな何かが頭の中を横切った感じがしたんです。それが何かはわかりませんけれど」

 オレはそう答えた。それに対して悠人の答えはこうだった。

「そうかぁ、オレはなんだか温かいものを感じたけどなぁ。家庭的な感触だったぞ」

「そうか、悠人くんは今家庭を欲しがっているんだね」

「えっ、いやぁ、わかりますか」

「シェリー・ブレンドは今自分が欲しがっているものを味で表してくれるんだよ。竜太郎くんは大きなものが頭を横切ったって言ったよね」

「あ、はい、そうです」

「これについてはどう思うかな?」

 羽賀さんからの質問にオレは頭を悩ませた。今欲しいものを表してくれる。ということは今オレは大きなものが欲しいということになる。

「大きなもの…オレ、大物になりたいんです。そしてもっとお金を稼いで、リッチな生活をしてみたいです」

 口から先に自分の思いが出てきた。このときしまったと思った。こういう話をすると、いつも周りの人は「そんなの無理だ」「身分相応の暮らしが一番だ」などと言ってくる。この話ができるのは目の前にいる悠人くらいなものだ。

「そうか、竜太郎くんの夢はでかいなぁ。すばらしいっ!」

 えっ!? オレは羽賀さんの言葉にびっくりした。今までそんなことを言われたことはなかったからだ。

「ほう、なかなかいい夢を持っているじゃないか」

 マスターまでそう言ってくれた。

「男の夢はそのくらいでっかくなくっちゃね」

 ウェイトレスの女性までもがそう言ってくれている。

「あ、ありがとうございます」

 なんだか照れくさいけれど、とてもいい気分だ。

「でもそこまでなかなかたどり着けない。いろんな本に書かれてあるとおりのことをやっているのに。そういう状況なんだね」

「あ、はい、そうです」

 羽賀さんの言われたとおり、何をやってもそこに近づいているという実感がない。

「私も同じでしたよ。けれど、羽賀さんに出会って、そして羽賀さんの言うとおりにしたらすべてがかなってしまいました。この喫茶店もその一つです」

 マスターがカップを磨きながらカウンター越しにそう話してくれた。

「あはは、ボクが何かをしたわけじゃないよ。ただみんなが見失いがちなところをお話ししただけだよ」

「それって何ですかっ!?」

 オレは羽賀さんに思わず言い寄ってしまった。

「そうだなぁ、これはボクよりもマスターが話してくれた方がいいかも。リアルな体験談を通した方が頭に残るだろうからね」

「またぁ、羽賀さんはすぐそうやって人に頼るんだから。まぁいいでしょう。羽賀さんの頼みは断れませんよ。じゃぁこちらにいらしてください」

 マスターの手招きでオレと悠人はコーヒーを持ってカウンター席へ移動。そしてマスターを興味深く見つめた。

「あれは羽賀さんと出会ってすぐの時だったなぁ」

 マスターは遠い目をして語り出した。

「あのころは私も、今の竜太郎くんみたいに夢をでかく持っていたものだよ。お金を使って成功セミナーにも通ったしね。その反面、現実に目を向けるとストレスのたまることばかり。教頭や校長にはかなり不満を持っていたからなぁ」

「校長?」

「マスター、ボクと知り合った頃は私立の高校の先生をやっていたんだよ」

 マスターの言葉を羽賀さんが補足してくれた。

「マスターはどんな夢を持っていたんですか?」

「やはりリッチな生活は思い描いていたよ。夕日のきれいなマンションの最上階に住んで、夜景を眺める。そして趣味のコーヒーを極めるために喫茶店を開く。そこで友人と未来を語りながら、あくせく働くことなく自由で楽しい毎日を過ごす。けれど何一つそれは手に入れられなかったんだよ。羽賀さんに出会う前まではね」

 まるで今のオレの状態だ。

「それで、何がマスターを変えたのですか?」

 マスターの話にだんだんと引き込まれているオレがそこにいた。

「単純なことだったよ。羽賀さんから三つのことを教えられてね。それを意識しただけなんだ」

「三つのこと?」

「そう、この三つが今まで私に抜けていたことがわかったんだ」

「は、早くオレにもその三つを教えてくださいっ!」

 オレは自分に得になることなら何でも知りがたるタチだ。ここは貪欲にいかないと。

「まぁまぁ、ゆっくり話してあげるよ。その前に一つ聞いてもいいかな? 竜太郎くんは大物になりたいんだよね。それは誰のためかな?」

「え、誰のため?」

「そう、誰のため?」

 マスターにそう質問されて、少し頭を悩ませた。そんなこと、考えたこともない。それに自分のために決まっているからだ。自分の生活をリッチにすることで満足したい。それではいけないのだろうか?

 悩んで黙っているボクの心を見透かしたようにマスターはこんな事を言った。

「竜太郎くん、今こう思っているだろう。それはもちろん自分のためだ。けれどその答えは間違っているのだろうか、と」

「えぇ、その通りです。でもどうしてそれが…」

「これは私も同じことを思っていたからだよ。しかし残念ながらそれでは夢の実現はなかなかできない。どうしてなのか、わかるかな?」

「それは人の手助けをしないと周りが協力してくれないからでしょう。ネットワークビジネスの先輩がそう言っていましたよ」

 横からそう言ったのは悠人である。

「何事も一人では実現できない。周りの人が夢の実現のサポートをしてくれるって」

「今、悠人くんが言ったとおりだ。私も羽賀さんにこのことを気づかされるまでは、自分のことしか考えていなかったよ。いや、人のことを考えていたつもりだったけれど、結局は自分のことばかりだったというのが正解かな。その証拠に、誰かに喜ばしいことが起きたら、表面ではおめでとうと言っているのに心の奥ではねたんでいる自分がいたんだよ。その意識を変えるのには時間がかかったけれど、今では心から相手におめでとうを言えるようになったよ」

 その言葉を聞いてズキンときた。まさに今のオレが昔のマスターの状態だからだ。誰かにいいことが起きたら、おめでとうの言葉すら言わない自分がいる。それどころか陰でねたみの悪口を、酒を飲みながら愚痴っている自分がいるのだ。そんなことでは誰もオレに手助けなんかしてくれない。この一撃は自分にかなり大きなものとなった。

 ここで羽賀さんがこんな質問を。

「二人は働くっていう本当の意味を知っているかな?」

「え、働くの意味ですか?」

「働くとは『はたを楽にする』、つまり周りにいる人を楽にするという意味がある。何のために働くのか。その本当の意味を感じながら働いている人が果たしてどのくらいいるだろうね」

 オレは黙り込んでしまった。そもそも働くという事に対しては、どちらかというと嫌悪感を持っていた。だからこそ、権利収入を得て働かなくてもいい生活を夢見ていたのだ。どうやら悠人も同じ思いを持っていたみたい。

「マスター、そろそろ二つ目をよろしく」

「そうですね。二つ目は結果を恐れないこと。これは羽賀さんに言われて一番ハッとしたものだよ」

「そうそう、マスターあのころよくグチグチ言ってたもんね。本当にそんな自分になれるのかなぁって。そのたびに私が大丈夫だって言ってあげてたもんね」

 横から口を出したのはウェイトレスの女性。

「あはは、あのころはマイに助けられてたなぁ」

 あ、マイさんって言うんだ。でも今のせりふからすると、マスターとマイさんって単なる雇い主と従業員の関係には思えないのだが。

「マスター、学校の先生やりながらも喫茶店やりたいって夢を持ってたじゃない。でもすぐに現実に引き戻されてたよね。やっぱり資金が、とかこの業界はなかなか難しい、とかすぐに弱音吐くんだから。そんなこと考えてたら、夢なんて実現しないよって私がさんざん言ってたのに、羽賀さんが同じようなこと言ったら素直にそうだって納得しちゃってさ」

「まだ大学生だったマイが言うのと、その道のプロの羽賀さんが言うのとじゃ言葉の重みが違うんだよ。とはいえマイにはいつも助けられてるけどね」

「まぁまぁ。ボクがあのときマスターに伝えたのは今の通りなんだ。竜太郎くん、ひょとしたらこんな毎日を送っていないか? 毎日自分の目標を掲げたものを見ながら、いつかはこうなってやると思っている。けれど仕事に出たら、こんな事やっていて本当にその夢に近づけるのだろうかと不安になってしまう。その繰り返しだ。どうかな?」

「え、えぇ、言われてみればその通りです」

 これについては反論できない。まさにその通りの生活を送っていたからだ。

「それは進もうとしてはブレーキ、進もうとしてはブレーキを繰り返していることになる。せっかくイメージしても、自らそのイメージを壊しているんだ。だからそこにはたどり着けない。たったそれだけのことだよ」

「じゃぁ、マスターがさっき言ったように結果を信じていればいいんですか?」

「信じるも何も、そうなりたいんだろう? じゃぁそうなると決断することだ。今竜太郎くんの中では、単なる願望にすぎない。私はこうなる、という決断をしないとそうなるなんてことはないんだよ」

 決断。この言葉は今のオレにズシリと感じた。

 今羽賀さんが言ったとおり、オレはこうなりたいという願望だけを振りかざして、そうなろうという決断をしていなかった気がする。夢ばかりを語ってもダメなんだ。そうなると心に決めなければ、それは文字通り夢物語で終わってしまう。

「マスターもある日、この喫茶店をやろうと心に決めたときから奇跡が起き始めましたよね」

「えぇ、そのとたんある方から喫茶店を始めないかと声をかけられたんだよ。実はこの店は以前は別のオーナーが喫茶店をやっていてね。いろいろと事情があって手放そうと思っていたんだ。けれど話がまわりまわって私のところに来てね。かなりいい条件だったので、私は先生を辞めてここをやろうと決意したんだよ」

 そんなことがあるんだ。単なる夢で終わらせない。そのためには決断が必要。そしてそれを否定せずに思い続けること。オレは頭の中でもう一度その言葉をかみしめるように復唱した。

「でも、ホントにそんなに自分にとって都合のいい話ってやってくるんですか? そんなの、よほど運のいい一部の人だけの話じゃないですか」

 悠人が突然そんなことを言い出した。

「あぁ、確かにほんの一部の人だけの話だよ」

 羽賀さんは平然とした顔でそう言い放った。ほんの一部の人だけのこと、ということはオレたちはそうならないということなのか? オレがそのことについて食ってかかろうと思うより先に、悠人の言葉の方が先に出た。

「じゃぁなんですか、運のいい人じゃないオレたちはそうならないってことじゃないですか。なんだ、つまんねぇっ!」

「ははは、話は最後まで聞くものだよ。君はよほど運のいい一部の人だけ、と言ったよね。だからボクはその通りだと言ったんだ。その運をつかむ方法を今ボクから聞いている。そうじゃないのかな?」

「その一部の人に君たちも入りたければ、羽賀さんの話を最後まで聞きなさい」

 マスターが険しい顔でオレたちにそう言った。まるで学校の先生に怒られているような気分だ。そういえばマスターは昔学校の先生だったな。

「私もね、羽賀さんの話を聞いて納得できたんだよ。君たちはまだ三つのうち二つしか聞いていないだろう。三つとも聞けば、その一部の人間になるには何が必要なのかわかるはずだ。だから最後まで話を聞きなさい」

「は、はい、わかりました」

 先ほどの勢いはどこへやら、悠人は急におとなしくなった。オレも気持ちの上では悠人と同じだ。

「じゃぁ三つ目を伝えよう。その前に、思考は現実化するという言葉については十分理解していると思うが。ではこの喫茶店のメニューを見て、一つだけ欲しいものを心の中で選んでくれないか」

 なんだろう、それをおごってくれるのかな? そう思いながらもメニューを眺め一つ選んだ。オレが選んだのは、どうせだからと一番高いブルー・マウンテン。

「ではそれが欲しいと心の中で何度も唱えながらマスターに目で訴えてごらん」

 言われたとおり、オレはマスターをじっとにらんで心の中でブルー・マウンテンと何度も唱えた。ひょっとしたらマスターは人の心が読めるのだろうか?

 一分ぐらい経っただろうか。

「さて、ここで二人に問題です。このままで君たちが欲しいものが出てくるでしょうか?」

「そんなの無理に決まっているじゃないですか。なんかの手品ならともかく、念じただけで注文したものが来るわけないですよ」

「悠人くんの言うとおりだね。ではどうすることが必要なのかな?」

「そりゃ、口に出して注文しないと」

「そう、注文という行動がない限りはそれは手に入らない」

「はい、その通りです」

「なのに君たちは、心の中で念じていればそれが手にはいると信じている」

 頭を殴られたような感覚だった。オレは成功哲学の本を読み、願えばそれが叶うという幻想に浸っていた。いや、頭ではわかっていたのだ。何か行動を起こさないと何も変化はしないってことを。それがめんどくさくて、楽な方法をとりたくて。結果は今の通りだ。

「私もね、三つ目の行動の話を聞いたときにはかなりの衝撃を受けたよ。しかし振り返ると、自分の思いに対して行動を起こしたことは必ず叶っていることに気づいたんだ」

 先ほどオレたちを叱りつけた口調とは違い、穏やかにマスターがそう語ってくた。

「そもそも羽賀さんに出会ったのだってそうだよ。私もね、自己啓発セミナーに通ったりしてモチベーションを高く持つことはできたんだ。けれどセミナーから帰ってきてしばらく経つと元の自分に戻る。それを何とかしたいという思いの中で、コーチングというのを知ったんだ。そしてホームページを検索していたら羽賀さんを見つけて。すぐにメールを送ったんだよ。そしたら快く羽賀さんが会ってくれてね。それからのおつきあいでいろんな事を学び、そして実現してきた。これもあのときにホームページを検索して連絡を取るという行動があったからこそなんだよ」

「で、でも…」

 オレはとまどっている。

「なんだい?」

 羽賀さんの言葉に、オレは勇気を持って今の思いを口にしてみた。

「でも、何をしたらいいのかわからないんです。オレはお金をいっぱい稼いで、いい家に住んでいい車に乗って、リッチで優雅な生活を送りたい。けれどとてつもなくそれが大きすぎて、どうしたらそうなれるのかがわからないんです。行動を起こさなきゃとは思っています。でも、一体何から手をつければいいのか。ネットワークビジネスで成功をしている人がいるから、その人みたいになりたいと思っています。でもどうもネットワークビジネスの営業って苦手で…。体が動かないんですよ。動こうと思ってもイヤイヤになるし。もうどうしたらいいのか、何をしていいのかわからないんです」

 途中から自分でも何が言いたいのかわからなくなってきた。けれど今の心の奥の本音を言えた気がした。

「今の竜太郎くんの言葉、よくわかるよ。私も最初はそうだったからね。喫茶店をやりたい、だからといって何をどうすればいいのか全くわからなかったよ。けれど、羽賀さんのあの言葉を聞いたときにはとても納得できたんだ。だから今の姿がある」

「あの言葉って何なんですか?」

「それはね、願いが強ければ自然とその方向に体は動く、だよ。羽賀さん、例のあれをやってあげてくださいよ」

「あれですか。じゃぁ二人とも、両手を出して。そして手首にしわがあるだろう。そこを基準にして、手を拝むようにしてごらん」

 羽賀さんの言われたとおりに手を拝むように合わせてみた。一体何が起こるのだろうか?

「このときの中指の高さを覚えておいてね。では次に利き腕を出してそれを見つめて。そしてボクが言うとおりにイメージしてごらん。いくよ」

 オレは右手をじっとにらんで羽賀さんの言葉を待った。

「その手がだんだんと大きくなるよ。まるでグローブをはめたように手がふくれあがる。指も一本一本が長く長く伸びていく。特に中指がどんどん上に上に伸びていく…」

 オレは羽賀さんの言うようにイメージしてみた。なんとなく手のひらがブワっとふくれるような感覚がある。

「さて、どのくらい大きくなったのか、さっきと同じように比べてごらん」

 言われて先ほどと同じように手を拝むようにしてみた。すると…

「えっ、うそっ!」

 な、なんと右手の中指が第一関節の半分くらい高くなっているじゃないか。悠人も同じように目を丸くして驚いている。

「ははは、びっくりしているね。しかしこれは何のトリックもないのはわかるだろう」

「羽賀さん、どうしてこんなになるんですか?」

「竜太郎くん、これがイメージの力なんだよ。しっかりとイメージをすれば体は勝手に動く。逆を言えば、体が勝手に動かないようであればまだまだイメージの力が足りないということだ。もしくはさっき言ったように、せっかくイメージしてもそれをすぐに否定しているってことだ。イメージを否定するイメージを持っているから、体がその通りに『行動しない』という行動を起こしている。そういうことだよ」

 オレは体の中で何か電撃が走ったような気がした。このとき、無意識にすでに冷めてしまったシェリー・ブレンドに手を伸ばし、口に含んだ。すると、さらなる電撃が、いや雷が体に落ちたような衝撃を受けた。その直後、体が熱くなりエネルギーが爆発するような感覚を覚えた。まるで火山が噴火するような感じだ。そしてそのエネルギーが体を動かし始める。

「竜太郎、どうした?」

 悠人に声をかけられてやっと我に返った。

「いや、今すごい衝撃を受けた気がした。とにかく動き出さないと…」

 動き出さないと体の中が爆発して壊れそうな感じだ。

「竜太郎くん、どうやら目覚めたようだね」

「目覚めたって…羽賀さん、オレになんかしたんですか?」

「ボクは何もしていないよ。シェリー・ブレンドのおかげで君が今何をするべきなのか、それを内部から呼び起こしたようだね。君はもともとそれだけの力を持っている。けれど意志の力でそれを抑えていたんだ。望みはある、けれど結局自分はこんなもんだ。だからこのままでいいやって意志がフタをしていたんだよ」

 羽賀さんの言葉を信じてもいいのだろうか。けれど羽賀さんが今言った通りでもある。

「羽賀さん、竜太郎くんはエネルギーの使い方次第ではえらく大物になるかもしれませんね。今まで何人かにこういった話をしてシェリー・ブレンドを飲んでもらいましたけれど、ここまで熱さを感じた人はいませんでしたよ」

 マスターがそんなことを言った。なに、オレってひょっとしてそんなにすごいのか? なんだか心の奥からさらに力が湧いてくるような気がした。なんていうんだろう、今なら何でもできるって感じ。それも自分のためじゃなく、世の中の多くの人のために。けれど何をすればいいんだろう。動きたいけれど動けない。このジレンマが頭の中で渦巻いてもどかしい。

「羽賀さん、とにかく動いてみたいんです。でも何をすればいいのかわからない…」

「竜太郎くん、今は直感に頼ってみるといいよ。なんとなくでいい、これだと思ったことがあればそれをやってみて。理由はいらない。きっとそれが竜太郎くんの進むべき道になるから」

「はい、わかりました」

 そう言われて今度は期待感で胸がわくわくしてきた。その後、羽賀さんやマスターの体験談をいろいろと聞いて自分なりの成功というものを考えさせられた。最後はお金じゃない、喜びをどれだけ自分に与えられるか。それが成功ってヤツじゃないかな。

 そうしてオレと悠人はカフェ・シェリーを後にした。この日の帰り道、街角で募金活動を目にした。アフリカの恵まれない地域に学校をつくる、という活動のようだ。普段なら全く気にせずに通り過ぎるところ。しかし今日はなんとなく気分がいいし、小さな事でいいからと思って懐から小銭を取り出して募金箱へ入れた。

「ありがとうございます。これ、ぜひ読んでください」

 手渡されたのは手作りのパンフレット。これもいつもならすぐにゴミ箱行きなのだが、なんとなく手にしたまま家にたどり着いた。そして今日のことを思い出してみた。思考を現実化するために大事な三つのこと。人のためにやる、あきらめずに思い続ける、そして行動する。どれもオレに欠けていたものだ。でも何をすればいいのか。あらためてコルクボードに貼ってある自分の夢を眺めた。だがそこからは何のワクワク感も感じられない。そこに貼ってある夢、これは見せかけの自分をつくろうとしていた事に気づいた。ふぅ、一体オレは何をしたいんだろう。  何気なく募金の時にもらったパンフレットに目をやった。そこにはアフリカの恵まれない地域の現状、そして教育の場の必要性が書かれてあった。このとき、体の奥からなにか得体の知れないものが込み上げてきた。なんだ、この感覚は。でもどこかでこの感覚を味わったことがあるぞ…そうだ、シェリー・ブレンドを口にしたときのあのマグマが吹き出しそうになったあの感覚だ。

 それからパンフレットに書かれてあった携帯サイトへとアクセス。そこからさらに詳しいアフリカの現状を知ることができた。もっとこの情報が知りたい。明日、会社の帰りにインターネットカフェに寄ってもっと調べてみよう。気がつけば翌日からこのアフリカの現状を調べる日々が続いた。そして一つの思いが体の中をよぎっていた。


 あのカフェ・シェリーでの出来事から三ヶ月後。

「今までお世話になりました」

「まぁ君が選んだ道だ。この先がんばっていきなさい」

 職場の課長からそう言われ、オレは胸を張って会社を去っていった。そしてこれから行く先はアフリカ。青年海外協力隊の活動に応募したのだ。英語はカフェ・シェリーのマスターに個人的に教えてもらった。昔、高校の英語教師だったと後から聞いて、無理なお願いをいて個人レッスンをしてもらった。

 気がつけば自分でもなぜこんな行動をしているのかわからない。だってお金になるわけでもない、地位や名声を得られるわけでもない。ただ、なぜだか動きたくなった自分がいた。だから必死になって動いてみた。そして動いてみてわかったこと。自分がこれだと思ったものに素直に従えば、なんでもできるんだ。そして人のために働けるというよろこびが自分への最大の報酬なんだ。

 今までの自分は何だったのだろう。もうあんな思いはしたくない。これからは自分の思った道を進んでいく。自分で選んだ自分の道を。

 その道を歩み出すのは明後日。いよいよ海外青年協力隊として日本を発つ。その前にお世話になったカフェ・シェリーにあいさつに行かなきゃ。

「こんにちはー」

「おぉ、竜太郎くん、いらっしゃい」

 オレが今日伺うことは事前に伝えてあったからだろう。羽賀さんも来てくれていた。

「竜太郎くん、今の気分はどうだい?」

「はい、三ヶ月前の悶々とした気分とは違って、なんだかとてもすっきりしています。あのころは何でもいいから大物になりたいって思っていたけれど。でも大物って金持ちの事じゃないんですね。今はアフリカできちんとした教育体制が整えられるようなことに携われる。その喜びが自分の気持ちを大きくしてくれたと思っています」

「そうか、今は自分がやってみたいと思うことに打ち込んでごらん。それは間違いなく人のためになるし、そして最後は自分に返ってくるよ」

「はい、がんばります!」

 このときの言葉がまさか五年後に実現するとは。

 五年後、オレはいろいろな人の支援を受けてアフリカの現状を伝える本を出した。その本が社会的な影響を及ぼし、一躍時の人に。だがオレはそれに甘えずにさらに多くの人に支援をもらえるよう活動を続けた。フェラーリはなくても、大豪邸じゃなくても、オレは人生を満足できる大物になれた。

 あのときのカフェ・シェリーの出会い、これは一生の宝として心に残るだろう。


<目指せ!大物 完>

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