08
「帰る……?」
『ロゼがこの世界に戻って半年……ひかりが向こうの世界から消えた時間が来るわ。それに合わせてあなたを元の世界に戻せるの』
「それは……」
「駄目だ!」
話を聞いていたユークがルーチェを強く抱き寄せた。
「ルーチェは私の妃だ! 戻るなどありえない!」
「殿下……」
『二百年前の王妃はいつも元の世界に帰りたいと泣いていたわ。家族に会いたいと』
セレネはユークを見た。
『私は彼女の望みを叶えられなかったのが心残りだった。もしもひかりが同じ事を望んでいるのならば叶えてあげたいの』
「――ルーチェ……」
ユークは不安そうにルーチェを見た。
彼と視線を合わせて、安心させるように少し目を細めるとルーチェはセレネを見た。
「……確かに、元の世界の家族に未練がないと言えば嘘になります。でも、この世界にも大切な人たちがいます」
セレネを見つめてルーチェは言った。
「どちらがより大事とは選べませんが……私はルーチェとしてこの世界で生きていきます」
『この機会を逃したら二度と帰れないわ』
「――はい、大丈夫です」
『そう……分かったわ』
セレナはふっと表情を緩めた。
「……ああ、でも」
ルーチェは思い出したように言った。
「もしも叶うならば……向こうの世界の、私と雫の家族に伝えたいです。私たちは遠く離れた場所で幸せに暮らしていると」
それはロゼとルーチェが再会した時にロゼが泣きながら望んだ事だった。
『分かったわ』
セレネの身体が光を帯びた。
『ひかり……いえルーチェ、ロゼをお願いね。もう魔力が暴発する事はないでしょうけれど』
今回の暴発でロゼの魔力はだいぶ減り、セレネがロゼから離れれればより安定するだろう。
「はい」
『――あなたたちの幸福を祈っているわ』
かつて魔力を分け与えた者たちの子孫を見渡したセレネの身体が光を帯びた。
「ロゼ!」
光が消えて黒髪に戻ったロゼの身体が大きくふらつき、ヴァイスは慌てて抱きとめた。
魔力が暴発したばかりのロゼがセレネに身体を貸す事は相当な負担になると聞かされていたが、彼女がルーチェに抱いている罪悪感を少しでも減らして欲しくて身体を貸したのだ。
ルーチェならばこの世界に残る事を選ぶと思っていたが、やはり本人の口から聞いた方がよいだろうと。――また独りになってしまうセレネが負っているものを少しでも減らしてあげたかったのだ。
「……ヴァイス……さま」
ロゼはヴァイスを見上げた。
「ロゼ、大丈夫か」
「はい……でも……疲れてしまいました」
「――頑張ったな、ロゼ」
優しい口づけを受けながらロゼはゆっくりと眠りに落ちていった。




