04
「……!」
「何だ!」
突然激しい衝撃が身体を走り抜けた。
「今のは……」
「――ロゼが魔力を暴発させた……」
フェールは目を見開いた。
「何だと」
「西の方角だ……行くぞ!」
「……私も……!」
部屋から飛び出そうとするフェールにルーチェは叫んだ。
「君はダメだ」
フェールは立ち止まり振り返った。
「次期王妃を危険な目に遭わせる訳にはいかない」
「でもっ私の力が必要になるかも……!」
「すぐに連れて帰るから待っていてくれ」
そう言い残すとフェールとヴァイスは駆け出していった。
「……ロゼ……どうか無事で……」
彼女を守ると誓ったのに。
ルーチェはただただ祈るしかできなかった。
「この先だ……」
馬で西へと走り抜け、森の中をしばらく進んだ所でフェールが止まった。前方、木々の間から小屋のようなものが見える。
「先遣!」
ヴァイスの命令に、従っていた騎士が三名、小屋へ向かって駆け出した。
「あの中にロゼが……?」
「おそらく」
「団長! 馬車です!」
騎士の声に二人は急いで馬を走らせた。
小屋の傍らにはアルジェント家の紋章が入った馬車と、荷馬車が置かれていた。
「……ここで乗り換えるつもりだったか」
「協力者がいるな」
「例の商人か……」
馬車に繋がれたままのある馬は怯え、別の馬は興奮し、御者らしき男たちが倒れていた。
「……まさかロゼの魔力か」
「当てられたんだろう。……俺も昔魔力を暴発させた時にやらかした」
横目で彼らを見ながら、フェールは小屋の扉に手をかけた。
「お待ちください!」
「先に我らが……」
「中に起きていられる人間はいない、大丈夫だ」
制しようとする騎士たちを無視して扉を開く。
床には二人の男と侍女が倒れていた。
そしてベッドの上に横たわる……。
「ロゼ……」
フェールは膝をつくと意識のない妹の頭を撫で、キスを落とした。
それから首にそっと触れ……温かな体温と穏やかな脈拍に安堵の息を漏らす。
「この二人を縛って牢へ放り込め」
部下に指示すると、ヴァイスは床に倒れた侍女を縛る縄をナイフで手早く切った。
それからフェールの腕の中のロゼの縄も同様に切っていく。
「殴らなくていいのか?」
ディランともう一人の男が運び出させるのを見ながらフェールが言った。
「……殴るだけでは済まなくなる。ロゼの前で人殺しは出来ない」
感情を押し殺すと、ヴァイスはきつく縛られたせいで赤く跡が残る手首を手に取った。
「可哀想に……ロゼ……良かった……」
「――安心するな」
フェールはヴァイスを見上げた。
「ロゼの魔力を……意識を全く感じない」
「何……?」
「……魔力の暴発は……何を引き起こすか分からないんだ」
ヴァイスは茫然と固く瞳を閉ざしたロゼを見下ろした。