09
「もう一つ。過去ノワール家で特別な力を持った娘がいたか調べたいのだが」
ランドはフェールを見た。
「娘か……ロゼが生まれた時に、ノワール家に二百五十年ぶりに生まれた女子だという事は聞いたな」
「二百五十年だと?」
「ロゼの前は……」
フェールは別の本をめくった。
「これだな。名はカレン、ノワール家の初代色持ちの姉だ」
「初代の? 彼女は魔力を持っていないのか」
「それは書いていないが、銀色の髪に天青石色の瞳……五百年前のセレネと同じだな。二十歳で病死とある」
「病死か……それも怪しいな」
ランドは唸った。
「その頃の日記や記録はないか」
「探させよう」
フェールは部屋に控えていた侍従を呼ぶと指示を出した。
「あの、ランド様……」
ルーチェはランドに向いた。
「その五百年前のセレネという人が……女神と関係あるのでしょうか」
「そうだな、あるいは女神そのものなのかもしれないな」
「……そんな力を持っていた人間がいたと?」
五家の者たちに魔力を与えたり、ルーチェを異世界から転生させるような……人とは思えないほどの力を。
「彼女は死なないといったな」
ランドはロゼを見た。
「つまり今も存在している可能性がある」
「え……」
「その封印された場所が分かるといいのだが。ロゼ、心当たりはある?」
「……いえ……洞窟らしいとだけ……」
「領地の辺りは山が近いから、洞窟なら沢山ある」
フェールが言った。
「特に立入禁止や神聖視されているような場所は?」
「……それは父上か領地の屋敷の者に聞いてみないと分からないな」
「――それで、その五百年前のセレネが存在したとして。彼女が我々の先祖に魔力を与えたというのだな」
ヴァイスはランドを見た。
「その可能性が高い」
ランドは頷いた。
「何のために?」
「それは戦乱を終わらせるためだろう」
「自分を魔女と呼び、封印した者たちを助けるのか?ずいぶんと寛容というかお人好しだな」
「……まあ、何か事情があるんだろう」
眉をひそめたヴァイスに苦笑しながらランドは言った。
「フェール」
部屋に宰相が入ってきた。
「お前たちは何をやっているんだ」
「――ロゼの夢解きですよ」
「ロゼの?」
「幼い頃よくうなされていたでしょう。どうやらそれは五百年前の先祖に関わる事らしくて。……その箱は?」
答えて、フェールは宰相が抱えているものに目を留めた。
「お前が探させているものと関係あるかもしれないと思ってな」
「……魔力が?」
テーブルの上に置かれた古びた箱からは、かすかに魔力の気配が感じられた。
「これはノワール家の当主だけが開けられる箱だ」
「……中身は?」
「私も知らないが、初代の色持ちが残したものだと伝えられている」
「開けても良いのですか」
「――まあ、いいだろう」
ランドの問いに答えて、宰相は箱に手をかざした。
箱が光を帯びるとパチンと何かが外れるような音がした。
箱の中には一冊の本と小さな箱が入っていた。
「――手記のようだな。……お前の方が読むのは速いな」
パラパラと軽く本をめくってから、宰相は本をフェールに手渡すと、一緒に入っていた箱を手に取った。
布張りの小さな箱の中には天青石をあしらった一対のカフリンクスが入っていた。
「随分と手の込んだものだな」
周囲に銀色で細かな装飾の施されたそれは、数百年前のものとは思えない輝きを保っていた。
「……これは……」
本を読んでいたフェールが唸った。
「何が書いてある?」
「――初代の色持ちが、五家が魔力を持つに至った経緯について書いたものだ」
「何?」
「ランドの推測通りだな……」
フェールは息を一つ吐いた。
「長く続く戦乱を終わらせるために、姉のカレンを媒体にして……セレネの力を使ったらしい」




